幼児の 手を振る先に 笑顔満つ
老境自在(35)
散歩の途中で練馬区の清掃工場(ゴミ焼却場)に近づくと、お母さんに連れられた2人の子供が、出入りするゴミ収集車に手を振る後ろ姿に出くわした。手を振られたゴミ収集車の運転手が満面の笑みで手を振って応えている。
コロナが蔓延し、初めての緊急事態宣言が出された頃、感染リスクの高いゴミ収集に従事する人たちを気遣う声が高まったことを思い出した。無邪気に手を振ってくれる子供を見れば、コロナ禍で積もったストレスが一気に消し飛ぶに違いない。子供はパトカーや救急車等の特殊車両を見るのが好きなものだ。ひっきりなしにゴミ収集車が出入りする焼却場の入り口は、この子達にとってお気に入りの場所なのだろう。
東京都23区で21の清掃工場があり、都民の出すゴミは安定的に処理されている。しかし、この状態がいつまでも続く保証はないようだ。焼却後に出る灰等の残渣やプラスチック等の不燃ゴミ(事前に粉砕処理される)は東京湾の最終処理場に埋められているが、今のペースで埋め立てが進むと最終処理場は50年しかもたないのだそうだ。東京湾は広いので埋め立てできる海域が残っているようにも思えるが、都の資料によると江戸時代以降東京湾(江戸湾)にゴミを埋め立て続けてきた結果、現在の埋め立て地が最後に残された海面になってしまったとのことである。
今日、無邪気に手を振っていた子達が大人になる頃には埋立地が残り少なくなり、ゴミ処理が大きな社会問題になっているかもしれない。彼らはこの問題をどう解決するのだろうか。都市に人が集中すると共にゴミの処理に悩まされるようになったことを考えると、都市から地方へと人の流れを変えることが解決の糸口かもしれない。
東京湾とゴミから、「大森貝塚」が思い浮かんだ。貝塚は縄文人のゴミ捨て場跡である。我々がゴミを捨てた場所には、焼却灰と粉砕されたプラスチックの塊が残る。千年後にこの塊を見つけた人類は、それを「プラスチック塚」とでも呼ぶのだろうか。