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糖尿病性神経障害で頚髄神経根と神経叢に障害がでることがある:diabetic cervical radiculoplexus neuropathy の臨床的特徴

はじめに
糖尿病の患者さんでみられるDiabetic lumbosarcal radiculoplexus neuropathy(DLRPN)は、虚血性障害と微小な血管炎によって発症する、亜急性で疼痛を伴う非対称性の下肢末梢神経障害としてしられています。頚髄でも同様に糖尿病性にradiculoplexus neuropathy を発症することが指摘されており、Diabetic cervical radiculoplexus neuropathy(DCRPN)といわれています。ただし、その臨床的特徴として腰仙髄領域の神経障害と同様でよいのか、不明でした。
今回、DLRPNと比較しその特徴について報告している論文を読みました。
1996年から2008年までのMayo Clinic database で、DCRPN と診断した患者85人を、DLRPNと診断した患者群と比較した論文です。



年齢
85人のDCRPNは、56人が男性で、67人が2型糖尿病と診断されていました。年齢の中央値は62歳でした。
主要な症状
疼痛が主な症状で、初診時所見としては筋力低下(84/85)、疼痛(69/85)と感覚障害(56/85)が主にみられていました。Motor neuropathy impairment scoreの中央値は10点とmoderate で、follow-up で軽度改善を認めています。
DLRPNと比較し、発症はacute で1週間で症状のピークに達するとあり、かなり急激にすすむようでした。
解剖学的部位
病変部位として腕神経叢障害については、upper, middleとlower で同程度の比率で障害されており、pan-plexopathy は一般的ではないようです(25/85)。半分の患者(44/85)は、少なくとも他の領域も障害されていた(30: 対側のcervical, 20: lumbosacral, 16: thoracic)。再発もあり、再発率は18/85と報告されていました。
神経生理学的検査:
軸索障害が認められ、自律神経障害、感覚障害にまで及んでいました。
髄液検査/画像検査
髄液では蛋白上昇がみられており(中央値 70mg/dl)、MRIで腕神経叢での異常がでていました。
神経生検
軸索変性、多巣性神経脱落、部分的な神経周膜肥厚や障害性神経種などの虚血性障害が示され、また血管炎の所見が報告されていました。

以上から、DCRPNは、
① 主に単層性の経過で、上肢に発症する糖尿病性抹消神経障害で、疼痛で始まりその後に筋力低下を発症する。運動系、感覚系と自律神経障害を巻き込む障害である。
② 部分的に発症し、多巣性に両側性へと拡大することがある。
③ 病理学的には虚血性障害が主体で、特に微小な血管炎から発症すると考えらえる。
④ DLRPNと同様の部分が多く、diabetic radiculoplexus neuropathy のspectrumとしてまとめることができるかもしれない。

私の見解
糖尿病性末梢神経障害の病理との比較も報告されており、diabetic radiculoplexus neuropathy の病理では神経周囲の血管の炎症がより高度に認められていました。採血結果で2割程度は非特異的な炎症反応の上昇や自己免疫系の陽性が認められていることからも、なんらかの炎症性もしくは自己免疫性の要素があるのかもしれないと感じました。自己免疫疾患の末梢神経障害としてのCIDPが糖尿病合併が多いこともそういった背景を疑いたくはなるのですが、結論は難しいと思いました。
また、似た神経障害として神経痛性筋萎縮症では、臨床的にはなんらかの物理的な刺激や過度な負担が引き金になっていることが多いように思われますが、今回と同様の機序があるのか、不明な点がまだまだあると思いました。



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