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スタートレックというUTOPIA
イーロン・マスク、スティーブン・ホーキング、ミチオ・カク――彼らが語り目指そうとする未来には、SFドラマの金字塔である「スタートレック」の影響が大きい。
"Space, the final frontier. These are the voyages of the starship Enterprise. It's five year mission, to explore strange new worlds, to seek out new life and new civilizations, to boldly go where no man has gone before..."
『宇宙..それは人類に残された最後の開拓地である。そこには人類の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない。これは人類最初の試みとして、5年間の調査飛行に飛び立った宇宙船USSエンタープライズ号の驚異に満ちた物語である..』
そんな冒頭のナレーションで始まるのが1966年に放送された「スタートレック」。宇宙船「エンタープライズ」の船長カークと、バルカン人であるコマンダーのスポック、そしてその豊かなクルーとともに宇宙という最後のフロンティアを探索する23世紀を舞台にしたスペースオペラである。放送終了後もそのカルト的人気は収まらず、ファンの声もあり世代を変えて復活。「新スタートレック」である。舞台を24世紀に変え、デザインなどもよりモダンなものに近づけた船長ピカード率いるこのシリーズも、莫大な人気を博した。またこのブームに乗るように、同時期に宇宙ステーションを舞台にした「ディープスペースナイン」、遠く離れた地球への帰還を目指す「ボイジャー」など、80-90年代はトレッキーの黄金時代といってもいい。
もちろんその魅力は21世紀においても失われていない。ハリウッド映画としてリメイクされたり、スタートレックの原点に戻りその世界を描く「エンタープライズ」「ディスカバリー」、最近でも「スタートレック:ストレンジニューワールド」など様々な作品が発表されている。
さて、そんなスタートレックで描かれる23世紀、24世紀の「未来」の人類の姿――物質的欲求から解放され、誰もが必要最低限で最高の社会保障を得られる――まさに人類はユートピアの頂点にいる。しかも他の種族とも連携しながら仲良くやっているようである。これこそ人類が思い描く最高の未来ではないか――。
しかしそこまでの道のりは決してバラ色ではなく、そこには多くの犠牲と絶望があった。例えば人類は結局核戦争で文明を一度リセットさせてしまうし、遺伝子操作されて誕生した「優生人類」が地球の独裁者になろうとしたり。そんな道を経て、人類は他の(劣った)種族に正しい道を導かせる、神のような存在となったのだ。
正直、スタートレックはSFファンを惹きつけるスペースオペラであって、それ以上のものではない。オチも毎回ヒロイズムで兄弟愛的なもので、現実世界のドロドロとした人間関係や、哲学なんてものは存在しない。「できすぎた”ユートピアなのだ。(もっとも最近のシリーズはこのドロドロとしたものを描き、オリジナルの雰囲気をぶち壊している)
そう考えるのも、2024年という21世紀の今に生きているせいかもしれない。今の世界が暗黒と絶望に満ちているせいで、私達はスタートレックをできすぎた、存在できないユートピアの姿と捉えるのだろう。そう考えると20世紀後半はまさに希望に満ち溢れた黄金時代ということになる。記憶を探ってみてほしい。
上映された当時の人々から見れば、スタートレックは今に来るだろう黄金時代の姿なんだろう。今から見れば、その黄金時代を夢見た古き良き過去へのノスタルジーを感じるだろう。そして23世紀、24世紀を生きる世代にとってスタートレックはレトロフューチャーになるだろう。
ともあれ、あなたもトレッキーの世界観に飛び込んでみないか🖖。