NC制作の景色#1 「オリジナル和紙誕生」
NEUTRAL COLORSは出版社である。ただそれだけではない。余り紙を再利用したり、紙自体を手漉きでつくったり、さまざまな紙プロダクトを生み出している。きっかけは山城さんが自主製作してきた1枚の手漉き和紙だった。その紙は、出版するだけから手作業を駆使して“何かを常につくっている人たち”へと変えた。第1回目はオリジナル和紙誕生秘話をレポートする。NC、今日もまた何かつくってるよ。
「物」になるまで関われるのが製本の醍醐味
NEUTRAL COLORSスタジオに溜まったヤレ紙(雑誌を製作する際に出るミスプリントなど)の山が、ふと気づくといつのまにかノートになっていたりする。仕掛け人は山城絵里砂さんだ。彼女に独特の立ち位置について聞いてみた。
「グラフィックデザイナーでもあるのですが、もともと本が好きで、大学生のころに製本の基礎を習い、友人とミニコミなどをよくつくっていました。ただ、そのときから機械製本でなく、100部ぐらいで手でできる製本方法を探したり試していたので、“自分で全てできる”くらいの規模感が自分には合っているのかもしれません」
ヤレ紙を使ったノートや再生紙などのNCグッズを考案し、制作する。そして編集部の動きを俯瞰するマネージャーでもあり、同時に進行するプロジェクトのタスクを整理し、リソグラフ印刷や製本でできることを提案・実行する。こんな具合に、山城さんの仕事の幅は多岐にわたる。
「デザインの仕事は“物”つまり本という最終形になるところまでは関われず、割と早い段階で自分の手を離れてしまう。一方の製本の仕事は、“物”になる過程に携われることが楽しい」
ヤレ紙を昇華させたら
彼女のものづくりのプロセスは直感的だ。頭のなかにアイデアが浮かぶとまず試作し、量産できるかどうか見極め、設計を詰めていく。「普段も、自分が好きな『物』を見た時に、これが紙でできるならどういうつくりにするか?と考えたりします」
NEUTRAL COLORS第4号には、カラフルなヤレ紙が散りばめられた1枚の特注和紙「NC和紙」 が挿入されている。美濃和紙職人の千田さん(特集「そうだ、紙をつくろう」に登場)の手によるものだが、実はこれも、山城さんの“紙を違う次元のものへ再生させる”アイデアが具現化したもの。
「NC創刊当時はそれほどグッズもなく、ヤレ紙がたくさん余っていたので、そのまま使うのでなく、紙を再生して新しいものができないかなと思ったのがきっかけです。紙漉き用に溶かしたヤレと、シュレッダーで刻んだものを混ぜて、誌面が少し分かるように紙漉きをしていました」
このヤレ再生紙の試作が発端となり、NC和紙が生まれたのだ。昨年、取材チームと共に美濃を訪れた山城さんは千田さんの工房で紙漉きも体験したが、思った以上に体力の要る仕事だと感じた。自分の手でできる範囲にするには何が必要なのかを自問したそうだ。
「NC NOTE」の制作ストーリー
試行錯誤を重ね、ようやく手応えを感じ始めたプロジェクトが、本誌のミスプリントをリユースし商品化した「NOTE」シリーズだ。機械と手作業を組み合わせ、リング製本、ミシン綴じ、無線綴じ、ノリ綴じと、毎回製本方法を変えながら、これまで5つのシリーズを商品化してきた。
初めてつくった「NC NOTE #1」は小ぶりのサイズゆえに、ほとんどヤレ紙が消費できなかった。その後のシリーズでも、想定していたより工程が長く量産には向かないといった課題や、制作コストにも向き合うことに。始めた当初は原価を考えず、つくってみたいものをじっくりと製作していたが、ただ「安い」ことが自分のためにもNCのためにもならないと気づく。
「NC NOTE #4、#5をつくりはじめるタイミングで、コスト計算をしはじめて、価格も見合うようにこれまでより少し上げてつくりましたが、自分の心配以上に売れ行きは良く、製品として魅力があれば金額はそれほど大きな問題ではないと感じました」
NC和紙の広がる可能性
これからやりたいこと
NEUTRAL COLORSはただ自社出版物をつくる場ではなく、本をつくりたい人とオープンに交わり、化学反応を起こすことも見据えている。ノート制作や和紙づくりなどのワークショップの実施や今後の展望についてどう思っているのだろう?
「NC NOTE #1のワークショップをやってみたのですが、楽しく、広がりのあるイベントだと思う反面、初めてきた方に短時間で製本を楽しんでもらう、というのが想像以上に難しかったです」。紙漉きも完成までに時間がかかるため、ワークショップについてはもっと精査が必要だと感じているようだ。
そんな彼女の少し先の未来構想は、NC和紙を活用した家具制作だ。ヨーロッパでの廃棄された服を刻んで固め、ブロック状にして家具をつくるプロジェクトを目にし、「素材開発の方向にはなるが、いつかこれをNC和紙でやってみたい」と目論む。手に収まっていた紙プロダクトのアイデアが、家具となって空間に広がっていくーーどんな内装空間が生まれるのだろうか。
「箔押し機、かがり綴じ機、シルクスクリーンの製版機、そして紙もたくさん買いたいです。場所とお金があれば道具は無限に欲しいですね。NCでいろいろ実験しながら、できることを増やしていきたいです」
Text: Rina Ishizuka