ダンス:博論発表の一部
2019/10/24 @les laboratoires d’aubervilliers
パリ8大学に提出された博士論文の発表(Pauline Le Boulbaさんによる): « Border, déborder, saborder »+ダンス « Ôno-Sansation »を観に行きました(パリ8大学で修士をされている方に教えていただいて足を運んだ)。そもそもパリ8の特色はrecherche-création なので、こういう形がよくあるのだそう。すごいなあ。羨ましい。
博士論文の中身もすごい面白そうだった。要約しか読んでいないけれど。。なんらかの感覚の受容、記憶の再現に基づくダンス作品3つを取り上げて論じる。そのうちの1つが、大野一雄の「ラ・アルヘンチーナ頌」である。その後、Laurence LouppeとJill Johnstonの批評と、その遺産について論じる。博論発表の部分は、もう雰囲気からして面白いじゃんみたいな感じだったのですが、残念ながらフランス語理解が追いつかず、多分その面白さの1%くらいしか受け取っていない。。
『ラ・アルヘンチーナ頌』は、大野が若い頃にみた「ラ・アルヘンチーナ」というダンサーの踊りの記憶を、ある絵をキッカケに思い出し、それを自らの身体で再現した、という…。記憶とダンスの関係、興味ある。
2010年まで大野は生きていて、踊っていた。2010年の私は、舞台芸術といえば劇団四季と宝塚くらいしか知らなかった。ピナ・バウシュも大野一雄も生で見たことがない、そしてもう絶対に見れない、という自分がちょっと悔しい。
映像を観てやるんだから!!!!!ああ、見たことないものおおいなあ。。(映像で見たことあることと、生で見たことあることに、知識とか価値として違いはあるのか?とちょっとは思うけど)
『ラ・アルヘンチーナ頌』は、Youtubeに映像が上がっていて、へえ、という感じでちらっと見ることができるのだが、その大野の写真は、Antony & the Johnsonsの2009年のアルバム、The Crying Lightのアルバムジャケットになっている。この、Antony & the Johnsonsのサードアルバム全体が、舞踏家大野一雄に捧げられているものだ。
その話を知ったソースは、朝吹真理子の『Timeless』(2018年、新潮社)である。
Kindle版しかもっていないので引用は不正確だが…(『Timeless』位置No.866)
キッチンカウンターに置かれたiPhone からAntony and the Johnsons のAnother Worldがかかっている。きれいな曲だね。iPhone にジャケットがうつっていて、花を髪にあしらった白塗りの骨張った老婆がくちをうすくひらいている。そこから魂が浮きでているような、ジャケットだった。舞踏家の大野一雄のポートレートだった。アミが、その人知らないという。私もよく知らない。芽衣子さんがむかし付き合っていた恋人が舞踏好きで、写真集が家にあってたまたま知っているだけだった。
という描写が、大野一雄の『ラ・アルヘンチーナ頌』のジャケット写真についてなされている。
Antony & the JohnsonsのAntony と、大野一雄の関わりはとても深い。Antony さんがそもそも大野一雄の大ファンで、2010年には『Antony and The Ohnos 魂の糧』と題して、大野慶人と共演し、大野一雄の作品世界にオマージュを捧げるコンサート・パフォーマンスを行なっている。
この記事で、Antony が大野一雄に寄せた追悼記事の邦訳が読める。Antony さん、本当に大野一雄が好きだったんだな…この記事の中に、大野一雄を知ったキッカケは、「10代だった頃の1987年に、フランス北西部のアンジュで、はがれかけた大野一雄のポスターを見たこと」と書いてある。大野一雄は、1980年、1982年と1986年にフランスで公演をしている(ただしアンジュからはかなり遠い場所で)。アントニー少年が見たのは、おそらく1986年の公演のポスターだったんじゃなかろうか、と思うけれど、この時期に舞踏は大ブームを巻き起こしていたので、もしかしたらそのポスターは公演とは関係なく貼られたものだったかもしれない。1年も前の公演のポスターが残っているというのもすごいし。でも1987年、と明確に言っているということはやっぱり公演のポスターだったのかもしれない。しかし、なぜアンジュで…と思う。ナンシーとか、アヴィニョンとか、演劇祭をやっている街でも、パリでもなく、アンジュ…調べるまで知らなかった街だ。
しかもアントニー少年は、イギリス人で、当時はカリフォルニアに住んでいたはず(Wikipediaによると)。そんなことを思うと、縁とか運命みたいなものを信じてみたくなる。きっとアントニー少年は、旅行でアンジュという小さな街を訪れ、偶然剥がされずに残っていた1年前のポスター(当時はそんなに有名なダンサーではなかったはずだ)を持って帰った。それからずっと大野一雄にインスピレーションを与えられ続け、ついには大野一雄に捧げるアルバムを作り、死の直前だった大野一雄と出会い、息子と協働するまでになる、とは…
ちなみにちなみに、The crying Light 収録曲の、Epilepsy is Dancing(epilepsy=癲癇)という曲のMVがすごい。
「春の祭典」っぽさがある。
朝吹真理子の話に戻ると、『Timeless』を読んだ時、この人はすごく、趣味がいい人なんだなと思った。貴族か?と思うくらい、趣味が多様で幅広くて深い。特に音楽。村上春樹なんて比じゃねー、、というくらい。
「ラフ・シモンズ」というブランド名、Timelessにも出てくるけど、バッドホップのForeignにも出てくる(「光るチェーン首元 着込むシャツはラフシモンズ」)。なんだそのブランド!知らねーよ!
朝吹真理子が描く生活スタイルも、なんか洗練された、Tokyoのシアーでスムースで質の良い生活、、って感じ。ダサさが1mmもないんだよなあ。。
『Timeless』ではこんな場面がある。(位置No.613)
ゆりちゃんの通夜の夜、居酒屋の廊下ですれ違ったアミに、つけていたサンタ・マリア・ノヴェッラのパチュリの香水を、そこのメーカーのではないかと問われて、われわれの会話がはじまった。死体や大麻を密売するときに警察犬の鼻をきかなくするためにパチュリをつかうのだとアミが笑いながら言った。きみはなにを隠しているのかとたずねられているようだった。
アミはその後主人公と結婚する人。ちなみにこのとき彼らは大学三年生である。
なんでやねん!そんなやつおるかい!パチュリやな〜と思ったら「もしかしてサボンじゃん?超しっとりするよね」くらいでもめっちゃ感動するやろ!
実際Wikepedia見たら、本当に知識人階級って感じで唸ってしまった。一族郎党でWikepediaに項目があるってなんやねん。
なんだか、朝吹真理子の『Timeless』を非常に俗っぽく語ってしまったけど、本当はすごく調和がとれた作品だった。第1部はとくにそう思う。芥川賞受賞さくの『きことわ』も読んだはずだけど全く記憶にない。けど、『Timeless』はとてもいい東京だと思う。今しかないように見える東京の記憶をふわふわとリアルに描いていて、とても好きだ。
そして今まで書いてきたことは、ほとんど博論発表に関係なかった。
ダンスは、ソロって難しいのだな〜という感想。うす〜い水色の照明を全体にあて、字幕は明るい白で出すというのが、なるほどな〜と思った。
大野一雄のアルヘンチーナを再現するのだけど、真正面を向いてやるのではなく、観客に背を向けてやる、というのが面白かった。
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