2030年の目標達成へ、データサイエンスが後押しするSDGs
今やその言葉を聞かない日がないくらい注目度が高まっている「SDGs」。SDGsという言葉は環境というイメージが強く、もしかするとITからは縁遠いイメージを持っている人がいるかもしれません。実は、SDGsの実現とITは切っても切れない関係にあります。SDGsを構成する17の個別目標と162のターゲットのそれぞれを効率的に目指し、目標とする2030年までに「持続可能な開発目標」を達成するには、最新のデータサイエンスを駆使する必要があるからです。
SDGsとはSustainable Development Goalsの略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。その言葉の通り、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指すという国際目標です。世界中で開発が急速に進み気候変動や生物多様性の損失といった課題が地球規模で顕在化したことを受け、1980年代になってから環境と共存する節度ある開発を目指す「持続可能性」の概念が生まれました。その後、2015年9月の国連サミットにおいて、SDGsは全会一致で開発目標として採択されています。
SDGsの実現には、絡み合った多数の課題を解く必要
SDGsという言葉は知っていても、それとITとの関係はあまり知られていないと思います。実はSDGsを実現するために、ITは欠かすことのできない存在なのです。
SDGsには、17の個別目標と169のターゲットがあります。17のゴールを列挙すると、「貧困をなくす」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等の実現」「安全な水とトイレを世界に」「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」「生産的で、働きがいのある雇用の促進」「産業と技術革新の基盤を作る」「人や国の不平等をなくす」「住み続けられるまちづくり」「持続可能な生産と消費のパターンを確保」「気候変動への対策」「海洋資源の保全」「陸の豊かさを守る」「平和と公正をすべての人に」そして「パートナーシップで目標を達成する」――となります。これらを実現するため、さらに細かく目標を立てて達成を目指しているのが169のターゲットです。
SDGsの目標とターゲットは非常に多岐に渡るため、それらの間には相互に影響し合うものが少なくありません。中には同時に実施することで効果が高まるシナジーが期待できるものもあれば、逆に相反して効果を打ち消し合ってしまうトレードオフの関係にあるものもあります。例えば、「持続可能な食糧生産システム」は「水質の向上」や「飢餓の削減」につながるシナジーの関係です。逆に「食糧生産性の向上」と「水不足や衛生環境の悪化」は、一方を実現しようとするともう一方の足を引っ張るトレードオフの関係にあります。
このように複雑に絡み合った多数の課題を上手に解決するために、必須となるのが最新のデータサイエンスです。シナジーを追求・拡大しながらトレードオフを最小化するためにはどのような方策を採ることがベストなのか、データを詳細に分析することで浮かび上がってくるからです。
データ分析に基づいて最適な施策を決める
幸いなことに最近の情報処理技術と自然言語処理技術の進歩で、SDGs向けのデータサイエンスのために利用できるデータは格段に増えています。国・自治体・政治家が公開している文書や統計データに加え、これまでは把握が難しかった大量の非数値データについても収集して分析することが可能になってきました。
例えば、リアルタイムに世界中で収集しているセンサーのデータや画像・動画・音声・地理情報などのデータも活用できます。なるべく多くのデータを収集し実空間と情報空間を連結させれば、国境を越えて取り組むべき問題を解決し、持続可能な社会を構築するための方策が立案可能になります。
政府をはじめとするSDGsに関わる方針の決定課程に携わる人たちにとって、データとエビデンス(根拠)に基づいて合理的に分析した結果を踏まえたうえで、全体として最適化できるよう包括的に判断することが必須です。これまでは識者や専門家の暗黙知に基づいてなされていた意思決定の過程や政策評価が、データサイエンスを駆使することにより、具体的なエビデンスに基づいて策定され、政策効果の評価される状況になりつつあるのです。
さらに、現在のような相互に依存したグローバル社会においては、自然環境の破壊を最小限に食い止めて持続可能な社会を実現するには、政治や行政に関わる人だけでなく、自然科学や社会科学の専門家、さらには一般の消費者を含めて連携し協力し合うことが不可欠です。そのための共通認識を築くために重要となるのがデータなのです。逆にデータに基づいたエビデンスなしには、利害が相反する可能性のある相手を説得して目標の実現に向かうことはとてもできません。
ビジネスに影響するSDGs、企業も他人事ではない
SDGsは政府や国際機関での取り組みで、民間には関係ないと思っている人がいるのではないでしょうか。しかし、最近ではビジネスの世界でもSDGsを重視する傾向が強まっており、民間の企業や団体も無縁ではいられません。
例えば世界中の投資家は、環境や社会、企業統治に配慮しているかどうかを重視して、投資先の企業を選ぶようになっています。最近では、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)を重視した企業に対する「ESG投資」が拡大を続けています。環境やSDGsに対する取り組みに応じて取引先を選別するところが出てきており、SDGsへの対策を取らないままでは、知らない間にサプライチェーンの輪から外されかねません。
SDGsは個人の消費活動にも確実に影響を与えています。社会的に意義のある活動をしている企業を応援したいといった顧客層が増えつつあり、商品の質がいくら優れていてもSDGsへの配慮がない製品やサービスは選ばれない風潮ができつつあります。これからは「環境に配慮されている」「製造段階で労働者への差別や格差をなくそうと努力している」といったSDGsに関連する優位性も同時にアピールする必要が出てきたと言えるでしょう。
では、企業としてSDGsにどのように取り組めばいいのでしょう。国連からSDGsの進捗状況を知るための指標が公開されていますが、そのまま1企業の目標達成を計測する指標として流用できるのは、電気・ガスや建築などの社会インフラ系企業に限られます。ただし、今後データサイエンスが広く普及することで、一般の企業/組織の指標にマッチするデータを見つけ出せるようになる可能性があるため、SDGsの進捗から目を離せません。並行して、原料の調達や雇用などで、SDGsに含まれる女性の社会参加や差別の撤廃、格差や不平等の解消などに積極的に取り組むことが求められるでしょう。