シオン
「棺の蓋を閉じてしまうと、もう顔を見ることはできません」と葬儀場で言われた。
棺に入られた遺体、その周りを囲む色鮮やかな花。あの世で食べるものと飲むもの。
生前着ていた洋服。
火葬場で、火葬してしまえば無くなるわけで。
今はまだ、長年愛した人の姿が目の前にあるけれど、火葬してしまうことでもう、出会うことはできなくなる。
日常から無くなったんだ、と感じるときに寂しさを伴うとして。
蓋を閉じてしまうことで、触れることすら出来なくなる寂しさを僕はただ、見ているだけだった。
人間の最期は呆気のないものなのに
人間の最期はとてつもなく愛おしい
今は冷えた顔に触れることができたとしても、
数時間後には一生触れることのできないもの
となる。
寂しい。
ただ先に逝ってしまっただけなのに。
"死ぬ"という考えではなく、
"あちらの世界で生まれた"と思う。
だから、いつかあちらで出会うのだろう。