酷いことしてきた男性(アイツ)と二人きり・・・目が泳ぐ 彼らは大抵「よっ!」と言う(1)
外見至上主義の兄に幼少期から苦しめられてきていて、今も私は兄が亡くなっても、一切、涙が出ないのではないか、なんなら、喜びの涙が出そうだとすら思うほどに兄のことが苦手である。私は、兄の連絡先を知らない。なんと言っても、兄が結婚式を挙げることになったことを、叔母の家の冷蔵庫に貼られたハガキで知ったのである!そんなことってあるのか!兄はかなり年上なのだが、兄と会うのは、全然知らない人以上に気まずい。痴漢よりはマシだが、彼に言われたこと、やられたことは、精神的には時に痴漢よりも嫌であった。そんな兄と、どうしても法事などで会わざるを得ないことがある。
法事などで、たくさんの親族が見守る中、兄はいつも、独特の時代錯誤なカッコつけ感を漂わせて登場する。実の兄だが、背景にバブルの残り香が見える。お立ち台が見える。前髪を無理やりカールさせた髪型すらも見える。兄の自意識は、時代から大幅にずれていてクソダサい、いや、クッソ★ダサいなぁ、と毎回思う。
地方都市の長男として、両親、親族一同の期待を背負って、カラオケで田原俊彦の曲を歌って大歓声を浴びていた頃の輝ける時代は、終わってしまった。親族の中で最も輝いていた兄は外資系の証券会社が破綻した頃の圧倒的な金融危機の中、リストラに遭いかけ、リストラ候補として幹部の人々に呼び出されたそうだが、嘆願して仕事を続けた。兄の奥様の実家があった地域は、汚染されてしまい人間が住めない地域になった。主婦である奥様を、一人で養わねばならぬ喘息持ちで小柄な兄は、嘆願の結果、今もなんとか仕事をしている。そんな兄への憧れと嫌悪感がまぜこぜになった気持ちで追いこせ追いつけ、で生きてきた私も、絶賛コストの子、リストラ候補のトップランナー、躁うつの貴公子である。有休がいつも足りない。
私は幼少期に兄や、兄と母に言われたことを、事細かに覚えている。外見も、存在そのものもバカにされているような態度も。テレビを見ている時に兄が女性の芸能人に放った罵詈雑言。心のメモに全て記憶している。
そんな兄は法事などで私を見ると、いつもちょっと気まずそうだ。そして、かなり高い確率で「よっ!」と言うのである。片手をちょっと上げて。「よっ!」と言う。
長年自分に対してハラスメントをしてきた、体育会系の、脳みそがポリエステル100%でできてるのではないか、と思うくらいに知性のかけらも感じられなかった上司も、職場でたまにエレベーターなどで二人きりになったりすると、「よっ!ねすぎさん!」と言ってきた。そう言う時の上司の目つきは、まさに「泳いでいる」のだ。何か、見てはいけないものを見ている時の目をしている。憎しみだけでもないし、嫌悪感、だけでもない。目の中にうっすらとした笑いが混ざっている。
彼らは分かっているからだ。意図的にやっているからだ。無意識のハラスメントなど存在しない。私が、やり返さない人間だろうことを想定して、やっているのだ。あの目にまさる嫌な目はない。あの「よっ!」に勝る嫌な「よっ!」はこの世に存在しない。I have never seen…見たこともない…(by 安室奈美恵)
〜(2)に続きます!
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