吉野家の常務に思うこと
1.何が起こったのか
吉野家の常務取締役だった伊藤正明氏が、4月16日(土)に早稲田大学で行われた社会人向け講座「デジタル時代のマーケティング」に登壇。「不適切な表現で不愉快な思いをする方がいたら申し訳ない」と前置きしつつ、「田舎から出てきた右も左も分からない若い女の子を無垢、生娘なうちに牛丼中毒にする」といった趣旨の発言。受講者による証言がSNS上で拡散され、「女性差別だ」と批判が殺到。
<吉野家>4月18日付で、取締役及び執行役員を解任
<早稲田大学>「講座担当から直ちに降りていただきます」とし、講師を解任した。
2.マーケティングステイトメントとしての価値
ターゲットカスタマー:地方出身女性
時間軸:都会に慣れて、男にご馳走してもらう前
目的:美味しい牛丼を分かってもらい、来店頻度を高める
この3つの要素がしっかり表現されているし、何しろこの考え方のもと色々な施策を展開し、今まで男性客ばかりだった吉野家に女性顧客を呼び込むことに成功した伊藤氏。価値がないとは誰も言えない。
3.ウチとソト
<ウチ>
なにも日本だけではなく、会社の内部には本質を追求してシンプルに社員が分かりやすく動けるようなメッセージや指示があります。表現が下品だったり、公平性を欠いていたりして、一般社会から悪い印象を持たれるものもあるかもしれません。でも、企業は政府のような公共サービス機関ではないので、ターゲットを絞りマーケティングを展開するのは当然。そこに、経営者の信念や先入観が入るのも当たり前。
<ソト>
一方、メディアや一般消費者向けに耳障りの良いことばかりを会社は羅列します。吉野家の場合、「美味しい牛丼を、より多くの人たちに」といった具体でしょうか。
4.大学でのゲストスピーカー
大学教員は教育者ですから、たとえビジネススクールの教員だとしても偏見を教室に持ち込んではならないと考えます。ただ、今回は、学部生ではなく、社会でマーケターとして活躍している(したいと考えている)人たちが早稲田に40万円もお金を払って集まり、第一線で活躍しているマーケターから話を聴く機会。<ウチ>の話と<ソト>の話、どちらに40万円の価値があったでしょうか。
土曜日に教室にいって、吉野家からSDGsのきれいごとでも聴きたかった人がいるでしょうか。
5.課題
シャブ漬けという発言は良くなかった。ただ、せっかく「ここだけ」の話がきける機会だったのに、女性差別という正義をかざして、ツイートした人、かなりの機会損失を周りに与えたと思う。この人のせいで、これからのスピーカーセッションが保守的になってしまい、本音が語られなくなってしまう可能性がある。せっかく、マーケターは学生たちを仲間(ウチ・同業)だと思っていたにも関わらず。
募集要項を読んだら、先着順で誰でも入れたもよう。極端なフェミニストや平等主義者でないかぎり、しっかり社会でマーケティング経験を積んでいる人であれば、外部に向けて大騒ぎしなかったのではないかと思う。ウチとソトの論理を理解しているから。教室内での議論の質を高めるためにも、早稲田は受け入れる受講者の選考をすべきだったのではないか。
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