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短歌連作「骨に触れる」

声がしてふりかえるときその声が向日葵のものだと判るまで 陸に陸がつづいているという 怖い あなたの膝をなぞりゆく風 夜に詳しくなる夜がある 改行のようにいくつも紙を千切って めもめもというオノマトペがよく似合うひとのペン回しは鮮やかに 物語をもうしばらくは無視したい。素焼きのアーモンドを噛み砕く ホームランボールの軌道すずやかにそのようにして水をかけあう ばさばさと鳥があなたを追っていて八月の瞳孔がひらきだす 願いとはだれかのほそい肋骨のひとつをかすめとること、

    • 短歌連作「ダンボールあるいは星の炎」

      音楽は流れていない場所に居てある時間からうごきだす足 瞬間が瞬間になるするどさに百合よいまなにかを言ったでしょう 一対の大きな羽を背に付けて、それだけ 羽ばたかず陸橋を この舌をしずかにしずかに使う午後狂気ひとつに砂をかぶせて 人参の葉を切り落とす 畏怖よりも恐怖が勝るなら迷わない 意味が近く、無意味が遠くあるなんて レモンケーキをちびちび食べる ドーナツをサランラップにくるむ夜、感情は蒸されることもある 増援のひとりとなってきらきらと食の好みを言い合っただけ

      • 短歌連作「ギフト」

        破られてプリントは光りはじめる。ざらざらの紙ざらざらの朝 切り傷に切り花を押しつけるように朝焼けをこうして浴びていた 気の利いたことをしたくて海に来てこの夏の内圧の高まり ゆっくりと炎を以って昇りゆく熱気球 死の遠さ 死の近さ 奈落からせりあがる機構に見えて夜半の押しボタン式信号機 ええ、きみに火は渡したよ 紫陽花をふたり黙って数えたでしょう 造花とはいつでもつややかな真顔そのくちもとの緩むこと無く 室外機ながめる真昼、こんなにも蜜をしたたらせてさみしさは ギ

        • 「置き場」第7号から気になった歌+感想

          「置き場」第7号に寄せられた連作から、それぞれ気になった一首を引きました。以下、敬称略で失礼します。

        短歌連作「骨に触れる」

          短歌連作「アルファベットブロック」

          ゆびくぐり幾度もくりかえし指はそのまま七月のあしもとへ 遠くに山 横断歩道で瞳孔をひらいて人が人を見ている 濡れている階段を下るあなたにはあなたの旅がはじまる気配 暴力は伐りとれど切り株になりときどきそこになにかが生える レモンより汁はしたたりつつ君の握力、これからの日々の希死 喉ぼとけふるえてるのがわかるから割りたくなった陶器のように はじめから争いの無い土地ならば アルファベットブロックの整列 いくつかの窃盗を光らせながら駿馬が街を駆けてゆく景 車庫に車が

          短歌連作「アルファベットブロック」

          短歌連作「螺旋階段が揺れている」

          ひし形を街でさがしてみることを秋のはじまりからおわりまで 月に在る石の数々 鳥居からはなれるように少し歩いた 手のいくつかを交わらせつつ円陣は花占いの花の如くに コンビニのロールケーキを買っているわたし、ではなく夜の飛行機 表情のうすい大樹に愛という名を付けて途端に枯れている 確かにね、闇には闇のやりかたがあるだろうから パスタを巻いた わたしには何を言ってもいいからさ捨てないでドラッグストアの旗よ 破られるための契約、ここに来たことは駅から駅に行くため 自死

          短歌連作「螺旋階段が揺れている」

          短歌連作「離陸」

          あきらかにこぼれる寸前の水を 花の冷え 僕たちはこぼした とうめいの下敷きは机に溶けて味方を味方とよぶおそろしさ 輪になってひとりを囲むあそびだよそうして影絵の混ざり合う場所 見下せばあらゆるものは泥になる、その泥を沈みゆく人魚の手 幾万の籠を重ねて塔にするたとえばそんな来世の仕事 ふらついて誰かになったこともある すぐ右足は動き始めた びりびりとペプシコーラを飲み干せば喉に絡んでいるある失意 精神の 罪を忘れてきたようにめらんめらんと青いガスの火 んではない

          短歌連作「離陸」

          「置き場」第5号から気になった短歌+感想

          「置き場」第5号に寄せられた連作から、それぞれ気になった一首を引きました。以下、敬称略で失礼します。

          「置き場」第5号から気になった短歌+感想

          短歌連作「手には鍵」

          飴玉を捧げるように手に乗せて夜のあなたの眼を見なければ 広告を飛ばせば朝が来る動画だったはず、そこまではおぼえてる 言葉、そのくらがりを裂き生まれくるしめやかな頭韻と脚韻 アイリスをその傍らに植えていく感情というより風景に 雨の庭 そして子どもを呼ぶこえが手のようにうごめく 雨の庭 選択を問われるアドベンチャーゲーム 禁忌肢は晩夏光まみれ 占領をやがてはくりかえすだろう月光があなたにしがみつく 見えないものは見えないことをどの鍵も音楽室の鍵に合わない 無邪気無

          短歌連作「手には鍵」

          「置き場」第4号から気になった短歌+感想

          「置き場」第4号に寄せられた連作から、それぞれ気になった一首を引きました。以下、敬称略で失礼します。 タッチ・ゴー自己同一性フラグ多

          「置き場」第4号から気になった短歌+感想

          短歌連作「海と前奏」

          みなそこに手を触れにゆくようにして拾った真っ白な糖衣錠 争わずあらゆる主語がまもられてほしくて海蛇にそう話す 夢で見た紫陽花を行き掛かりに見た 何事もなくあなたに会えて 水になるまえのからだで夕立にふたりして目を閉じていたこと 雨つぶがブルーシートを鳴らすときそのゆびは一瞬のソリスト 白い月 前奏曲が終わっても何かははじまらず波しずか ひらかれた絵本のように窓はあり閉じられることなく晴天を 図書館と群青、あなたがどうやって言葉をみつけたかわからない 太陽にフル

          短歌連作「海と前奏」

          短歌十首連作「言いかけて」

          シンクの水あかを洗えばこのように夜の秩序のひとつが解る この部屋をささえてすこし誇らしくあるカーテンの白い輪郭 ともだちが宇宙人でも構わないけれど味覚の心配がある しばらくは話していない金色や銀色のおかしなうつくしさ 月がふたつあってもいいのにって言うしずかな機関車のような声 親指がコインフリップをしてみせる 屋内に雪が降ることもある 捨てられるまえの佇まいでティッシュペーパーはわたしの手のなかに やさしすぎると言いかけてやめる 苦しげなあなたの二元論を聴きなが

          短歌十首連作「言いかけて」

          短歌五首連作「眼と刃」

          濡れた砥石のような夜道を歩きつつ冥福を祈られないひとのこと 六月のますます落ちていく視力 凶行は報道されていく 目付きとはひとつの武装であることをあなたの前では眼鏡で居たい ていねいな拒絶があってそれからの花のすべてが造花にみえた 手に刃物 あなたはとてもしなやかに切ってゆくひと玉のキャベツを

          短歌五首連作「眼と刃」

          短歌五首連作「夏野菜カレー」

          両脚の絆創膏をはつなつの雨に濡らしたのをおぼえてる きみから見て右側にある葉桜を眉ひとつ動かさず見てほしい 置いていかないでと言えば焼かれゆくバームクーヘンみたいに暑い 公園のひかりを率いつつ鳩はするどい眼力のままで来る 夏野菜少なめカレーをかき混ぜてわたしがきみになる一万年

          短歌五首連作「夏野菜カレー」

          短歌十首連作「恐れない」

          頭痛薬買い込みながら夜の水がつめたいことを希望と思う 沈黙の正しさ、いつか居なくなるVTuberの冬用衣装 ふらふらと高度を上げてゆく月をみながら君を迎える準備 冷えた君にホットコーヒーを手渡して僕はわずかに犯人になる ミルクレープを裂く聖夜 恐れないことがときにはひつようらしい 遠いままサイレンが通りすぎてゆくしずかに君はそれを聴いてる ショートショートの頁をめくる音だけが聞こえるせかい 正夢ではない 干渉は針 ちくちくと僕たちの髪が僕たち自身に触れて あま

          短歌十首連作「恐れない」