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NC制作の景色 #6 『Vanishing Workflows』第2版を共同出版する【後編】
エルメス・シンガポールにて開催されたグザヴィエ・アンティンによる展覧会をもとに、Temporary Pressがつくりあげた『Vanishing Workflows』初版。幸運にもこの第2版の制作を担うこととなったNEUTRAL COLORS。11月23日から開催される東京アートブックフェアでの発表に先駆け、NCのウェブサイトでは予約販売が開始された。
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この無二の本の制作プロセスを振り返る記事後編では、繊細な作業を要する製本と仕上げについて、そしてアーティスト同士の対話を日本語訳した翻訳者のコメントなどをお届けする。
本番印刷はWindowsで。絶妙な網点を追求する
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網点の角度調整によりまるで印象派の筆触分割のような色彩で表現された花たち——前編でも印刷については少し触れたが、この花束をリソの網点でいかに美しく表現したか、追記しておこう。
印刷設定はテスト印刷時、簡易的にMacで行った。なぜか?理由は、リソグラフの設定はMacよりもWinが細かい設定ができる、からだ。3色や4色で細かく分解して出すのはWinでしかできない。実際、色味を細かく設定する必要のないNC本誌の場合は、Macでも十分に刷ることができる。
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印刷担当曰く、「網点の角度はテストの結果、明るいほうから15度、75度、45度に設定すると決めました」。これは初版のデータにはなく、NCが独自にテストの結果から導き出した設定だそうだ。例えばパープル、蛍光グリーン、メロンの3色の場合は、蛍光グリーン(15度)とメロン(75度)の2色を先に刷り、3色目に一番暗いブルー(45度)を刷る。紆余曲折を経て、ようやくこのやり方に辿り着いたのだ。
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使用した紙は、シンガポールのものとまったく同じ銘柄は日本にはないため、できるだけ似ているもので束見本を作って決定した。紙に関する情報は実物(初版)のみだったため、厚みなども手で触って、近しいものを選んだ。
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600冊を一つひとつ、手作業で綴じる
3週間にも及ぶ長い印刷工程にて、チェックや仕分け作業で目を酷使し、集中力をフル稼働させる制作チーム。
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そして、ようやく製本作業という最終タームに入る。印刷、仕分けが終わったものを機械で一気に丁合を…といきたいものの、半水性インクのリソグラフを機械にかけると微細な汚れがついてしまうため、丁合も手作業で行うことになった。
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「背を張り、巻きつける段階が一番難しい」製本担当の山城は言う。貼る紙の幅分を切り落とした厚紙を一緒にクリップで固定することで、背の紙の幅を一定に、そして誰が貼ってもズレることなく貼れるのだそう。そのままホチキス留めまでし、最後にクリップを外すので、ホチキス留めの位置も厚紙に記すという一手間もかけた。あとは、天地、小口側を断裁すれば完成だ。
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ギデオンとグザヴィエの二重奏のような対話
本書にはTemporary Pressのギデオン・ゴングと、展覧会『Vanishing Workflows』のアーティスト、グザヴィエ・アンティンによる対談が掲載されている。その英語から日本語への翻訳は、東京アートブックフェアの映像通訳でも活躍されていた深井佐和子さんに依頼した。コンセプチュアルで難解な表現が多く、「通常の日本語訳では対応しきれないアート文脈を理解した人をアサインする必要があった」と話す編集・加藤。
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深井さんは翻訳を振り返り、こう語ってくれた。
「本作品集が取り扱うグザヴィエ・アンティンの作品は、花の写真という伝統的なモチーフを流用しながら、ビットコインの自動システムを用いてまるでダンスのように優美かつテクノロジカルな空間を作り上げたものです。それは『加速』というテクノロジーに紐づいた既成概念に対するアンチテーゼとして存在する彼なりの『減速した空間』です。その彼の批評性ある美学的なアプローチが正しく伝わるように心がけました。
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ギデオンとグザヴィエの2人は対話しながらも、同時に何か言語外の詩的な哲学のようなものを交換しています。翻訳では、その二重の交換、言語と非言語の二つのレイヤーが二重奏のように読めるように配慮しました」
東京アートブックフェアにてお会いしましょう
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まもなくはじまる東京アートブックフェアに向けて、1冊ずつ丁寧に製本仕上げにはげむNC。スピーディーにできないのは、背を貼る作業がとても繊細な作業だから。ここで失敗はできないので細心の注意を払う。
この本に多くの時間と技術を投入してきた山城は、リソグラフでここまで綺麗な印刷が可能なのか、実物を手にとってみてほしいと言う。
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丁合作業中の編集・加藤に見所を聞く。
「写真では確認できない子細な色表現を実物で見てほしいです。網点の角度やパターンが見られるよう、ルーペを用意してお待ちしてます(笑)」
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Text: Rina Ishizuka
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