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車椅子でサマソニに行って思ったこと -ノイ村×ホッシー:フェスとアクセシビリティ雑談- Part.2

前回の続きです。初めて見る方は、まずはPart.1からご覧ください。

▼マリン・メッセ間移動問題

ノイ村:
で、そういう「マップに書いていないがゆえの問題」の筆頭というのが、東京会場におけるマリンスタジアムと幕張メッセの間の移動であると。実際、干場さんと一緒にメッセからマリンに行ってみたんですけど、まぁビックリしましたね。

ホッシー:
僕たちはただChristina Aguileraを観たかっただけなんですよ(笑)。

ノイ村:
じゃあなんで泊まるわけでもないホテルを通るんだよっていう(笑)。何が言いたいのかというと、またこの会場マップの話になるわけですけれども、これを見ると、道なりにまっすぐ進めばたどり着けると思いますよね?でも、実際にはこの地図は非常に簡略化されているという。

サマーソニック東京会場の会場マップ。ZOZOマリンスタジアムと幕張メッセの2会場の間が線で繋がっている。二つのルートがあるが、どちらも平面的で、曲がり角も3つ程度と少ない。
サマーソニック東京会場の会場マップ。メッセとスタジアムの間に注目(公式サイトからの引用)

ホッシー:
やっぱり、これは普通に歩ける人のことだけを想定して作っているのではないかとは思ってしまいますよね。

ノイ村:
行ったことのある方は分かると思うんですけど、実際は途中の大きな道路がまっすぐ横断できないようになっていて、そのために上下の移動があるんですよね。

幕張メッセを出て、ZOZOマリンスタジアムへ向かう途中にある歩道橋。道の途中に階段がある(Googleストリートビューのキャプチャ)。
幕張メッセを出て、ZOZOマリンスタジアムへ向かう途中にある歩道橋(Googleストリートビューのキャプチャ)

ホッシー:
そうそう、それで階段やエレベーターがどこにあるのかというのが書かれていないんですよね。これのおかげで、初めて行った時に本当に困ってしまって。そもそも人がめちゃくちゃいるから、道がどうなっているのかもよく分からなくて、流されるがままに進んだら詰まってしまったんですよね。

ノイ村:
これ、車椅子で移動すると根本的にこの通りに進めないんですよね。

ホッシー:
そう、そうなんですよ。行きたい場所は見えているのだけど、そこにどうやって行けるのかが分からない。

ホッシー:
それで独自に編み出したのが、今回、ノイ村さんをお連れしたホテルを経由するというルートですね。

ノイ村:
マリンスタジアムに向かっていく途中で、まずはエレベーターに乗って上の通路に行って、そこから一旦ホテルニューオータニ幕張の2F入口に入って、ホテル内のエレベーターを使うことで地上に戻るという...。僕はもう10年以上サマソニに行ってますけど、さすがにあのルートは初めて通りましたよ。

ホテルニューオータニ幕張を経由してマリンスタジアムへ向かうルート。ホテル経由で地上のルートに合流している。Googleマップのキャプチャ。
ホテルニューオータニ幕張を経由してマリンスタジアムへ向かうルート。ホテル経由で地上のルートに合流していることに注目。

ホッシー:
ただ、それも昔からあるホテルだからということもあってか、必ずしもバリアフリーってわけではないんですよね。例えば、ホテル内のエレベーターに車椅子用の低いボタンが付いてないから、他の人に押してもらうしかないんですよ。

ノイ村:
実際、干場さんに押してもらうよう頼まれましたもんね。で、もしかしたらこの話を聞いて「じゃあ通れるんだからいいじゃん」って思う人もいるかもしれないですけど...。

ホッシー:
まぁ、そうでしょう。

ノイ村:
そもそもが本来の用途ではないし、実際に行ってみたら分かりますけど、本当にただのホテルじゃないですか。サマソニとは関係のないお客さんもたくさんいらっしゃるし。

ホッシー:
そう、あれは通路じゃなくてホテルなんですよ(笑)。

ノイ村:
(笑)。自分もそうでしたけど、真夏ですからもう汗をダラッダラかいてる状態で入るじゃないですか。首にタオル巻いてバンドT着てる人たちが、涼し気な顔をしている宿泊客の方たちのところにズカズカと近付いていくという。ましてBring Me The Horizonの色々な意味で近寄りがたいであろうTシャツを着ていて(笑)。

「AWAKENING JAPAN 2024」と上部に書かれており、真ん中には大きくアニメ風の少女がケーブルに繋がれている絵が描かれている。下部には「ASCEND WITH US」という言葉も書かれている。
サマソニで二人が着用していたBring Me The Horizonの近寄りがたいTシャツ

ホッシー:
だから周りの人に申し訳ないなって思っちゃいますよね。で、そこを超えた先に巨大な歩道橋とスロープがあって、「なぜここは繋がっていないのか」という(笑)。

マリンスタジアムに向かう途中にある巨大な歩道橋(Google ストリートビューのキャプチャ)。入口には階段があり、向こう側に左右を覆うくらいのスロープが見えている。
マリンスタジアムに向かう途中にある巨大な歩道橋(Google ストリートビューのキャプチャ)

ノイ村:
そもそもスロープ自体が大変ですよね。

ホッシー:
そう、坂があればいいってものじゃない(笑)。自分は電動車椅子なので、ある程度スロープに対する億劫さというか抵抗感は薄れるんですけど、あれが手動の車椅子だったらたぶん相当大変ですね。以前、アイドルの方が長いスロープに挑戦している動画をアップしていたんですけどかなり辛そうで、やっぱり坂があるから大丈夫というわけではないんですよ。

ノイ村:
あれを手動で行くのは相当大変ですよね。だって、あれは歩くのですら結構大変なのに、車椅子で楽に行けるわけないじゃないですか。

ホッシー:
筋トレしてるわけじゃないんだぞって話なので(笑)。でも、本当にスロープって大変なんですよ。ヘルパーがいたとしても押すのが大変なのは同じだし、押されてる側の心も辛いですから。スロープがあるという事実だけで正しかったり、負担が少ないかって言われると、そうじゃないんですよね。

ノイ村:
「あるからいいじゃん」ってものじゃないですよね。

ホッシー:
あと、これって多分(全体における)左側のルートにしかスロープってないですよね?

ノイ村:
あー、でも右側のルートも、ちょっとよく覚えてないけれど、スロープ付きの歩道橋があったような・・・。今はうろ覚えで喋っているので、もしかしたら違う情報が混ざってるかもしれないんですけど...、ただ、そもそもこういう状態になってしまうということが問題なんですよね?

ホッシー:
そういうことなんですよ。もしかしたらホテルを介さなくても行けるのかもしれないけれど、そもそも、ホームページのマップだけだと、車椅子はどうやって行けるのか分からない。これが本当に大きい。あと、このマップだと、海浜幕張駅から会場までのルートもまったく分からないですね。

ノイ村:
これも実際に幕張メッセのフェスとかに行った方なら分かると思うんですけど、だいたい海浜幕張駅を出ると、看板を持ってるスタッフの方が立ってて、その人が誘導してくれる方向に歩いていくじゃないですか。で、そうすると、まず階段を上ることになるんですよね(笑)。

ホッシー:
そう!(笑)


海浜幕張駅を出て、幕張メッセに向かう途中に誘導される階段。道の途中に、スロープのない大きな階段が設置されている。(Googleストリートビューのキャプチャ)
海浜幕張駅を出て、幕張メッセに向かう途中に誘導される階段(Googleストリートビューのキャプチャ)

ノイ村:
その時点で「無理!」ってなるっていう。

▼カジュアルな場所だからこそ

ホッシー:
これは深くは踏み込まないんですけど、いわゆるハイソ感のある街のビルって、そのブランド力やそこにいる人たちの体裁を保つために、あえて下の人を排除するような構造をしていると思う時があるんですよ。デザインの時点で排除をするということですね。

ノイ村:
ユニバーサルデザインの逆ということですね。明言こそしていないけれど、仕組みを通して選別するという。

ホッシー:
そうそう。もしそういうのに追従しようと思っているのなら、それは「そういうものなのか」と受け入れるしかない。でも、サマソニって幅広くさまざまなアーティストを呼んでいるし、ヘッドライナーを筆頭に、ただ有名なだけではなくて社会的な意義というところまで踏み込んだ選定をしていると思うんですよ。だからこそお客さんの層も幅広くなっているわけで、それはフェスティバル側としてもサポートしてほしいし、そうじゃなくても、ベテランのロックバンド、例えばメタリカやレッチリを呼んだとしたら、自ずとファンの方々の年齢層も上がっていくじゃないですか。そうなると、足腰が辛いという人も絶対に出てきますよね

ノイ村:
それはもう現在進行系で起きてると思いますよ。最近はJ-Popのラインナップも充実しているから、本当に老若男女を問わず、どんどん層は広がっていくと思います。

ホッシー:
だから、そういった状況の中での事例の一つとして、例えば車椅子用のルートを示しておくとか、そういう取り組みをした方がいいと思いますし、それは最終的にサマソニ側の利益にも繋がると思うんですよね。

ノイ村:
本当にそう思いますね。あと、ちょっと角度は違うんですけど、さっき、キラキラした人の話をしていたじゃないですか。今って単独公演のチケットが本当に高いんですよ。

ホッシー:
Kasabianとかも1万円超えてましたからね。BUMP OF CHICKENとか米津玄師とかもそれくらいしますし。

ノイ村:
だから、フェスのコスパが相対的にめちゃくちゃ上がってるんですよね。ちょっとリッチなバイキングみたいな。高級な寿司屋とか焼肉屋には劣るかもしれないけれど、遜色ないものはあるっていう。

ホッシー:
うんうん。「元を取ってやろう」って思いますよね。

ノイ村:
僕が初めて学生の頃にサマソニに行ったのもそういう理由だったので。で、カジュアルな場所だからこそ、むしろそういう対応こそが凄く重要だと思うんですよ。

ホッシー:
だからこそ、やっぱり様々な人がいるんだっていうことを踏まえて、情報を充実させてくれると嬉しいですよね。

▼ライブ会場とのコミュニケーションの重要性

ノイ村:
前回、質問をしたいとか、困ったことがあってスタッフさんに話しかけること、それ自体が心理的なハードルが高いという話がありましたよね。「どこまでこの人がバリアフリーな対応ができるのだろうか」というのが定かではないという。ちょうどこの前、ePARAの実里さんがnoteで書かれていた化粧の記事で、美容部員の方とのコミュニケーションについてのところで、まさに同じようなことが書かれていて、やはり皆さん悩まれているんだなと思いました。

ホッシー:
うん、そうですね。みんな悩んでいるんじゃないかと思いますよ。

ノイ村:
例えば、音楽で言うと、ライブ会場に行く時に、事前に何か申請をするケースって多いんですか?

ホッシー:
もう全部そうですね。ライブハウスに行く時は必ず連絡するようにしています。

ノイ村:
それはキャパが数百人くらいの会場でもそうなんですか?

ホッシー:
むしろ、小さい会場になればなるほど、車椅子用のスペースというのがちゃんと定まっていない場合が多いので、事前の連絡が大事になってきますね。Zeppくらいになってくると最初からスペースが用意されていたりするんですけど、それよりも小規模な場合は、まずは「どこで見るのか」ということを相談する必要があるので、「車椅子で行きます」と伝えるのはマストだと思います。

ノイ村:
それは、ある種のマナー的な部分もあるんですかね?

ホッシー:
それももちろんですし、「自分が行った時に見られない」というリスクを避けるためというのが大きいですね。ただ、そうは言っても、やっぱり連絡を忘れてしまうことはあるんですよ。そうすると、やっぱり開演直前の忙しい時に、本来スタッフの方がやろうしていたことを妨げてしまっている可能性もあるじゃないですか。やっぱり、事前に動線を確保しておく、スムーズにしておくというのが一番大きいですね。

ノイ村:
なるほど。ちなみに、大きなライブだと最初から車椅子用のチケットの案内がある場合もありますよね。

ホッシー:
自分が過去に参加したものだと、サカナクションは車椅子用のチケットが別枠で存在していて、専用のスペースがあらかじめ用意されているので、最初からその券種を買う形になりますね。他にも、藤井風のライブとかでもそういう枠があったと記憶してます。そうすると、運営側もどれくらいの人数が来るのか事前に分かりますし、観客としてもある程度は対応してくれることが分かりますね。

ノイ村:
これがフェスティバルになってくると、また話は変わってきますよね。

ホッシー:
そうそう。サマソニは大阪会場は公演の1週間前までに事前の連絡が必要なんですけど、東京会場だと事前の連絡は不要ってホームページに書いてあります。


Q. 車イスでの入場は可能ですか?
A. 車イスでのご入場は可能です。各ステージ、ハンディキャップエリアを設けております。ただしエリアが限られているため入場を制限する場合がございますので、ご注意ください。また、同伴者がいらっしゃる場合は、同伴者の方もお一人様につき1枚のチケットが必要となりますので、予めご了承ください。
東京公演については、ハンディキャップエリア申請は不要です。
大阪公演については、お手数ですがチケットを購入された後、公演1週間前までに必ずお電話をお願い致します。
駐車場付き前売りチケット(車いすを利用されるなど、公共交通機関でのご来場が難しい方に限る)の駐車場のご相談も下記にお願いします。
サマーソニックホームページの、車椅子の入場について言及している箇所(キャプチャ)

ノイ村:
これって、連絡の必要がない方が不安になるんですか?

ホッシー:
うーん、ただ、連絡って単純に手間じゃないですか。

ノイ村:
まぁ、そうですよね。

ホッシー:
会場でのことを考えると、絶対に必要だろうなとは思うんですけど、そもそもそういうことを事前にやっておかないといけないということ自体が負担ではあるんですよね。一般的にライブを観に行く時って、事前に連絡をしなくても何とかなるじゃないですか。

ノイ村:
僕は連絡したことないですよ。何なら、カレンダーを見ていて「明日じゃん」って気付くこともあります。

ホッシー:
そうそう。ただ、実情としては、自分の場合だとそのノリで行くのは難しいんですよ。だから、連絡が不要であるにしても、車椅子用のスペースがちゃんとあるとか、現場ではこういう対応をしてくれるというのは事前に教えてほしいですよね。

ノイ村:
なるほど。

ホッシー:
ライブハウスだと、整理番号の兼ね合いとか、そういうところにも影響すると思うし、自分以外のお客さんも巻き込まれてしまうのは容易に想像できるので、それはやっぱり必要だと思います。

ノイ村:
ただ、面倒か面倒じゃないかで言うと...

ホッシー:
まぁ面倒ですよね(笑)。

ノイ村:
そりゃそうですよね。それこそ、その場のノリで当日券で行ったりとか、そういうことがしたいですよね。それが「1週間前までに」って言われちゃうと、色々と辛い。

ホッシー:
それも含めて心理的なハードルは上がりますよね。

ノイ村:
例えば、仕事とかで開演時間に間に合わなくて、最初のアーティストからじゃなくて、途中から会場に入るみたいな場合もあると思うんですよ。

ホッシー:
そうなんです。そうするとまた連絡しないといけないし、もしかしたら対応できないかもしれない。

ノイ村:
「歯医者じゃないんだから」とは思っちゃいますよね。

▼事前に情報を共有することの重要性

ホッシー:
だから、会場側でフォームみたいなものを用意してくれると助かるんだけどなと思ってるんですよ。

ノイ村:
チケットを買う時に記入するようなイメージですか?

ホッシー:
そうですね。チケットや整理番号も伝えた上で、「車椅子で行くので、可能であればこういう対応をしてくれると助かります」みたいな希望を伝えられるような感じ。あとは、リスト形式で「この対応はできるけど、これはできない」みたいなのが書いてあるとか。その上で、「この対応をするためには、この日までに申請する必要があります」とか「この対応はできかねます」と明示しておいて、会場側も断ることができるような形式だと良いと思います。

ノイ村:
やっぱり、まずはお互いが情報を共有できるということが重要なんですね。ちなみに、例えばどういう項目があると良いと思いますか?

ホッシー:
あくまで自分が想定している例ですけど、会場のアテンドだったり、フードやドリンクを買う時の補助だったり、あとはイヤーマフの提供だったり、そういうことができるのかどうかということですかね。これも、障害に限らずに、小さなお子さんとか、高齢者の方も来ることを想定したうえで考える必要はあると思いますが。

ノイ村:
「テンプレート化が難しい」というのは、ゲームのアクセシビリティでもよく聞く話ではあるんですけど、「最低限これだけは」というところは共有できるようにしておきたいですよね。

ホッシー:
そうそう。だいたい必ず聞かれるのが、電話番号、名前、メールアドレス、あとは車椅子の種類ですね。手動車椅子(電気の力を使わずに、人の力で動かす)なのか、簡易電動車椅子(手動車椅子を電気の力で動かすようにしたもの)なのか、電動車椅子(簡易型電動車椅子よりもバッテリーが大きく、パワーがある。自分で姿勢を変えられる)なのかという。これによって対応自体が変わってくるんですよ。手動や簡易電動なら体重次第で持ち上げられるんですけど、電動だとそもそも持ち上げること自体が難しかったりする。だから、どういう属性なのかを伝えることは重要ですね。

ノイ村:
なるほど。いや、でもこれは知らない人はなかなか想像できなかったりしますからね。

ホッシー:
あと、何時頃に会場にいるのかも伝える必要がありますね。基本的には「この時間に来てください」と言われることが多いんですけど。あとはもちろん座席や日にちも。ここまでは基本情報で、実際に聞かれることも多いです。その次に配慮事項として、会場内のアテンドが必要なのか、ドリンクの会場内での受け渡しや、持参した飲み物を取り出す上での補助が必要なのか、あとは本人の他に介助者がいるのかどうかも確認した方が良いと思います。

ノイ村:
他には何かありますか?

ホッシー:
Zeppとかだと目の前がみんなスタンディングになるので、(車椅子で見る分の)高さを確保する台が必要かどうかもあると良いですね。あとは、車椅子を含めた体重や高さも分かると、会場側としては有り難いんじゃないかなと思います。何人体制でヘルプを入れるのかを検討することができますから。それと、帰宅予定時間だったり、途中で退席する場合も、事前に分かっていれば書いておけるし、その場でそうなった時のためにスタッフへのコンタクトの手段を明示しておいたりするのも良いと思います。

ノイ村:
そういう情報が共有された状態で、実際のライブ当日を迎えられた方が、お互いにとってもやりやすくなるだろうということですね。これはフェスティバルとかでも、実際何人ぐらい来るのか分かっていた方が、対応できるキャパシティを用意する上でも良いのかもしれないですね。

ホッシー:
あ、そうそう。あとは「ヘルプマーク」を付けている人も結構いるじゃないですか。


ヘルプマークの画像。ヘルプマークの下に、「助け合いのしるし ヘルプマーク」と書かれている。
ヘルプマーク(特設サイトから引用)

ノイ村:
確かに。電車の中とかでもよく見かけますよね。

ホッシー:
あれも、周りの人に伝えたい情報や、必要な配慮が裏面に書いてあるので、その内容も書ける欄があると良いですね。

ヘルプマークの裏面の写真が写っていて、「私は皆さんの支援が必要です。耳が聞こえないので筆談で対応をお願いします。佐賀太郎。(架空の電話番号)」と書かれている。テロップで、「裏面に、「どういった障害があるか」「緊急連絡先」「望む対応」などを書くことができる」と記載がある。
ヘルプマークの裏面の説明文(サガテレビ「kachi kachi plus」より引用)

ノイ村:
なるほど。ヘルプマークって、周りは「何か必要なんだろうな」とは気付きますけど、それ以上のことは裏面を見ないと分からないですからね。それに、「そういうことが裏面に書いてある」ということ自体を知らない方も少なくないと思います。

ホッシー:
実際にどれくらい記述するのかは本人や周りの人次第ではあるんですけど、少なくとも何か書いてあるはずなので。ただ、個人的にはそれ以上の対応、例えば、来場者の病気や障害を詳しく調べるところまではやらなくても良いと思うんですよ。そこにいるのは、あくまでライブハウスやイベント会社に勤めている人たちであって、医者や施設の職員ではないじゃないですか。だから、そのレベルの対応を求めるのは違うかなって。あくまで、必要な情報をお互いに揃えておいて、何かあった時にパッと対応ができる想定があるかないかというのが大事なんですよね。そのための準備であったり、情報というのは多い方が良いと思います。

ノイ村:
ちなみにそれこそサマソニくらい大規模なイベントで、そういう取り組みをしている事例ってあったりするんですか?

ホッシー:
そのレベルはあまりないと思いますよ。ただ、サマソニの場合は、救護室があったり、看護師が配備されているというのはかなり大きいですね。しかもそれが1ヶ所だけじゃなくて色々な場所にあるのは良いと思います。ただ、恐らくそこにいる看護師の方々って、メインとなるのは熱中症で倒れた人だったり、緊急のトラブルがあった人の対応になると思うんですよ。そこでヘルパー的な役割を求めるのはちょっと違うかなとも思ってしまうので、やっぱり、事前に情報が周知されていて、「こういう人がいて、何かあった時にここに来るかもしれない」という想定ができるかどうかというのが大事なのかなと。その上で、緊急度によって対応の優先度を適切に考えられる状態にしておくというのが良いんじゃないかなと思っています。

ノイ村:
あらかじめ交通整理がされているということですね。

ホッシー:
「あれができない、これができない、困った!」ってなっちゃうよりも、お互いに情報をちゃんと持っているというのが重要なんですよね。観に行く側は、「ここは通れる。こういうことがしたい時にはここに行けばいい」というのが分かれば良いし、運営側は、「こういう人が会場の中にいる。もし何かあればそれを想定して動く必要がある」という具合に、お互いのコンセンサスが取れるというのが大事なのかなと。

ノイ村:
「車椅子の方も来れますよ!」って書いたはいいけれど、実際に来た時に「さて、どうしよう」ってならないようにするっていう。

ホッシー:
そうそう。

ノイ村:
やっぱり、実際に会場を歩いていても、スタッフの方が困っている光景ってあったりするじゃないですか。それは車椅子に限らず、途中で倒れてしまったりとか。特に去年は熱中症が本当に酷くて、ニュースの報じられ方を見るに、あれも現場ではイレギュラーな事態になっちゃってたんじゃないかなと思うんですけど、でも今年はある程度改善されていましたよね。そういうフローの整備が進むと良いなと思います。

ホッシー:
スタッフ側にも周知されていないことってありますからね。これはサマソニとは別のイベントの話ですけど、スタッフに声をかけても「自分はその担当じゃないので」って言われて終わっちゃうことって結構あるんですよ。でも、それじゃ困ってしまうので、仮にその担当じゃなくても、「この人に連絡すれば良い」という状態を作っておいてくれると良いですね。

▼謎の「飯ゾーン」を含む、混雑時の立ち振る舞いの難しさ

ノイ村:
サマソニって昼くらいからお客さんがなんとなく床に座って食べ始めるじゃないですか。それも誰に言われたとかではなくて、自然に「もうここでいっか」って感じで。

ホッシー:
うんうん。

ノイ村:
その結果、マップに書かれていない、謎の「飯ゾーン」が作られていきますよね。まぁ、自分もそこでご飯を食べている一人だったりするんですけど・・・。あと、ステージの後ろで座る人もたくさん出てくる。ただ、あれって正直、会場を移動する時にめちゃくちゃ邪魔なんですよ。自分ですら邪魔なんだから、車椅子で移動していたりしたら、その比じゃないだろうなって。

ホッシー:
いや、それはそうですよ。

ノイ村:
しかも無理やり通ろうとすると、嫌な目で見てくるじゃないですか(笑)。

ホッシー:
「嫌なのはこっちだぞ」っていう(笑)。でも、言えないですよねそれは。

ノイ村:
実際、干場さんと一緒に幕張メッセの中を移動している時に、もう普段より遥かに床にいる人が邪魔だと思ってしまったんですよね。

ホッシー:
あれはもう新宿とか渋谷とかを歩いている時と同じ殺伐としたメンタリティで臨んでます(笑)。「もう、轢かれても文句を言うなよ?」っていうくらいの気持ちでいかないと辛いですね。

ノイ村:
「じゃあ迂回すれば良いじゃん」って言われるかもしれないけれど、もう全部のルートがそうなってるじゃないですか。車椅子用のルートはありますけど、そこに行くためには絶対にどこか人が密集しているところを通らないといけないですよね(注:幕張メッセ内では、ホールの外に出るためのエレベーターが階段を使えない客向けに使えるようになっており、専用のルートがある。ちなみに当日の現場ではなぜかエレベーターのボタンのところに荷物が置かれており、とても邪魔だった)。

ホッシー:
そうなんですよね。あとはホール内から出た時の勾配もあったりするので、「あの場所を通るならホールの中を通った方が良い」というのもあるんですよ。

ノイ村:
あと、アーティストによっては入場規制とかがあったり、ライブ後にはすし詰めの状態で退場することになったりするじゃないですか。そういう時の難しさってありますか?

ホッシー:
やっぱり気は遣いますよね。でも、かといって車椅子用の優先レーンを設けるのも違う気がしますし。

ノイ村:
そもそもそういうのがあったら、多分そっちを歩く人がたくさん出てくると思いますね。

ホッシー:
そうそう。結局道がさらに狭くなっちゃうかもしれない。

ノイ村:
厚かましい人だけがそこを歩くという(笑)。電車の優先席みたいな感じになっちゃいそうですね。

ホッシー:
やっぱり優先レーンや優先席って、そういうものに対する理解があることを前提としているじゃないですか。実際、普通に健常者がベラベラ喋りながら優先席に座っていて、横でおじいちゃんが困っているみたいな光景ってよく見ると思うんですよ。

ノイ村:
見ますねぇ。

ホッシー:
そういうことって絶対に起こり得るので、サマソニのように客層の幅広い場所でそれを求めるのは違うなと思いますね。

ノイ村:
お酒を飲んでいる人もたくさんいますからね。

ホッシー:
それもそうだし、あとは「私はただ◯◯を観に来ただけなのに、なんでそこまで配慮しなきゃいけないんだ」っていう層も、必ずいると思いますよ。

ノイ村:
間口が広いがゆえに、色々な人がいるという。

ホッシー:
あと、そういうのって大体アイドルのファンとかが叩かれがちですけど、あれって一番目立つところにいたり、分母が大きいっていうだけで、どのアーティストのファンにも一定数はいると思うんですよ。

ノイ村:
可視化される範囲や規模が大きいっていうだけですよね。

ホッシー:
そうそう。ファンが少ないからって啓蒙ができているかっていうと、そんなことはまったくなくて、単純に数の違いがあるだけ。いずれにせよ、お客さんに対して理解を求めたり、啓蒙をするのも違うというか、それを求める場ではないと思います。

(現在制作中のPart.3に続く予定)