#27 遅刻してしまう人と5分前行動をする人の脳の違いとは?【ニューロ横丁9軒目:発達障害③】
発達障害について2回にわたってお話してきましたが、発達障害はいまだに解明されていないことがたくさんあります。
では実際に、どのようなことが分かっていなくて、どのようなことを解明していかなければいけないのでしょう?今回も発達障害について深掘りしていきます。
発達障害について解明されていることの現状とは?
発達障害については、解明されていないことがたくさんあります。似ている症状を持つ人たちがいて、本人たちは生きづらさを感じて、困っている現状があるのですが、一体何がどうなってそのような症状が生まれていて、どんな種類の病気があって、何をすれば治るのかということが分かっていません。
なんとなく診断基準の中で、人との関わり方に問題があったり、同じことばかりやり続けて、こだわりが強いのであれば、ASDの気質がありますし、すごく気が散ってしまい、授業中歩き回ってしまうのであれば、ADHDの気質があると判断されます。
しかし、難しい点もあり、例えば授業中に、人の顔の落書きをしてしまう子供がいたとして、その行動を「注意が足りないADHD気質がある」と判断する人もいれば、「人の顔にこだわりが強いASDの気質がある」と判断をする人もいます。
同じような症状や行動的なところでも、どのような障害なのかというところが、曖昧であったりもします。では、脳のバイオマーカーがあるのかというといまいちなさそうで、そもそも「このチェックリストに集まった人がこの障害」と言ってしまうと、みんな併存していくため、その特有の脳の構造は調べようがないということもあります。
「こんな薬を使えば少し良くなる」というのも、あったりはするのですが、それが本当にどのようなメカニズムで効いているのかということも分かっていません。これが発達障害について解明されていないことの現状です。
治療薬に代わり得るニューロフィードバックとは?
このような感じで、まだまだ分かっていないことの多い発達障害ですが、そのような中でも、ニューロテクノロジーを使った技術は存在するのでしょうか?
ニューロテクノロジーが、従来の薬物療法と何が異なるのかというと、ある症状や障害を、脳の情報処理の違いや障害として捉え、それを望む方向の情報処理に変えていくことをトレーニングするという概念になります。そのような意味では、発達障害での症状や特異的な脳の情報処理が分かってきています。
例えば、自閉症であったら、自閉症という病気が本当にあるのかはよくわかりませんが、症状は分かっています。前回もお話ししたように、人の気持ちがよくわからない、あるいは人の表情からその人の感情がわからない、いわゆるコミュニケーションの障害と言われているものがあります。
そしてそれは脳の中で、どのようなネットワークで機能されているのかは、分かっていたりします。自閉症を治すことはできないし、やるべきことかもわかりませんが、自閉症の症状としてある、社会性やコミュニケーション能力というところまで落とし込めば、それをニューロフィードバックしたり、それに関わる脳の領域を電気刺激をすることで、一時的に少し人の気持ちがわかるようになったり、人の表情は理解できるようになることはあります。
あとはジェネラルなところで言うと、確固たるものではありませんが、ADHDの子供はシータ波やデルタ波と呼ばれるものが、定型発達と比べて多いと言われています。このような緩い脳波を無くしていく、トレーニングという形でニューロフィードバックが提案されています。
アメリカだと、FDAでも認可されている指標でもあるそうですが、それのエビデンスレベルが高いのかというと、そうではないと思いますし、ADHDだから特定の脳波が増えるというようなところは、私自身も疑問に思っています。
お便りコーナー「遅刻をする人と時間を守る人の脳の違いは?」
Q. 時間を守れる人と守れない人は、脳科学的に何か違いはあるのでしょうか?例えば、我が家では、次女と主人は5分前行動をするタイプです。そして私と長女は、時間ギリギリなら良い方で、遅刻気味なところがあります。これはただの性格的な違いでしょうか?
A. 答えとしては、性格の違いであっていると思いますが、あえて神経科学や精神医学の分野から見ていくのであれば、遅刻気味の2人はADHD傾向があり、5分前行動の人たちは、ある意味神経質で、ASD気質のある人だということができます。
これも予測ですが、遅刻気味の2人は多動で、おおらかなところがあって、手順がなくても大雑把にいろいろなことを進めていける人で、アクティブな感じがすると思います。
一方、5分前行動の2人は、少し神経質で、段取りやスケジュールを立てて、その通りに進めることが好きで、それから外れてしまうとプチパニックになり、やや人よりも不安が高くて、遅刻気味の2人を「いつも呑気だな」という風に見ているのではないかと思います。そのような意味では、脳科学的な違いは、両親2人の発達の違いがうまく娘にも分かれている、というところがあります。
遅刻してしまう行動を、あえて分析するとしたら、臨床医によると、ドタキャンや遅刻が多いのがADHDの人だそうです。ASDの患者さんは絶対に遅刻をしないのに対し、ADHDの患者さんは毎回遅刻してくるそうです。
なぜそうなってしまうのか、というところで言うと、1つはADHDは幼少期の虐待経験でなってしまうところがあったりもします。このようにトラウマがあると、乖離と言って自分の人格を切り離すようになります。辛かった自分と、今の自分を切り離すようになると、病院に通っている自分や、約束をしている自分と、今の自分が変わってくるため、そもそも人格が変わってしまい、ドタキャンや遅刻をしてしまうことがあるのです。
もう1つはADHDは多動で衝動的な気質を持つため、他のことに気が散ってしまい、行かなきゃいけない時間なのは分かっていても、直前まで服を選んでしまったり、ゴミ捨てをしようとしてしまうなどがあって、遅刻してしまうというところがあります。
また約束というところで、患者さん自身が傷を負っているために人を信じられず、信頼できていない病院や信頼できていない人に会うということができず、人への不信感があるから、そもそも人との約束を守らない、という臨床結果もあります。
あとは、「時間を守りましょう」「約束は守りましょう」というような社会的な約束や社会的な規範を、そもそも習っていないということも考えられます。あまり時間的な制約に厳しくない環境で育ってきたら、絶対に守らなければいけないという気持ちは、芽生えないのかもしれません。
まとめ
発達障害に対してのニューロテクノロジーというところでは、既存の薬物とは違うところで期待されている部分もあります。
例えば、ASDにおけるコミュニケーション、ADHDにおける衝動性など、そのような症状の中でも、ある特定の分かっている脳の情報処理まで落とし込めれば、その症状が出てしまっている脳のサーキットを変えていける可能性があります。
このようなニューロフィードバックのエビデンスは、この数年増えてきていて、希望が持てると思います。そのような意味で、病気として治療すべきかというところは置いておいて、困っている症状を治すという時に、ニューロフィードバックは、薬に代わる有望な介入方法だと思っています。
一方で、怪しい指標や怪しいニューロフィードバックが出る世界でもあります。「脳波を測れば発達障害がわかる!」「アルファ波を増やせば自閉症が治ります!」というようなものが、出てくるかもしれません。お子さんが発達障害を持っていて、そのようなものに、飛びつきたくなってしまう気持ちもあるかもしれませんが、必ずしもそのようなものにエビデンスがあるとは限らず、怪しいものも多いので、気をつけてほしいと思います。
しかし、希望がある領域のため、みなさんがこの分野の当事者だと思いますので、どのような介入やテクノロジーを使っていけば、お互い生きやすくなっていくのか、という世界を一緒に作っていくために、一緒に頑張りましょう!
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日常生活の素朴な悩みや疑問を脳科学の視点で解明していく番組です。横丁のようにあらゆるジャンルの疑問を取り上げ、脳科学と組み合わせてゆるっと深掘りしていき、お酒のツマミになるような話を聴くことができます。
番組名:ニューロ横丁〜酒のツマミになる脳の話〜
パーソナリティー:茨木 拓也(VIE STYLE株式会社 最高脳科学責任者)/平野 清花
配信スケジュール:毎週火曜日と金曜日に配信
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