【北条氏綱 五箇条の御書置】
【北条氏綱 五箇条の御書置】
小田原に居を構えた北条氏の2代目北条氏綱 が息子の氏康に向けて残したのが五箇条の御書置。簡単に意訳すれば下記となる。
・義を大事に
・全てを慈しめ
・驕らずへつらわず、その身の分限を守れ
・倹約せよ
・驕るな
「勝ツテ兜ノ緒ヲ締メヨ」は東郷平八郎の連合艦隊解散の辞で著名な名言であるが、実は氏綱の氏綱公御書置「勝つて冑の緒を締めよ」が先である。
この御書置、方針や綱領としては素晴らしい内容である。
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大意
一、大将から侍にいたるまで、義を大事にすること。たとえ義に違い、国を切り取ることができても、後世の恥辱を受けるであろう。
一、侍から農民にいたるまで、全てに慈しむこと。人に捨てるようなものはいない。
一、驕らずへつらわず、その身の分限を守るをよしとすべし。
一、倹約に勤めて重視すべし。
一、いつも勝利していると、驕りが生まれ、敵を侮ったり、不行儀なことがあるので注意すべし
原文 https://ja.wikisource.org/wiki/北条氏綱公御書置
一、大将によらず、諸将までも義を専らに守るべし。
義に違ひては、
たとひ一国二国切取りたりといふ共、後代の恥辱いかが。
天運尽きはて滅亡を致すとも、義理違へまじきと心得なば、
末世にうしろ指をささるる恥辱はあるまじく候。
昔より天下をしろしめす上とても、一度は滅亡の期あり。
人の命はわずかの間なれば、むさき心底、努力あるべからず。
古き物語を聞ても、義を守りての滅亡と、
義を捨てての栄花とは、天地各別にて候。
大将の心底、たしかに斯くの如くんば、諸侍義理を思はん。
其の上、無道の働きにて利を得たる者、天罰終ひに遁れ難し。
一、侍中より地下人・百姓等に至るまで、
何れも不便に存せらるべく候。
すべて人に捨りたる者はこれなく候。
器量・骨柄・弁舌・才覚人に勝れたる、然も文道に達し、天晴れ能き侍と見る所に、おもひの外か武勇無調法の者あり。
又何事も無案内にて、人のゆるしたるうつけ者に、武道に於いては剛強の働する者あり。
たとひ片輪なる者なりとも、用ひ様にて重宝に成る事多ければ、一人も捨りたる者あるまじきなり。
その者の役に立つ所をば遣ひ、役に立たざる所をば遣わずして、何れをも用に立て候を能き大将と申すなり。
此の者は一向の役に立ざるうつけ者よと見限りはて候事は、大将の心には浅ましき狭き心なり。
一国をも持ちたる大将の下には、善人も悪人も何程かあらん。
うつけ者とても罪科の無き内には、刑罰を加へ難し。
侍中に我身は大将の御見限りなされ候と存じ候へば、勇みの心なく、誠のうつけ者となりて役に立ず。
大将は如何なる人をも不便に思し召しぞと、諸人に普ねく知らせ度事なり。
皆々役に立たんも、又た立つまじきも大将の心にあり。
上代とても賢人は稀なるものなれば、末世には猶ほ以てあるまじきものなり。
大将にも充分の人はなければ、見誤り何程かあらん。
たとへば能く一番興行するに、太夫に笛を吹かせ鼓打に舞はせては見物成り難く、太夫に舞はせ、笛鼓それぞれに申付け候は、其人をもかへず、同じ役者にて能く一番成就す。
国持大将の侍召遣ふ事、亦た斯くの如くに候。
罪科の有る輩者は格別、小身衆には少し用捨あるべき事か。
一、侍は矯らず諂らはず、其の身の分限を守るをよしとす。
たとえば五百貫の分限にて千貫の真似をするものは、多分はこれ手苦労者なり。
其の故は人の分限は天より降るにあらず、地より涌くにもあらず。
知行損亡の事あり、軍役多年あり、火災に逢ふ者あり、親類眷属多き者あり、此の中一色にても其の身にふり来らば、千貫の分限は九百貫にも八百貫にもならん。
然るに斯様のものは、百姓に無理なる役儀をかくるか、商売の利潤か、町人を迷惑さするか、博奕上手にて勝取るか、如何にも出処あるべきなり。
此の者出頭人へ音物を遣はし、能々手苦労を致すに、附家老共目がくれ、これこそ忠節人よと賞むれば、大将も五百貫の所領にて千貫の侍を召仕候と、目見へよく成り申し候。
左候へば、家中斯様の風儀を大将は御好き候とて、花麗を好み、何卒大身の真似をせむとする故、借銀重なり、内証次第につまり、町人百姓をたおし、後は博奕に心を寄せ候。
左もなき輩は、衣裳麁相なれば此度の出仕は如何、人馬小勢にて見苦しき候得ば此の御供は如何、大将の思召も傍輩の見分も何とか思へども、町人百姓をたおし候事も、商売の利潤も博奕の勝負も無調法なれば、是非なく虚病を構へまかり出でず候。
左候へば、出仕の侍次第々々にすくなく、地下百姓も相応に花麗を好み、其の上侍中にたおされ家を明け、田畑を捨てて他国へ逃走り、残る百姓は何事ぞあれかし、給人に思ひ知らせんとたくむ故、国中悉く貧にして大将の鉾先弱し。
当時上杉殿の家中の風儀此の如く候。
よくよく心得らるべし。
或は他人の財を請取り、或は親類縁者少く、又た天然の福人も有りと聞く。
斯様の輩は五百貫にても六七百貫の真似は成べきなり。
千貫の真似は手苦労なくては覚束なく候。
去ながら、是等も分限を守りたるよりは劣りと存せらるべく候。
貧なる者真似せば又々件の風儀に成るべければなり。
一、万事倹約を守るべし。
花麗を好む時は下民を貪らざれば出る所なし。
倹約を守る時は下民を痛めず。
侍中より地下人・百姓迄も富貴なる時は、大将の鉾先強くして合戦勝利疑ひなし。
亡父入道殿は小身より天然の福人と世間に申候。
さこそ天道の冥加にて之れ有るべく候得共、第一は倹約を守り、花麗を好み給はざる故なり。
惣て侍は古風なるをよしとす。
当世風を好むは是れ軽薄者なりと常々申せ給ひぬ。
一、手際なる合戦にて夥敷き勝利を得る時は、驕りの心出で来り、敵を侮り或ひは不行儀なる事必ずある事なり。
慎むべし。
此の如く候て滅亡の家、古より多し。
此の心万事に渉る。
勝つて冑の緒を締よといふ古語、忘れ給ふべからず。
天文十年五月廿一日 氏綱 御判
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