The Neural Basis of Loss Aversion in Decision-Making Under Risk
勝つか負けるか50/50のギャンブルを、人はやりたがらない。少なくとも利得が損失の2倍はないと、やらない。つまり、50%の確率で100ドル得るか、50%の確率で50ドルを失うか。これは、プロスペクト理論の価値関数の通り。さらに、損失回避の傾向は、子供・大人そしてサルも含め、霊長類の脳の共通した基礎的特徴といえる。
これまでの神経画像解析による研究は、即座の金銭的利得・損失に集中してきた。それは期待される効用もあり、経験を通じた効用もあった。しかし、意思決定をする時にどのシステムが損得を担っているのかについてはあまり研究されてこなかった。行動科学の研究さたちは、期待効用・経験効用・決定効用が劇的に異なると主張している。これは、それぞれに関わる脳のシステムも異なる可能性を示唆している。
私たちは、ギャンブルの即座の結果という要素を切り離して、ギャンブルをする/しないの意思決定のみを対象とすることにした。これにより、潜在的な結果を評価するプロセスと、期待・経験するプロセスとで似ているのかどうか考察することができる。
最初の疑問は、損失を想定した時に、感情プロセスの関与が明確に存在するのか否かということである。損失に対してより敏感であることは、負の感情の作用によるものだと考えられている。これが正しいとするならば、潜在的な損失が拡大するなかで負の感情を司る脳領域が活発になべきである。例えば、扁桃体(amygdala)や前島(anterior insula)などである。代わりに、客観的な価値を判断する左腹内側前頭前野(ventromedial prefrontal cortex, vmPFC)、眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex, OFC)、腹側線条体(ventral striatum)などが活発になっている可能性もある。
まずは決定効用を観察するため、50/50のギャンブルをするかどうかfMRIを用いて実験を行った。被験者はそれぞれのギャンブルに対して、とてもやりたい/まあまあやりたい/あまりやりたくない/絶対にやりたくないの4段階で評価をしてもらった。利得は2ドル刻みで10ドルから40ドルまで。損失は1ドル刻みで5ドルから20ドルまで。人は損失に対して利得の2倍敏感であるという研究結果に基づいている。被験者には実験の1週間前に30ドルを手渡し、結果によって本物の現金を手渡すことを約束した。
利得と損失を独立変数として、被験者の意思決定(やる/やらない)とのロジスティック回帰分析を行った。リスク回避係数λの中位数は1.93で、範囲は0.99から6.75だった。(大きい方がリスク回避的)この結果、被験者が無差別(indifferent)と考える基準は利得が損失の2倍の選択肢だった。これは先行研究の結果と符合している。
我々は最初に、脳のどの領域の活動が潜在的利得・損失と相関しているか確認すんするため、パラメトリック回帰分析を行った。
利得と相関のあった領域は、左腹内側前頭前野(ventromedial prefrontal cortex, vmPFC)、ventrolateral PFC、前帯状皮質(anterior cingulate cortex, ACC)、眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex, OFC)、ドーパミンに反応する中脳領域だった。利得の増大に伴って、不活発になる領域はなかった。
もし損失回避が恐れ、警戒心、不快など負の感情によって引き起こされているとするならば、想定損失の拡大に伴ってそれらの感情を司る領域が活発になると想定できる。結果、想定とは逆で、それらの領域は、潜在損失の拡大に伴って活発になることはなかった。代わりに、vmPFC、ventral ACC、medial OFCの活動が弱まった。これらは、利得を処理していた領域と重なっている。
損失に関する反応が正の期待値によって影響を受けていないか確かめるために、我々は最悪のギャンブルと最高のギャンブルで実験をした。最悪のギャンブルは利得が10ドルから16ドルで、損失が17ドルから20ドル。最高のギャンブルは利得が34ドルから40ドルで、損失が5ドルから8ドル。全領域において、最悪のギャンブルと最高のギャンブルとで有意な差を示した領域はなかった。
先行研究において予測されていた、扁桃体(amygdala)や島皮質(insula)における損失に関わる活動について調べるため、それらの領域に絞って実験を行った。
続いて、意思決定の際の脳の個体差は、行動の個体差に影響を与えるのかについて実験を行った。これは想定していなかったことだが、より顕著な損失回避行動は、損失に対する神経の感度だけでなく利得に対する感度に起因していることが分かった。
感覚運動野(sensorimotor cortex, SMC)と前頭葉上部(superior frontal cortex)と利得の増大は顕著な相関を示した。一方、損失が大きくなるに伴い、損失回避的な被験者の脳は次の領域でより急速に不活発になった。vmPFC、ventral ACC、medial OFC。
損失回避姿 刺激に対する心理的反応が弱まっている人は、利得・損失に対して弱い神経反応を示し、その結果として損失回避姿勢も弱い。
左腹内側前頭前野(ventromedial prefrontal cortex, vmPFC)、線条体(striatum)と利得・損失に対するコンジャンクション分析をおこなった結果、神経的損失回避パターンを示したことが分かった。神経的損失回避パターンとは、増大する損失に対する活動の低下は、増大する利得に対する活動量の増加よりも大きいということである。神経的損失回避と行動的損失回避の関係性をより直接的に検証するため、全領域における回帰分析を行った。神経的損失回避と行動的損失回避は次の領域で顕著な相関がみられた。bilateral lateral
などが活発になっている可能性もある。
神経科学を基礎としたリスク下の意思決定において、デ・マルティーノらによる研究によれば扁桃体の活動が明確な損失とおよび利得と相関関係にあったことがわかった 。しかし、明確ではない確率を伴うギャンブルは、プロスペクト理論を反映していた。扁桃体はリスク下の意思決定に関わっているものの、損失回避における重要な役割を果たしていないと考える。
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