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    言語化の訓練のために書いた記事のまとめ

最近の記事

読書の特権性に対する違和感の表明: 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』書評

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』を読んだ。著者の主張に違和感を覚えたのでそれを言語化したくてこの記事を書く。 書籍情報三宅香帆(2024) 『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』 集英社新書. https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721312-6 概要「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」という問いは、著者の経験から生まれた。もともと読書が好きだった著者は、社会人

    • メモ: 理念と欲望について

      自分用に整理した内容をメモとして残しておく。 欲望・理念・幸福について問い: 現状幸福なら別に何かやろうとする必要はないのでは? 回答: 必要はないが、「やったほうがいいだろ」と思ってやる。そしてそれは仏教的幸福観とコンフリクトしない。 問いの背景 仏教的幸福観に端を発する。以下、主観的な仏教の理解なので、間違っている可能性は大いにある。 仏教では幸福=不幸ではないことと考えられている。不幸はどこから来るかというと、執着だという。 執着とは、理想形と現実のギャップに苦し

      • テッド・チャン「理解」: 考察という名の誤読

        テッド・チャンの短編集『あなたの人生の物語』に収録されている「理解」という短編を読んだ。 私はこの話を陰謀論者の話として読んだ。おそらく誤読なのだが、結構面白い解釈なのではないかと思われたので、noteに書いて供養したい。 あらすじ(途中までのネタバレを含みます)事故により植物状態のような状態に陥ったと思われる主人公が、投薬により回復した。薬の影響で知能が著しく向上し、身の回りにあるあらゆるものに対して、それに内在するパターンを見出し、メタ的に理解することができるようにな

        • 読書について考えていたらいつの間にか人生について考えていた

          読書に関する本を読んだ。 荒木博行 『自分の頭で考える読書』 日本実業出版社, 2022. ショウペンハウエル 『読書について』 斎藤忍随 訳, 岩波文庫, 1960. 外山滋比古 『異本論』 ちくま文庫, 2010. 3冊それぞれの書評はいずれ書くつもりであるが、今回はこの3冊を読んでいろいろ考えたことについて書く。 『自分の頭で考える読書』では、「本は読み手によってはじめて命を与えられる」ということが述べられる。ほとんど文字情報のみで構成される本は、映像媒体など

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          不確実性について

          前々回 前回 今回は「2. 将来のことはわからないので、現時点では何が正解か判定不可能」について書いてみる。 未来が不確実性の塊であることには異論の余地がないと思われるが、現代社会ではそれが十分に合意されていないように感じる。たとえば新規事業の立ち上げであったり、新規システムの開発見積もりなど、不確実性への対処を迫られることは多々ある。もちろん予測を立てることは重要だ。何も考えずにただ始めると、ほぼ確実に失敗するだろう。過去の実績をもとに将来に対する予測を立てることで、

          不確実性について

          生きることにはモチベーションが必要

          前回の記事で、今後整理したい内容について箇条書きで述べた。 今回は表題にもなっている1つめの内容について記載する。 生まれたらいつか死ぬ。それまでは生命維持のための活動を続ける必要がある。どのような行為にも始点と終点がある。行為の終点とは、その行為によってもたらされる結果である。何らかの結果を期待することが行為の始点につながる。 1つの行為は、さらに細かい行為に分割可能と思われる。そうして分割された細かい行為の中には、無意識的に行われる行為もあると思われる。そのような行

          生きることにはモチベーションが必要

          言語化の訓練を毎日やる

          これからの人生でこれをやろうと決めていることがあり、それをやるにあたって自分の思考を整理して言語化する必要があることがわかってきた。今の私にはその技能がないので、それなら言語化の訓練をやろうと思い、毎日文章を書こうと決めた。今日はその初日である。今回は今後の進め方と、最終的には何がしたいのかについて書く。 進め方文章を書くことは記事を投稿することとイコールではない。また何文字数制限も課さないでおく。今日はこれについて書こうと決めて、自分が書けたと思ったらOKとしておく。

          言語化の訓練を毎日やる

          2023年読んで面白かった本(人文社会科学多め)

          年末に書くやつを書きました。今年出版された本は少なめ。 社会科学現代経済学 ゲーム理論・行動経済学・制度論 経済学と一口にいってもいろいろあって、どこから手をつけていいか分からなくなるが、本書を読めば、これまで経済学が辿ってきた流れと、各分野の特徴が分かる。おすすめ。 プロパガンダ[新版] 古いけど現代にも通じる示唆があり、面白かった。 この本自体が著者の職業のプロパガンダとなっている点も面白い。 歴史検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? この夏話題になってたブ

          2023年読んで面白かった本(人文社会科学多め)

          労働について

          私は労働が嫌いだ。生活のために仕方なくやっているという気持ちがある。 この度転職することにしたのだが、転職活動にあたり、そもそも労働とは何なのか、自分の人生においてどういう位置づけとなるのかについて考察してみた。 労働とは――辞書的な定義Wikipediaの定義は以下。 労働 - Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/労働 新明解国語辞典第8版の定義は以下。 大辞林第4版の定義は以下。 以上の辞書的な定義から、労働の要素を抽

          労働について

          詩との付き合い方について: 『今を生きるための現代詩』

          導入 自分のこと私は趣味で音楽制作をすることがあるのだが、いつも作詞に困る。 伝えたいことが特にないのだ。 そもそも詩を読むということがあまりなかった。 お気に入りの曲の歌詞はたまに詩単体で読んだりもするが、それもまず入口に音楽があったからであって、最初から詩単体として読むことはない。 私の好きなミュージシャンにサカナクションがいる。サカナクションの楽曲の作詞をつとめるのは、フロントマンの山口一郎だ。今年の3月、山口は詩集(と呼んでよいのか本当のところはわかっていないが

          詩との付き合い方について: 『今を生きるための現代詩』

          浮き彫りになるプロパガンダの威力【『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』読書感想文】

          読書感想文 この言葉はアサシン クリードというゲームに登場する、アサシン教団の信条だ。この言葉を表面的に捉えると「好き勝手にしてよい」という意味に聞こえるが、そうではなく、「真実とはたった一つの絶対的なものではなく、見方によって異なるもの」と解釈できる。私は人文学を勉強するとき、この言葉をよく思い出す。 『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』も、事実を多角的に検証することの重要性を思い出させてくれる本だ。本書は時折見かける「ナチスは良いこともした」という議論について検証

          浮き彫りになるプロパガンダの威力【『検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?』読書感想文】

          何かを大衆に信じさせる技術【『プロパガンダ[新版]』読書感想文】

          読書感想文エドワード・バーネイズ著、中田安彦訳・解説の『プロパガンダ[新版]』を読んで驚いたのは、1928年に書かれたこの本の内容が、少しも古さを感じさせないことだった。 「プロパガンダ」と聞くと、大衆を扇動するための政治的活動を想起するが、もともとの意味は「カトリック教会の外国伝道に責任を持つ枢機卿委員会」を指す言葉であり、本来悪い意味は内包されていない。プロパガンダとは、広義には「広めること」、「宣伝」を指す言葉である。この本ではプロパガンダとパブリックリレーションズ

          何かを大衆に信じさせる技術【『プロパガンダ[新版]』読書感想文】

          頭で理解するだけでは足りない【『唯識の思想』読書感想文】

          読書感想文本記事は横山紘一の『唯識の思想』(Kindle版)の読書感想文である。 唯識思想は大乗仏教の思想である。 西洋哲学でいうところの唯心論の考え方に近く、我々が普段「ある」と考えているすべてのものは実際には存在せず、識(感覚器官など)を通じて「ある」ように認識しているにすぎない、という考え方である。 唯識思想では心(識)は「あるようでなく、ないようである」(位置No.785 など)ものとされる。 上で述べたように一切のものは心から生じるが、それが生じるのは、それを生

          頭で理解するだけでは足りない【『唯識の思想』読書感想文】

          現代人は他人に興味を持てるのか【『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』読書感想文】

          本記事はケイト・マーフィ著「LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる」の読書感想文である。 本書は「話を聞くこと」の大切さを説く本である。 話を聞くことは、本質的に相手のことを理解することであり、重要な行為であるはずだが、現代では話すことが重視され、聞くことは軽視されている、と著者は主張する。 他者とのつながりが希薄である現代社会において、人を理解し自分を理解してもらうために、聞く力をつけるべきだという。 本書では、聞くために必要な方法についても記載されているが、

          現代人は他人に興味を持てるのか【『LISTEN――知性豊かで創造力がある人になれる』読書感想文】

          世界をシンプルに捉えることの危険性。様々な尺度から考えることの大切さ【『戦争の地政学』読書感想文 】

          本の概要本書はまず地政学がおこった歴史的経緯の説明から始まるが、ここでは割愛する。 そもそも「『地政学(Geopolitics)』とは、地理的(Geographical)事情を重視して政治(Politics)情勢を分析する視点」(p.8)であり、特定の学問分野ではない。地政学の理論的な枠組みとして、英米系地政学と大陸系地政学の2つがある。 英米系地政学は、「ランド・パワー(大陸国家)」と「シー・パワー(海洋国家)」の対立という二元論的な世界観をもつ。 ユーラシア大陸中央部

          世界をシンプルに捉えることの危険性。様々な尺度から考えることの大切さ【『戦争の地政学』読書感想文 】