研修設計マニュアル-人材育成のためのインストラクショナルデザイン
1.この本で得たかった情報
1 | 自分の研修の構造を点検したい。そのための観点が欲しい
2 | インストラクショナルデザインを自分の方法論に取り入れたい
3 | 表紙オビの「教えなくても学べる」は、直感に反する。教えない代わりに何をして、それはどんな効果があると言えるのかを知りたい。
2.興味をひかれた3つの内容
■デビッド・メリルが提唱する、インストラクショナルデザインの第一原理(ID第一原理)。5つの原理があるが、特徴は「基本的な情報を与えるときは、能書きではなく例をしめせ、Tell meではなく Show meだ」(p35)という点。「説教ではなく事例を中心に展開させる」。
■リフレクションはメタ認知、すなわち目標を具体化する力や、プロセスを管理する力、何をどのくらいやるべきかを把握する力を伸ばすために必要(p112)
■「運動技能の学習には、ぎこちない段階からより洗練された段階へとひたすら手技の練習を積み重ねることで成長する単純なスキル学習がある一方で、その場での判断に基づいて実行する必要が常につきまという複雑なスキル学習もある。この両者を区別することは有効である。前者の単純スキルについてはやり方を示した後は、練習を重ねてスキルを磨くしか道はない。一方で、後者の複雑なスキルは、そのつど頭を働かせて実行する必要があるので、カギを握るのは運動技能ではなく実は知的技能であることが多い。すなわち、一度実行できる運動技能を身につけたら、あとは「この状況はいぜんの状況と何がどう違うのか」を見きわめて、何を以前と変えて実行すべきか、あるいは同じやり方でよいのはどの部分かを考える力を鍛えることが必要になる」(p113-114)
3.技能の指導や継承、心理学とのつながり
■自分はトップダウンで考えてしまうクセがあり、理屈の説明→事例としがち。ID第一原理を思い出したり当てはめながらやると、例示や事例を厚目にするよう意識できる。ただ、何が適切な例示か?事例か?は試行錯誤。
■リフレクションのくだりは、やりっぱなしじゃなくて、なぜ毎日、毎週、やったことを振り返る必要があるのか?を説明する根拠の一つになる。
■技能五輪は機械や道具やソフトなどの使い方を学び、それを出された競技課題に対して応用するので、運動技能の習得に相当する。「そう思ってた」ってことを多少長めだけどまとめてあり、説明しやすい。
■技能五輪の指導現場を見ていると、成果が出にくいとか、なかなか伸びないとかの問題を抱えている場合、運動技能ばかりに注目していて、知的技能(どうすれば全体を通して早く正確にできるようになるか?本来の段取りを途中で変えなければならなくなったらどうすればいいか?など)に注目していないとか、リフレクションをかなり適当にやっているとかの問題が散見される。そういう問題を議論するとき、この視点が共有できるとよい。
■「教えなくても学べる」かというとそうは読めなかったかな。知識やスキルを伝えるときに、一方的に説教しないことを「教えない」と言っているのだと思う。IDは学習者が持っている知識を動員して問題を解かせ、生まれた知識やスキルの隙間に事例や例示を埋めて、「自ら気づき、学ぶ」ことを目指している。そこを強調してのオビと読んだ。実際に概念や方法は例を通して教えているし、それはそれで必要。
この本の著者
鈴木克明。熊本大学の教授で、教育工学が専門。生まれは千葉県。出版は2015年。