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情報が流れるままのネットメディアに批評の石(意志)を置く。

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翳りゆくメシア

author:松原新夜  1  愛用のアリフレックス16を靴墨で丹念に磨いて黒光りさせる。就寝前の日課だ。軍からの配給の話もあったが丁重に断りを入れ学生時代の思い出が一杯詰まったこいつに拘って戦場に持ち込んでいるのだ。そう初めての恋人のヌード、とあるコンテストの予選だけは通過した自主映画、大好きだった祖母の死に顔まで撮影してきた。かれこれこいつとの付き合いは二十年近くになるはずだ。特別待遇の一人用テントの中でランプの灯りを頼りに作業に没頭しながら今日着いたばかりのいままで

    • 悪魔夫人

      author:松原新夜  いま回転椅子に座し、パイロットの万年筆で、薄緑色の便箋に、青インクののたうった筆跡をこのように書き連ねている。机に向かって左側の腰高窓を隔てたバス通りでは、自動車の吹かすエンジン音と、雨で滑るタイヤとアスファルトの摩擦音が、ひっきりなしでうるさい。私は分厚い唇を半開きにし、鼻炎のため鼻呼吸ができないので、口から空気を出し入れする。花粉症の時季は疾うに過ぎている。  私は、遺書のつもりで、この文書を記す行為を始めている。貴方と、あの日に別れて五年後、

      • 黒い鳥

                                                      author:松原新夜  富士山が噴火すればいいと本気で呪詛したことがある。いまの私が同じ人間だとは思えない。些細なことをきっかけに、世界への呪詛は唱えられたからだ。成熟さが増したとも考えられない。  恥ずべき過去が巡ったのは陽射しの強い夏の盛りの真っ昼間、近所の書店で本を買い求め、興奮状態で自宅へ帰る道すがらのことだった。薄っぺらいゴム底から、堅いアスファルトの刺激が直に脳天にダ

        • セカイの分裂を見つめて

          writer:沖鳥灯  私はとある病で入院中、阿部和重『グランド・フィナーレ』に関する加藤典洋の以下の発言を読み、理解に苦しんだ記憶がある。本稿はその体験に根ざした加藤への応答として書かれた。  本誌はゼロ年代に過熱した〈セカイ系文学〉いわゆる〈ファウスト系〉を再発見するために刊行された。人口に膾炙したアニメによる〈セカイ系〉のイメージと〈ファウスト系〉は明らかに異なる。例えば谷川流『涼宮ハルヒの憂鬱』や新海誠『ほしのこえ』と滝本竜彦『NHKにようこそ!』や佐藤友哉「鏡家

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          険しい日常でぼくらが生き延びること──『彼氏彼女の事情』と『serial experiments lain』

          writer:沖鳥灯   はじめに      本稿は岡崎京子『リバーズ・エッジ』(1994)の引用詩「平坦な戦場でぼくらが生き延びること」(「THE BELOVED」(Voice for THREE HEAD)『Robert Longo』ウィリアム・ギブソン、宮帯出版社)から派生した1990年代のイメージ「まったり」へのアンチテーゼである。エピグラフの岡崎の自己解釈に対して「平坦な戦場」とは「書き割りのような戦場」ではなく現実と虚構が混成された「険しい日常」だと反駁し

          険しい日常でぼくらが生き延びること──『彼氏彼女の事情』と『serial experiments lain』

          【『ビジュアル美少女Vol.1』2023所収】美少女ゲーム批評についての異端的論考:Mad for The Killing Joke 3【36000/36000+参考文献等】

          writer&illustrator: 江永泉 承前 0''.エピグラフ・急 7.エロゲ批評再興の提案(メタコメンタリーの試み2)  こんなふうに始めてみる。  「モン娘 モン娘 モン娘 はい!はい! モン娘 モン娘 モン娘 はい!はい! モン娘 モン娘 モン娘 はい!はい! モン娘 モン娘 モン娘 Let’s Go!」(『Catch me!モンスター娘☆』2022)。『モンスター娘TD』の主題歌はそんな風に始まる。文字に起こした際の度外れたペラさ。宴席での掛け声のよ

          【『ビジュアル美少女Vol.1』2023所収】美少女ゲーム批評についての異端的論考:Mad for The Killing Joke 3【36000/36000+参考文献等】

          【『ビジュアル美少女Vol.1』2023所収】美少女ゲーム批評についての異端的論考:Mad for The Killing Joke 2【24000/36000】

          writer&illustrator: 江永泉 承前 0'.エピグラフ・破 4「レイプ・ファンタジー」批判再訪(ゼロ年代「男オタク」論再考1)  わるい意味で、「美少女ゲーム批評」という概念は鵺的である。「ゲーム批評」であれば参照されて然るべき様々な先行文献を「美少女ゲーム」の固有性を訴えることで切断できてしまう。例えば1985年にはすでにこんな問いが立てられ、様々な検討がなされていたのだ。「さて、ここでひとつの面白い共通点がみつかる。テキスト・アドヴェンチャーはどれ

          【『ビジュアル美少女Vol.1』2023所収】美少女ゲーム批評についての異端的論考:Mad for The Killing Joke 2【24000/36000】

          【『ビジュアル美少女Vol.1』2023所収】美少女ゲーム批評についての異端的論考:Mad for The Killing Joke 1 【12000/36000】

          writer&illustrator: 江永泉 はしがき 美少女ゲーム批評総合誌「ビジュアル美少女」創刊号(2023年11月)に寄稿した文章のnote版です。だいたい約3万6千字(みっつのエピグラフなど含む)あるので、三記事にわけます(本文を三分割し、参考文献表を付す)。 第一号の目次は上の通りです。第二号(2024年5月)も刊行されています。 Web公開を自分にすすめてくださった同誌主宰くるみ瑠璃さん、本稿の転載うけいれてくださったnet stones同人に御礼を。

          【『ビジュアル美少女Vol.1』2023所収】美少女ゲーム批評についての異端的論考:Mad for The Killing Joke 1 【12000/36000】

          イグニッション・パララックス──ヨルシカ《451》と「引火」をめぐって

           Writer:城輪アズサ (以下、特に記載のない場合、本文中の引用部はすべてヨルシカ《451》の歌詞を参照している) Chapter-0:fatal fragment   ある対象を語る主体の姿が隠匿され、言葉そのものの足場が揺らいでもなお「なにか」が伝わってしまうこと。それを可能にするテクストが、たしかに存在する。それは希望だ。それは光だ。寄りかかるには、あまりに危険な輝きであるけれども。  前提として、テクストはなにかを伝達する必要がある。何の思惟もなく引き裂か

          イグニッション・パララックス──ヨルシカ《451》と「引火」をめぐって

          いちご色の痕跡―残された疵とパンナコッタ・フーゴ

          writer&illustrator:Tofu on fire 「チェーホフの銃」という創作テクニックが存在する。「ストーリーに登場するものはすべて必然性がなくてはならない」というルールである。 これはだいたいの場合キャラクターにも当てはまり、一般に流通する少年漫画等のメジャーコンテンツでは必要性のないキャラクターは存在しない。(『鬼滅の刃』のサイコロ状に切って殺されるモブキャラにも、「その敵が強いことを記号的に示す」という役割があることを忘れないで頂きたい) しかしそん

          いちご色の痕跡―残された疵とパンナコッタ・フーゴ

          人間と映画の神的暴力──ゴダール、北野武、あるいは大杉漣

          writer:沖鳥灯 illustrator:川田はらいそ 1 映画史の符牒    両者の隔てる絶対的に区分される光景を提示する試みの前提として、ジャン=リュック・ゴダール『勝手にしやがれ』(一九六〇)と北野武『その男、凶暴につき』(一九八九)は、法と正義の関係を暴力によって批判的にフィルムで定着させた。  両作は戦後の法治国家でブルジョワが急速に堕落してゆくなか警察とヤクザを描く。ゴダールと北野を革命的な監督と捉える傾向は強いが、法維持的暴力で滅びる下層階級を扱い、政治

          人間と映画の神的暴力──ゴダール、北野武、あるいは大杉漣

          透明な社会と、その敵

          文責:雨土(清水雪人)  私が初めて氏の作品に触れたのは、2019年の夏のことだった。『ハーモニー』というのがその本のタイトルだった。私はまだ13歳だったが、『ニューロマンサー』を読んだことがなければ『メタルギアソリッド』も聞いたことがない、そんな青二才であった。知っているSFといえば、兄が持っていたボロボロの『1984年』と、自分で買った『華氏451度』くらいが関の山だったろう。だから、私が『ハーモニー』を手に取ったのは、ほとんど賭けに等しい行為だった。果たしてその賭けは

          透明な社会と、その敵

          アニメにおける素材の美学概論

          writer:みなかみ アニメと映画  アニメの画面に映っている事物は演出家による処理の選択の結果描かれるのであり、そこには明確な演出家の創作的意志が認められなければならない(認められなければならないが、ザルな演出家の場合、処理選択は特に考えなしに行われ、そこには創作的意志は皆無で、その意志の貫徹を画面に認めようとするのは難しいと言わざるを得ない場合が往々にしてあるのも注意しなければならない)。何故ならアニメは一からカットを作らざるを得ないので、演出家による意図がなければ

          アニメにおける素材の美学概論

          「余計」なウマ娘は嘘つき

          writer:Tofu on fire はじめに、或いはミスターシービーへ、その後ろの吉永正人へ、もしかしたら寺山修司へ 「ウマ娘」というメディアミックスコンテンツがあります。2021年にアプリがローンチされた、実在の(すでに亡いかあるいは繁殖入りした)競走馬が美少女となり、アイドル活動を兼任したアスリートとして走り、現実の過去にあった競馬の名勝負をさまざまなコンテンツで追体験することのできるものです。漫画、アニメなど多角的にコンテンツを展開しており、みなさんももしかした

          「余計」なウマ娘は嘘つき

          SOULWAXとシミュレーショニズム

          writer:沖鳥灯 ベルギーのロックバンド「SOULWAX」(1992‐)を初めて聴いたのはくるりの「OH!MY RADIO」(J-WAVE/毎週金曜/2001年10月 - 2003年9月)だと思う。セカンドマキシアルバム「マッチ・アゲインスト・エヴリワンズ・アドヴァイス」(2001.3.7release)の一曲のはずだ。 Soulwax - Conversation Intercom (youtube.com) 2001年のことなので記憶はあやふやである。一聴してた

          SOULWAXとシミュレーショニズム

          歯車たちのマザー・グース(2)──鋭利なマチズモ・『メタルギア・ライジング』について

          writer:城輪アズサ はじめに2:マチズモの位相  前回は小島プロダクションによるゲームソフト『メタルギア・ソリッド2:サンズ・オブ・リバティー』(以下、『MGS2』)の分析を通じて、ゼロ年代において先駆的に提示されていた今日的な状況──トランプ現象をはじめとする諸々のトピックによってしるしづけられる、ポスト・トゥルース的状況──を成り立たせている「情報」のフレームについて見てきた。  それに対し本稿で行うのは、ゲームソフト『メタルギア・ライジング:リベンジェンス

          歯車たちのマザー・グース(2)──鋭利なマチズモ・『メタルギア・ライジング』について