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土器を見に行く 南箕輪村郷土館
ここは予約制なので、事前に教育委員会に電話すると見せてもらえます。
当日は担当の先生がどんな質問にもマンツーマンで教えてくれました。初心者にはとてもありがたい!
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まずはここのトップアイドル。
丸っぽいシンプルな瓶に堂々とひっついてる。
他に装飾はないので、完全なオンステージ、完全なソロ。頂点の悲哀がその表情に滲んで…ないな。
超ボクトツとしてる。
両津勘吉風M字眉と髪型のおかげで自然とほっかむりを連想してしまう。さらには顔下半分の骸骨的造形も相まって、なんというか、アイドルというか…
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とはいえ、かわいいことには変わらないのですが。
しかしはこの黄金あしゅらバット男爵、とにかく謎だらけ。
いきなり肩が浮いている。への字でむちゃくちゃ確信的に浮いている。ドローン?
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で、首から下に、「肩2」がある。セカンド肩。この造形があまりに斬新。やたらと艶めかしいお尻から背中を通って、肩、腕に繋がってる。
人間の体はこうなっていないぞ、と、はっきりわかるのだけど、ここまで堂々とやられているのだから何らかの確信があるのでしょう。だからたぶんこっちが正解です。
人間の肩は、尻から生えている…
知らなかった。なんでも勉強だ。
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で、怖いのが、尻から下。唐突にリアリズム。上は素朴なオーパーツだったはずが、見えづらい瓶の下部のカーブに沿って、こっそり生々しい具象にシフトしている。
さらには、ドローン化した頭だけ前向きで、そこから下は後ろ向き。
何もかもがハッキリしてるのに、何ひとつ、ぜんぜんわからん。すごい。
ヒントは目の前にぜんぶあるのに、回答だけがない。
「君らの理屈の外ですよ」ということだけは、かろうじて伝わってくる。
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先生の説明によると、この、「土器の縦軸で展開する派手な装飾」が南箕輪産の縄文土器の特徴らしい。
不思議なまじないっぽさを感じつつも、縦長のルックからはどうしても人間を想像してしまう。装飾下部が人間の背骨に見えてくるし、中心にドンと通った縄模様に、具現化した「背筋」が見えてくる。
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こっちにも背骨。割とシンプル。
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隅っこにシレッと置かれた大瓶。こちらも背骨感がすごい。しゃがんだ人間を背中から見た人体模型にも見えるし、猿の干物にも見える。
でも確かに、瓶にだって背骨くらいあった方が安心だよな。家にだって大黒柱があるんだし。
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こういう鎖状の背骨もある。ゴージャス。
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エレガント背骨。装飾が縦長になると、途端に「洋」の雰囲気が漂う。
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ワイルド鎖人間。タコか蜘蛛か。
落ち着かせる気は全然ないらしい。
とにかく、南箕輪土器は「背骨」のようです。
これは勉強になった。先生がいると、迷子になる前に要点を伝えてくれる。
3つ並んだ大きい土器の真ん中に堂々と描かれた「デカい渦」。左上からズドンと右下に向かって下り、真ん中あたりでグルッと自己主張の渦巻き。これが3つ並んでいた。
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先生曰く、「同じ作者かもしれませんね」とのこと。真に受ける。先生が言ってんだから、そうなのだ。
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そしてイモムシ!ここにもいた!
辰野美術館の毛虫にはたくさん毛が生えていたけど、南箕輪のやつに毛はない。山間部名物の模様なのだろうか。このサイズだとスズメガの幼虫?
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などと思っていたら、どうもこのイモムシ、あちこちの土器の表面で「成長してる」っぽい。
イモムシが成長して、「うねり」が始まると、どうやらさっきの「3連続巨大渦」に近づいてゆくようだ。
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どうもあれはスズメガの幼虫なんかじゃなくて、渦巻の幼虫なのかもしれない。
なにもかもが、どんどんわかんなくなってゆく。
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度肝を抜かれたのは、このヘドラ風。
いきなり地獄のようにカッコいい。
サイドも背骨も、辮髪的ウネウネも健在で、もう脳だか腔腸動物なんだか、造り手が完全にグロ描写の虜になっているのが伝わってくるようだ。
「グッチャグチャな奴作って嫌がらせしてやるぜ!」
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ボクトツとしたカワイイ表情が多い中、このヘドラ風、明らかになんか怒っている。
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怒りの限界値を超えた波平さんというか…
どうあれ中で煮炊きしたものを、落ち着いて食えそうにはない。
ひょっとして毒味用の瓶か?
50/50で死にます的な…怖いな。
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アルフォートはあまり美味しそうじゃなかった。
他では気にならなかった丸文字的な要素がちょっと気になってきた。この「M」みたいなの、よく見るんだよな。
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蛇の頭の土偶。かわいい!
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土偶のブタ鼻。長野県産の特徴らしいです。僕も長野県産のブタ鼻なので、とっても親近感!!
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今回一番グッときたのは、この「ミニチュア土器」。高さ十センチちょっとのお手軽サイズ。子どもが練習してたのかも、とは先生の弁。
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そして、その手前に置かれた「手びねりのお猪口」がやばすぎる!!
5000年前の父の日ギフト!!
この時代、まだ日本酒はない。
じゃあ何飲んでたんだ…酒より旨いもんか!
なんにしろたまんないぞ!羨ましい!
ずっと土器にかじりつく中年を不憫に思ってくれたのか、先生は別棟保管庫の「地下室」まで案内してくれました。
まだ組み上げられていない大量の土器、レプリカ展示物の「本物」など、手つかずの遺物たちがきちんと整頓された様子は圧巻の一言。
この地域ならではの「感じ」もだんだん見え隠れするようになってきた。
近隣から徐々に遠くへ足を伸ばす土器見学は、素人でも地域性めいたものがゆっくり見えてくるのがすごく楽しいです。