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常識にとらわれず、活動をとらえ直してみる(全体会議レポート)

去る10月16日(月)、茨城県常陸太田市を会場に、茨城県北地域おこし協力隊マネジメント事業の一環として、「全体会議」を開催しました。「全体会議」とは、県北地域の地域おこし協力隊と協力隊担当の行政職員とが一堂に会し、年に2回ほど開催している企画。外部のゲストを招いた講義や、地域おこし協力隊員による取り組み発表などを行い、情報共有とネットワークづくりを行っています。
今回はゲストに、「ジャンルを問わず日本全国、世界各地で活躍する『規格外の稀な人』を追う“稀人ハンター”」として活動しているライターの川内イオさん(かわうち・いお)さんを招聘。川内さんによる特別講演の後は、マネジメント事業運営チームによる「プレスリリースの書き方」ワークショップを行いました。

ゲストトーク「いま食&農に求められる『逆転の発想』とは?」

川内イオさん

まずは“稀人ハンター”川内さんによる特別講演からスタート。稀人とは、異世界から来訪する存在や、客人を意味する言葉ですが、川内さんは「業界のなかで革新的な取組を行っており、面白いな、応援したいなと思った人」という基準で稀人を探しています。これまでに500人近い人々を取材し、数多くのメディアや、書籍を通してその取り組みを紹介してきました。『農業新時代 ネクストファーマーズの挑戦』や『1キロ100万円の塩をつくる 常識を超えて「おいしい」を生み出す10人』のように、農業や食の分野で活動する方をはじめ、『ウルトラニッチ 小さな発見から始まるモノづくりのヒント』のように、ものづくりの分野の方々などを数多く訪ねています。

*12/3に開催した「ネットワークKENPOKU円卓会議」にゲスト登壇した木村尚子さん(mizuiro株式会社代表)も、川内さんに紹介された稀人の1人。

川内さんが稀人を探し、文章という形でかたちにし続けているのは、常識にとらわれない稀人の生き方に、可能性を感じるからだと話します。例えば「良い大学に行き、良い会社に入り…」という世の中に敷かれたレールから外れて、自分の志に従って生きる人がいる。そういう人生を広く伝えたい、と思い、活動しているそうです。また、稀人は特別な才能がある人だけがなれるのではなく、自分のやりたいことを突き詰めていくとなれるもの(気づくとなってしまうもの)なので、誰もが稀人になれるはず、と語りました。

今回の全体会議は、将来的に商品やサービス開発等を見据えて活動する協力隊員も多く参加しています。川内さんは、最近取材をしてきた方々のなかから、「売る」という点に対して「逆転の発想」を行い、成功した事例をピックアップ。「美味しいものをつくったから買ってくれるだろう、良いものをつくったら見つけてくれるだろう」とただ待つのではなく、誰のための・何のための商品やサービスなのかと立ち返りながら、「売る」ことまで考えてチャンスを積極的に広げている例を紹介してくださいました。

例えば、長野県の山の中にあるパンと日用品の店 わざわざ」の店主・平田はる香さん。開業前に県内すべてのパン屋をめぐった平田さんは、今後お店を始めるにあたって、「いかにお店を認知してもらうか」に注力すると決めました。
普通は「ほかのお店に負けない美味しいパンをつくろう!」となりそうなところ。パンにはそもそも好みがあり、味で競うことが難しいため、「エッジを立てて目立ち、数あるパン屋のなかで、まずはお店を認知してもらう」と別の軸で勝負しようと考えたのです。平田さんは、開業の1年前からブログをスタート。また、前職の経験を生かしてフライヤーを作成し、長野県内のハイセンスなカフェやショップに開業前から配布しました。

その後開業、移動販売等を経て、山の中に店舗を構えた平田さん。足を運んでもらうためにどういう付加価値をつければいいか考え、さまざまな工夫をしました。その結果、今では年商3億円に達しました。
(詳しくは下記の記事をご覧ください)

▼川内さんによる平田さんのインタビュー記事はこちら

また、沖縄県の鳥の丸焼き専門店ブエノチキン」を営む浅野ブエコ朝子さん(世界のブエノチキン合同会社代表)のご紹介もありました。浅野さんのご両親が開業し、40年近く営業してきた「ブエノチキン」は、2019年にテレビに取り上げられたことで売り上げが激増します。普通だったら、「観光客を取り込もう」「お店を大きくしよう、店舗を増やそう」と考えそうなところ、浅野さんは「一時的に売り上げが伸びても継続はしない。地元のお客さんを大切にしないといけない」と考えます。常連客を大切にするため、「常連優先予約制度」をつくりました。

奇しくも、その直後に世界を襲ったコロナ禍。沖縄でも観光業は大きな打撃を受けますが、ブエノチキンはむしろ、家で食事をとる人が増えたことで、地元からの注文が増加。丁寧な関係性づくりが実を結び、いまは以前の10倍近い売り上げがあるそうです。

▼川内さんによる、浅野さんの記事が掲載された雑誌はこちら

他にも、地元で仕入れた魚だけを使うピザ店店主や、美味しさやおしゃれさではなく「懐かしさ」を押し出したアイスキャンデーの開発者などを紹介いただきました。川内さんは、「常識を疑うことで、そこにチャンスがある」といいます。革新的・独創的な取組によって突出できれば、地方にもヒットできるポテンシャルがあると、参加者に語りました。

質疑応答の様子

ワークショップ「プレスリリースを書いてみよう!」

岡野アドバイザー

後半は、活動の発信のしかたに焦点を当てたワークショップ。今回は「自分の活動を紹介する」プレスリリースをつくってみます。まずはマネジメント事業アドバイザーの岡野から、情報発信時に心がけているポイントが紹介されました。

メディアの記者のもとには、日々たくさんの情報が届きます。そんな忙しい記者にとって、「パッと見たときに内容が分からない」、「どの部分にニュース性があるか不明」、「担当者名がない・すぐ使える画像が少ないなど、掲載するまでに手間がかかる」、という情報はなかなか拾われにくいもの。事業を全く知らない人がパッと見て何を受け取るか、他の情報を差し置いてでも一番伝えたいことは何か…、そういった視点で組織メンバーや、時には第3者のアドバイザーとも一緒に、情報発信のしかたを検討しています。川内さんの話を踏まえ、岡野は「どの部分がニュースなのか、付加価値なのか。自分たちが分からないと、相手にも伝わらない」と話しました。

その後、フォーマットに、自分の活動をPRするためのプレスリリースを書いていきました。

ワークシート

ワークショップを経て、参加者からは、「茨城県初の国産アボカド!『ひたちアボカド』いよいよ収穫販売開始!」や「地域おこし協力隊が公園内自転車コースをリニューアル」、「日本最大級のサウナフェス『サマリゾ』で1200人が【花火xサウナ】でととのった」といったタイトルのリリースが集まりました。

参加者からは、「販売先が開拓されることを意識して、具体的な収穫量や、取材可能なタイミング(イベント情報)を盛り込んでみた」、「イベント実施後のプレスリリースとして、記録写真を盛り込んだ」、「古着販売事業を予定しているが、川内さんのトークを聞いて、古着を2種類しか扱わないというアイディアを考えてみた」といった声が。
30分という限られた時間ではありましたが、各隊員の個性が集まるワークショップになりました。

*タイトルおよび内容はあくまでワークショップ内で試作したものです。

ワークショップを経て、川内さんは取材側の目線から「専門用語がタイトルに入っていたり、一見『よくある』に見えてしまう場合は、サブタイトルで補足があると分かりやすいかも。また、目的が2つあるときは絞ったほうが分かりやすいと思う」等のアドバイスが。
マネジメント事業マネージャーの松本からは、「記録費や広報費の予算をできるだけ確保するなど、PRのための素材をつくっておくというのは大事だと思う。また、事業を全く知らない人に伝わるように、担当職員の方など、第3者に一度読んでもらうのも有効かと」と提案がありました。
岡野は「どの活動にもたくさんの魅力的な情報がある。そのなかで、川内さんのように個人の人生に絞るのか、売れるための情報に絞るのか、共感してもらう情報に絞るのか。そういう意味ではプレスリリースという手段が絶対だというわけではないので、参考になったら嬉しい」とコメントしました。

松本マネージャー

今回の全体会議では、川内さんから紹介いただいた事例に刺激を受け、常識にとらわれない姿勢を学んだうえで、後半は自分の活動を見直し、その言語化にチャレンジする時間になりました。協力隊の活動の周りでは、日々いろいろな出来事が起き、出会いがあり、たくさんの情報が集まっています。そこで起きていることは自分がやりたかったことか、そうではないのか、もしくは予想していなかったが選ぶべきものか。どうしてその出来事が起きたのか、起きなかったのか。自分の活動が評価されている部分はどこか、そこに自分の想いとのギャップはないか。自分の想いや目的に度々立ち返りながら進んでいくことが、活動を豊かに広げていく基盤になるように思います。

今後もnoteでは、「ネットワークKENPOKU」の取り組みや隊員の活動を紹介していきます!どうぞお楽しみに。

(写真:山野井咲里)
(執筆:岡野恵未子)