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22夏旅行記⑥ エポス、21万返して!不正利用のイスタンブール

1.イスタンブールのすてきな一日

 イスタンブールに着いて3日目、ここ数年で一番のトラブルが発生した。簡潔に言うと、愚かにもクレジットカードを紛失(ATMに吸い込まれ)し、21万円分を不正利用された。帰国後に改めてエポスカードに問い合わせたが、結局補償の対象とはならなかった。時系列が前後するものの、次の章ですべてを記しておきたいと思う。この章では、悲劇の前の美しい一日の思い出を振り返るにとどめる。

最高の朝食

 ホステルで最高の朝食を食べたあと、しばらく歩いてグランドバザールへと向かった。グランドバザールはとにかく広く、ここで揃わないお土産物は一つもないと言ってよいほどに多くの店が並んでいる。隣のヌルオスマニエ・モスクの名を冠したヌルオスマニエ門から足を踏み入れる。トルコ語やアラビア語でヌルは「光」という意味をもち、アラビア語では「サバーフル・ヌール(光の朝=おはよう)」という表現もある。つまり、ヌルオスマニエとは「オスマンの光」という意味となる。セキュリティ上の問題から、バザールに入る時には金属ゲートをくぐる必要があるが、果たして本当に機能しているのだろうか。

雰囲気のある門

 適当にバザールを冷やかしたあと、そろそろ現金が足りなくなってきたのでキャッシング手数料のかからないATMを探しつつ(当然、これはフラグである)、この日の目的地であるイスタンブール考古学博物館まで歩く。

美猫がいた

 イスタンブール考古学博物館は、考古学博物館と古代オリエント博物館、イスラム美術博物館の三つの建物がある。そのうち古代オリエント博物館は残念ながら改装中だった。入場料100トルコリラ。博物館の目玉は、なんといってもこの石棺である。シドンのネクロポリスから出土したものだ。
 間違った情報を掲載したブログやツイートも見かけるが、『アレクサンドロス大王の石棺』と呼ばれているものの、アレクサンドロス大王の身体がおさめられていたわけではない。かつてはそう考えられていたらしいが、実際はアレクサンドロス大王支配下のサトラップの棺だそうだ。

鮮やかな色が少し残っていて綺麗だ

 考古学博物館を見終わった後はガラタ橋へと向かい、イスタンブール名物サバサンドを食べる。レストランで供されるようなノーマルのサバサンドは、切り込みを入れたパンに焼いたサバと野菜を挟むものだが、ガラタ橋のたもとの屋台で売られるサバサンドはトルティーヤのような形になっている。醤油と少しスパイシーな味わいが混じり、これがまた美味しい。ノーマルなサバサンドは食べていないものの、この味を超えてくることはないだろう。一個40トルコリラだったが、現在はもっと高くなっているかもしれない。またこのサバサンドを食べるためだけに、イスタンブールに行きたい。

うますぎる!小骨もきちんと取られていて口触りもよい

 サバサンドを食べ終わると、午後の微妙な時間だ。とりあえず一度はボスポラス海峡を渡るフェリーに乗っておきたかった。新市街のKaraköyから海峡を挟んで向かい合うアジア側、Üsküdarへ渡る。乗船はとても簡単で、イスタンブールカードでトラムやバスに乗る時と同じ感覚である。
 アジア側は安くてローカルなグルメ巡りに最適なのだが、歩いて足がパンパンなうえ、さっきサバサンドを食べてしまった。しばらく黄昏たあと、再びフェリーでヨーロッパ側へ戻る。ちょうど日が傾くころ、西日に照らされるイスタンブールの街並みは美しい。いくつものモスクのドームとミナレットが放つ異国情緒に浸り、これだから旅はいいんだよなあ、など思っていた。

フェリーから。

 フェリーから降りたあとは、二つ目のサバサンドを食べ、歩いてガラタ橋を渡る。夕焼けがきれいなので、明日イスタンブールを去る予定なのだから、と旧市街側をバックに良い感じの写真を撮ってもらう。今見ると調子こきやがって、としか思えない。

ノリノリだ

2.イスタンブールの悪者、日本の愚者

 さて、この記事の本題である不正利用について触れる。半年が経ってやっとそれなりに受け入れられるようになったが(カスのあなたに逢いたくてじゃん)、未だに自分の愚かさに落ち込んでいるくらいだ。
 不正利用されたのは、ガラタ橋の旧市街側のたもと、正確な場所は覚えていないが、エジプシャン・バザールからトラムのEminönü駅の間の、広場の中にあるATMだった。何となくこの辺だろうか、という位置情報を載せておく。QNB finansbankのATMだ。

 トルコの街中にはそこらじゅうにATMがあるが、多くは複数の会社がまとまって設置されている形である。使おうと思っていた会社のATMがうまく使えず慌てていると、その様子を見た現地の人が声をかけてきて、「隣のATMなら使えるよ」といった雰囲気のことを伝えてきた。そのATMにクレジットカードを挿入してみると、カードが出てこない。慌てて後ろに並んでいた人に身振り手振りで訴えると銀行の問い合わせ先を調べてくれたが、トルコ語も英語も話せないうえ、この日は祝日だった。

 しかし、クレジットカードは予備も持ってきたし、これくらいのトラブルは想定内だ。後ろにも大勢が並んでいたため、もうどうしようもないと判断して順番を譲ったのち、クレジットカードの窓口に連絡して停止の手続きをした。だが、結局はクレジットカードの情報は悪人にわたり、停止手続きをする前に21万円分を不正利用されていたし、予備のクレジットカードはそもそもキャッシング枠が設定されていなかったため、親に送金を頼む事態になってしまった。愚かさでもう頭が痛くなってきた。

この写真を撮っている間に、おそらく不正利用されていた

 どうやって不正利用されたか、結局ははっきり分からない。不正利用に気づいたのは一週間ほど経って、夜行バスの中だった。帰国後問い合わせをして分かったことも含めると、

①停止手続きをするまでのほんの10数分の間に、21万円分が使用された
②キャッシングで現金も引き出されており、暗証番号も割れていた→覗き込まれていた?
③声をかけてきた人はおそらくグル(推測)


といった状況だ。

 ②と③について、当然警戒はしていたものの、とても人通りが多く賑やかな場所であり、他の現地の人も気にせずにそのATMを使っていたため、大丈夫だろうと判断してしまった。また、カード差込口に機械が取り付けられ、スキミングされるという手口がある。その事例は知っていたが、ネットで見ていたスキミング用の機械とは異なり、他のATMと同じに見えたため、迂闊にもあまり疑うことなく使ってしまった。
 完全な推測となるが、ATMにはスキミングの機械が取り付けられており、最初に声をかけてきた人物が悪人で、自分が暗証番号を入力する様子を盗み見た上で即座に偽造を行い、ほんの10数分のうちに何らかの買い物と現金を引き出した、という流れだろうか。
 カードが吸い込まれたのは単なる偶然だったのか、方法は分からないものの吸い込まれたカード現物を回収するために仕組まれていたのか、という点についても疑問は残るが、もうどちらにしても結果は変わらない。少なくとも言えるのは、平日の銀行が開いている時間、銀行の中のATMでキャッシングを行うこと(これがなかなか難しいが)、旅行前にキャッシング枠の確認を行うこと、絶対に他人を信用しないこと、10分以内でも遅いことがあるので即停止手続きをすること、やりすぎと思うくらい暗証番号の入力部分は隠すべきである、ということだ。最悪暗証番号さえバレなければ補償はしてもらえる。もっとも、こんなに愚かな人間もそうそういないかもしれないが。

 帰国後にエポスカードに問い合わせたところ、さんざん聞き取りが行われたあと、調査担当者に「暗証番号が入力された状態で使用されているため、不正利用の補償外となる」と言われた。唇が“わなわなと”震えるのがわかった。分かるよ、それが決まりだもんな、分かるよ、それを許したら虚偽の不正利用申告が増えるもんな。あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 大学の駐車場の隅っこでしゃがみこんで、もう大人なのに、泣いた。エポスカードさん、イスタンブールの誰か知らない悪い人、21万円返してください。

3.バザール、魂のない塩振りおじさん、さよならイスタンブール

 本来ならばイスタンブールの次は、バスで2~3時間程度のブルサへと向かう予定だった。ブルサはイスタンブールが首都となる前にオスマン帝国の都が置かれた場所で、「緑のブルサ」とも呼ばれる。イスタンブールの次くらいに楽しみにしていたのだが、前述の件でブルサ行きを諦め、イスタンブール滞在を2, 3日ほど延ばすことなった。
 1日は何もできず(金がないため)、家族からの送金を受け取ったあと、少しでも気を晴らすために散策へ出かけた。ブランドものがひたすら売っている路地がある。カスタム君の出番だ。

 グランドバザールの近く、バヤズィト広場に面した大きなモスクに入ってみる。名前はそのままバヤズィト・モスクで、16世紀初頭にバヤズィト2世の命で建てられたものだ。中はピンク色と白が基調となっていて、他のモスクよりもかなり優美で柔和な雰囲気がある。その内装や中庭の清潔な印象から比較的新しいモスクと勘違いしていたため、後から調べて驚いた。とても可愛らしくて好きな色合いだ。

“女性的”モスクと言えるかも

 広場を通って、グランドバザールへと入る。自分用の土産を買うという目的もあったが、なによりTwitter好きのオタクとして、これが見たかったのだ。魂のない塩振りおじさん(ヌスレット・ギョクチェ)だ。彼が経営しているステーキレストランもそばにあったが、これがまた高い。

毛がリアルで怖い

 グランドバザールには何でもあるが、その周りに広がる小売店も含めると、「全て」が売っているのではないかと思う。シーシャの道具、貴金属、おみやげのマグネット、服、食器……。しかし、一番見ていて楽しいのは、骨董品の店が集まった一角だ。おそらくオスマン帝国時代のコインや、古びたイコン、ロザリオ、ライターなど、ファンタジーの世界でキーとなるようなアイテムばかりが並んでいる。どれをとっても、一度手にのせればそこから冒険が始まりそうだ。

かわいい~~ モスクには猫が多い。

 適当に自分用の安いお土産(いろんな店にあるポケットティッシュ大のポーチ)を買ったあとは、バザールの外へ出て、Bena Ice Cream(https://goo.gl/maps/S2DvJJSH6ScAoraa6)という店でおやつにする。前回の記事には載せていないが、とても気にいった店なので2回目の訪問だった。小さな店だが、絶えず地元の人が訪れては店員のおじさんに注文を入れている。フレーバーは日替わりで、全然分からないなりに適当に頼んでみる。こういう店って大抵良いんだよな。みんな隣接するモスクの庭で猫を見ながらアイスを食べていた。夏でも涼しく、あまり観光客で溢れることもないのでおすすめの場所だ。

猫が争っている

 次の日、結局1週間ほどお世話になったホステルで最後の最高の朝食を食べる。この朝食がもう食べられないのは寂しい。この日は、夜行バスでイスタンブールからカッパドキアへと向かう予定を立てていた。トルコは都市間バスがとても充実しており、obilet.comというサイトでバスの行き先や値段を検索することができる(一部対象外の会社もある)。
 しかし、外国人はこのサイトを使って予約するのが難しく、決済までたどり着いてもクレジットカードがはじかれてしまった。仕方ないので、バスターミナルに早めに行ってチケットを買うことにする。トルコではバスターミナルのことをオトガルと呼ぶ。オトガルは大抵郊外にあるため、自分は今回利用する機会が無かったが、バス会社によってはドルムシュという送迎バスを出してくれることもある。

 イスタンブールは大都市だからバス乗り場はいくつもあるが、ヨーロッパ側の最も大きなオトガルは地下鉄で簡単にアクセスすることができる。

地下鉄の駅内もかわいい

 トルコのオトガルと日本のバスターミナルを比べたときの最も大きな違いは、前者は会社ごとに窓口が分かれている点だろう。日本の高速バスは多くが事前予約を前提としていて、会社別の窓口が設けられているのはほとんど見たことがない。一方、イスタンブールのオトガルはとにかく巨大で、楕円状に窓口が並び、しかも同じ会社の窓口があちらこちらにある。そして、窓口は待合室にもなっていて、建物の裏側からバスが発車するのだ。

 チケットを買うときに教えてもらった発車口の番号が98-99という数字だったことからも、その巨大さがわかるだろう。バス会社の看板には、主に取り扱う行き先の名前が書いてある。会社ごとに特色があり、国際バスを運行する会社の中にはKiev, Romania, Moscowといった行き先のものもあった。戦争の影響で、おそらく実際には運行されていないだろう。実際に乗るとしたら何時間かかるのだろうか。
 国内の行き先で目立ったのは、Adana, Malatya, Kars……というトルコ南部、トルコ東部の地名だ。さまざまな地名を眺めながら歩いているだけで、「行こうと思えばどこにでも行けるのだ」という感覚が湧いてくる。

 多くのバス会社の中から選んだのは、大手バス会社のひとつであるKamil Koç(カミルコッチ?)だ。イスタンブールから、カッパドキアの近くの大都市カイセリKayseriまで、11時間ちょっとの夜行バスである。カッパドキアの中心の街ギョレメGöremeへのバスもあるのだが、カイセリも歴史のある街なので、少し見ておきたいと思ったのだった。

 バスが発車するまで数時間あったため、近くの大きなショッピングモールまで歩いていって時間を潰すことにした。H&Mやスタバといったチェーン店を見ていると、地元のイオンモールにいるような気分になる。晩ごはんはトルコに来てまでバーガーキングを食べた。

 いよいよ夜行バス出発だ。トルコのバスがいいと言われる理由には、社内でジュースやお菓子をサービスしてくれることが挙げられる。また、座席にはモニターがついているが、トルコ語なのでわからない。確かクルアーンも聴けたと思う。バスは3列シートを選んだが、日本のバスのようにカーテンはついておらず、そこはマイナスポイントかもしれない。では、おやすみなさい……。さようなら(この時はまだ気づいていなかったが)不正利用のイスタンブール。また必ず来るよ、イスタンブール。


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