西粟倉で3日間を過ごして 2023春①

さとのば大学のLearning Journey で岡山県の西粟倉村を3日間訪ねました。このプログラムは京都の学生向けコワーキングスペースで偶然チラシを見て知りました。私は東京での会社員生活を12年経験して、現在は京都市内の芸術大学院に通いながら仕事をしています。地方での体験型学習に興味をもち、今回のラーニングジャーニーに参加しました。

■ 西粟倉の何が人を呼び寄せているか 5地域の中で西粟倉村を選んだのは、森を活かした地域づくりに関心があったためで

す。環境分野を担当していた新聞記者時代に西粟倉の名前を聞き興味を持っていました。実際にどのようなことをやっているのか知りたいと思いました。事前に西粟倉のことを少し調べると、この村は人口約1400人のうち1割が移住者だといいます。大企業の工場があ

るわけでもないこの村に、なぜ人が集まっているのかとてもふしぎに思いました。

私がいま関わっている京都の京北地域も西粟倉と同じような森に囲まれた里山です。ただ京北の場合は西粟倉の3.4倍ほどの人口約4800人に対して、移住者は数十人程度にすぎません。「西粟倉の何が人を呼び寄せているのか」について考えたいと思い、村に入りました。

■ 人を呼び寄せる3つのこと 3日間いろいろな経験をさせていただき、実際の移住者の方にお話をお聞きすることが

できました。私が今回経験した範囲で、移住者の目線から西粟倉が人を呼び寄せている理由は3つあると思いました。

① かっこいい大人がいること

「どうしてこの村に来たんですか」と20代の何人かに尋ねました。すると「かっこいい大人がいたからです」という話を聞きました。

この村でいう「かっこいい大人」とは2つの特徴をもつ人のようです。1つ目は「生きることを自ら楽しんでいる」ということです。まずは自分が楽しそうにしていることが大事なのだと知りました。1日目の宿で出会った元湯温泉のオーナー・半田守さん(写真)の振る舞いが私にはとてもかっこよく感じられました。半田さんは京都出身で数年前に西粟倉村に移住したそうです。宿の説明のひとつひとつがとても丁寧で、施設への愛がにじみ出ていました。礼儀正しくかつフレンドリーで、きっとこの仕事に誇りを持っているんだろうなと感じさせてくれました。

あわくら温泉元湯にて

もう一つが若い人に対して「やってごらん」と言えることです。移住者の方に話を聞くと、この村には「こんなことをやりたい」という提案に、背中を押してくれる大人が多くいるそうです。実際に、あわくら会館には「やってみん掲示板」というのがありました。これは「いつでも気軽に書くことができるSNSではない『アナログな掲示板』が欲しい」という要望を受けたものだそうです。役場の人も含めて「やってごらん」と背中を押してくれる人がいる環境が、風通しの良さをうみ、移住者を呼び寄せていると感じられまし た。

②思わぬ出会いの場があること

思わぬ出会いの場があることも移住者にとっては大切だと感じました。BASE101%(写真)、むらまるごと研究所、あわくら会館を訪ねました。いずれの場も「そこに行けば何か面白いことがありそうだ」と思わせてくれる場でした。都会にあるスターバックスのような、自宅でも職場でもない居心地の良い「サードプレイス」と いった場でしょうか。地方にはよく「ハコモノ」と呼ばれる生気のない建物がありますが、西粟倉のこうした施設はきちんと血が通っていると感じました。田舎にいるとどうしても内向きの意識になってしまいがちだからこそ、こうした都会的な雰囲気のある場は大事だと思いました。

BASE101%

③ 地域全体をデザインする人の存在

またもう一つは地域を裏でデザインする人の存在です。西粟倉村に来る前に、仕事仲間や友人に「今度西粟倉に行くんだ」と話すと「牧さんに会うの」と言われました。牧大介さんのことを調べているうちに、西粟倉の仕掛け人のお一人だということを知りました。 BASEで直接お会いすることもでき、短い時間でしたが人の力を引き出す方という印象を持ちました。

地域全体を見回して、グランドデザインする人の存在はとても大きなものだと思いました。地域をデザインする人というのは、地域のストーリーを描く人といってもいいでしょう。これからの時代は、その地域ならではの価値ある物語を作れるかが人を呼び寄せるために大事だと感じました。

■   10代、20代の仲間と過ごして

この3日間は、高校生4人と20歳の青年と一緒に過ごしました。一緒に買い物に行き、ご飯を作り、恋バナもしました。最初は私が混じっていいのかなと思いながらでしたが、時間が経つにつれて一緒に旅する仲間という気持ちに変わっていきました。


10代20代の仲間と過ごす中で湧きあがってきたのは、彼ら彼女らと一緒にこれからの時代を作っていきたいという思いです。私はこれまで同世代や私より世代が上の人に意識が向いていました。しかし、これからの時代を作っていくのは若い仲間たちです。


現地での振り返りの時間の時に、うれしかった言葉があります。「すけさんと一緒にいると、自然にいられた」ということでした。10,20代の若い人にとっては年上の人といるだけで緊張する人もいると思います。私もかつてそうでした。しかし、そのフィードバックを通じて「相手を緊張させないこと」が私の一つの特徴だと感じました。世代の異なる仲間からの愛あるフィードバックを受けられることも、このさとの

ば大学の学びの特徴だと感じました。30代の人にとっても、自分を知り直す貴重な体験ができるプログラムだと思います。

■   地方で生きる道が明確になった

この3日間は、思った以上にインパクトのある時間でした。印象的だったのは、西粟倉で出会った人は、みな「素顔」を感じられたことです。一人ひとりが、素顔をさらして生きているように思いました。都会では、仕事などで出会う人の数こそ多いですが、その人自身の素顔を感じられることはあまりないように感じます。地方で生きるということは、ありのままの素顔で生きるということなのではないかと思いました。

この3日間を経験したことで、私自身も地域に飛び込んで活動していきたいという思いが固まりました。私は昨年から京都の京北という地域に関わっています。そこは西粟倉と同じように林業で栄えた地域です。地域に

飛び込むことはやはり勇気のいることで、これまで少しためらっていたところもあるのですが、西粟倉の経験で「心に従って飛び込んでみること」が新しい道をひらくために大事だと思いました。

京北は、西粟倉に負けないくらいかっこいい大人が国内外から集まっています。風通しの良い場もできてきており、地域全体をデザインする方もいます。西粟倉で出 会ったかっこいい大人たちのように、私も地域の人と関わり、ともに挑戦しながらイケてる大人を目指していきたいと思います。


この旅を企画してくださったさとのば大学のみなさま、Nestの皆様、そして一緒に旅をしてくださった仲間たちに心から感謝します。

(安倍大資)

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