スモーブロのコース、絵とテキストで
こんにちは、neriの田中庭園です。
外出を減らすようになってはや1ヶ月半。好きな人とおいしいものを食べる、という行為が、ただおいしくて嬉しいという以上に大事な時間だったのだなあと痛いほど実感しています。
neriでも、先日ポップアップレストランの中止を決めました。楽しみにしていてくださった皆様、そして応援の言葉をかけてくださった皆様には、改めて御礼申し上げます。
中止を決めた時から、これからできることをふたりで考えていました。この状況下で、すぐにお届けやお持ち帰りを始めるのは難しいかもしれない。けれど、どうにかしておうちで楽しんでいただける時間を作れないかな?と考えた結果、まずは文章でわたしたちの世界観を紹介し、それをみていただくことからはじめよう!ということになりました。
前回のHarukaの投稿ではスモーブロの紹介を。このnoteでは、4月5日のポップアップレストランのためにご用意していたコース料理、およびペアリングドリンクについてお話ししていきます。
コースについて
今回のコースは、スモーブロ3皿を中心に組み立てています。この3皿のなかで、スモーブロが「パン+具材」という形式を保ちつつも徐々に再構築されていくような流れを目指しました。
読み進めながら、コースの中で各要素がどのように変化していくのか、確かめてみてください。
また、ひとつひとつの料理には、それぞれ異なった春の空気を散りばめていくことを目指しました。
料理を考える際にイメージした情景、スケッチと簡単なレシピ、Harukaによる解説を添えて、紹介します。
2020.04.05 (sun) neri wave 1 コースメニュー
スープ
スモーブロ3種
デザート
ペアリングドリンク(アルコール、ノンアルコール共に3杯ずつ)
スープ - そら豆のポタージュ
(春だ)と気づくときのにおい ひかえめな青さと苦さ、柔らかさ
ブルーチーズ クレソン
そら豆 新玉ねぎ
バナナ
- バナナは、まだ青く、酸味と歯ごたえの残っているものを選び、薄くスライスして器の底に並べる。
※バナナアレルギーの方には、甘く煮たそら豆の実をつかう。
- そら豆はさやごと、グリルで焦げ目がつくまで焼く。実をとりだして、炒めた新玉ねぎとあわせてなめらかなポタージュを作り、温めてバナナのうえから注ぐ。
- クレソンは鮮やかな緑を損なわないよう、軽く炒めてからソースにし、ポタージュの上にそっと流す。
- 水にブルーチーズの香りをうつして泡だて、ひとすくいぶんを水面に浮かせる。
- そら豆のさやから焦げをはいで集め、さらに焼いて水分を飛ばしてから、すりつぶして炭のパウダーにする。すべて盛り付けた上からはらりと散らす。
ペアリング
アルコール
吉祥寺IPA
レモン 山うど ジン
- ジンは、できるだけニュートラルな味のものを用意する。そこへ、スライスしたレモン、軽くあく抜きした山うどの穂先をあわせ、香りと味を抽出する。
- すぐに漉してグラスに移し、その上から静かにIPAを注ぎ入れる。
ノンアルコール
トニックウォーター ライム
山うど きゅうり 生姜 アガベシロップ
- 山うど、きゅうり、生姜、アガベシロップで、青い香りのコンフィチュールを作る。生のディルを刻んで混ぜ込み、よく冷やしておく。
- グラスにコンフィチュールのシロップ部分だけをいれて、ライムを絞り、トニックウォーターで割る。
解説
人肌より少し高い温度まで温められたスープでコースは始まります。そら豆の青い香りと玉ねぎの甘みが舌の上をするりと抜けて、冬の寒さで強張ったからだに流れ込み、少しずつ緩ませていきます。スープに浮かんだクレソンのソースと、皿の底に沈むバナナは、苦味と青味というスープの基調をそれぞれ担い、味の広がりに厚みを持たせています。スプーンの掬い方で変化していく味のバランスに身を委ね、その波間に佇むことを楽しむ一皿です。うど、きゅうり、ホップ等を用いたペアリングドリンクが挟まると、異なる青味と苦味が加わり、スープにさらなる諧調をもたらします。
スモーブロ1 - レバームースとマンゴー、蕗の薹のブリュレ
ぜんたいに浮き立つ気持ちが満ちているのを感じ取ること、その空気にそわそわと乗せられるいっぽう、それを気怠く思うこと
アーモンド
蕗の薹 マスカルポーネチーズ グラニュー糖
マンゴー マルドンソルト
鶏レバー 日本酒 無塩バター 生クリーム
ライ麦80%
ジュニパーベリー 生姜 生クリーム
- 生クリームにジュニパーベリーと生姜の香りをうつしておき、固めのホイップをたて、お皿にふとい線をひく。
- パンは、粒度が高く、ライ麦の香りと酸味がしっかりと感じられるフィンランドパン。1cmの厚さにスライスして、そのままホイップのうえに置く。
- パンと具の橋渡しとして、ゆるめに仕立てた鶏レバーのムースをパンにたっぷり塗る。
- マンゴーは皮を剥いてうすくスライスし、粗塩をあて、表面だけを乾かしておく。冷やして、軽く折りたたんでムースの上にのせる。
- ふきのとうは半割りにしてさっと湯がき、きれいな緑が残るように色止めする。マスカルポーネチーズを詰め、砂糖をふって表面をブリュレにする。これも冷やしておいて、マンゴーの上に置く。
- アーモンドは細かく砕いて散らす。
ペアリング
ポタージュのものに同じ。
解説
オープンサンドという形式上、スモーブロの味は縦方向に重なります。最初に舌に接するのはジュニパーベリーと生姜の生クリーム。さわやかな香りと辛味を捉えた先に、もろもろとほどける黒パンの酸味が広がり、噛むごとにマンゴーと蕗の薹が転がります。サワー種で酸味を引き出したパンに、マンゴーとレバームースのねっとりした甘味と、蕗の薹の鮮烈なえぐ味が重なり、あざやかなコントラストが生まれます。「サンドイッチ」という慣れ親しんだ経験の外側へ、勢いよく連れ出してくれるスモーブロです。
スモーブロ2 - 出汁を含ませた温かいパン、冷たいバター
暖かさの続く中に急に差し込まれる寒い日のこと 衣替え前のニット、冬の清涼さの名残り
干し椎茸
干し貝柱 梅干し 葱
海塩 酢橘 山葵 発酵バター
全粒粉
- たっぷりの水で一晩戻した干し貝柱と干し椎茸、葱の青いところ、塩気の強い梅干しをあわせて静かに煮て、しんみりと淡い味の出汁を作る。
- 椎茸だけ別にし、少し塩を足した出汁でふっくらと炊きあげ、5mm幅にスライスしておく。
- 葱の白い部分を焦げ目がつくまでグリルで焼いてから、出汁に使った葱と梅干しの果肉をあわせ、ざらりとした舌触りの残るピュレにする。
- パンは全粒粉を使用しているが、滑らかな口当たりと香りをもつ、密度のたかいパン。1cmの厚さにスライスし、耳を落として使う。
- パンに出汁を含ませ、焼き葱のピュレを塗り、スライスした椎茸を並べた状態にして、温めておく。
- 出汁がらの貝柱と椎茸の軸をすりつぶしてからオーブンにかけ、こまめにほぐしながらカリカリのクランブルを作る。
- 発酵バターには、おろし山葵、酢橘の皮と果汁を混ぜこんでおく。
- 皿に、クランブル、スライスしたバター、スモーブロを盛り合わせ、バターの上にフレーク状の海塩を散らす。
ペアリング
アルコール
レ・ヴァン・コンテ/ポワーヴル・エ・サル2018
(梅干しや紫蘇などの香り じゅわっとした飲み口の赤)
ノンアルコール
甘酒 生姜
ごぼう茶
- 甘酒は塩の入ってないものを用意し、常温にしておく。生姜の絞り汁と温かいごぼう茶を加え、混ぜ合わせる。
解説
クランブル、スモーブロ、バターの各パーツが川の字に並んでいます。中央のスモーブロには、歯ごたえのある椎茸と、柔らかな甘みをもつ葱のピュレが重なり、噛むとパンから出汁がじゅわっと染み出して、滋味深い味わいです。この上に、左右に置かれたバターとクランブルを取って載せます。バターが熱で溶けて下に広がると、山葵と酢橘のさっぱりとした香りが立ちあがり、スモーブロの落ち着いた味わいを一層引き立てます。また、出汁をカリカリの食感に変えたクランブルによって、全体に軽妙なリズムが加わります。ペアリングは、どちらも出汁の味を基軸にしたアプローチですが、印象は大きく異なります。ワインは出汁の味に寄り添いつつ酸味でメリハリを与える一方、モクテルは麹とごぼうの甘い土臭ささで華やかさを加えます。1つ目のスモーブロに続き、酸味の強いパンを使っていますが、出汁を中心に組み立てることで「スモーブロ」の枠組みを問い直しています。
スモーブロ3 - 鴨のロースと菜の花
明るさの表現 冬から春、光が青から白に変わり、土が黒から茶色に変わる
菜の花 チリペッパー
鴨ロース
ココナッツクリーム ホワイトペッパー
黒にんにく チョコレート シナモン
ブリオッシュ
- パンは、バターと卵の甘さを感じる、さっくりとした歯触りのブリオッシュ。1cmの厚さに切り、軽く焼き目がつくまでトーストする。
- ココナッツクリームに、粗く潰した白胡椒を混ぜ、パンの真ん中あたりに塗る。
- 鴨はしっとりとレアに焼き上げ、休ませてから7mmほどの厚さで切り出し、クリームを覆うように載せる。
※もう少し火の通った鴨がお好きな方には、片面だけさっと焼く。
- ソースは、黒にんにく、カカオ分の高いチョコレート、シナモン、鴨を焼く時に出た脂をあわせて作る。ごく少量とり、皿に点で置く。
- 菜の花はホイルに包んで、外側の葉に焦げ目がつくまでグリルで焼く。熱いうちに鴨にかぶせるようにあしらい、上からチリペッパーをひとつまみふりかける。
ペアリング
アルコール
シャトー・バロンヌ/ルージュ・カリニャン・サンスフル・エチケット・ブルー 2017
(ブラックベリーや黒胡椒など タンニンを感じるが喉越しはなめらかな赤)
ノンアルコール
スターアニス シナモン
エスプレッソ
トニックウォーター
- エスプレッソを作り、すぐに冷凍する。数十分毎にかきまぜ、シャーベット状にする。大匙でグラスにとる。
- シャーベットの上からトニックウォーターを静かに注ぐ。
- スターアニス、シナモンスティックを軽く炙り、泡の上にのせる。
解説
最後のスモーブロは、鴨のローストに、異なる質感で用意した様々なスパイスを合わせることで、鴨の新たな魅力を引き出すメイン料理となっています。輪郭を際だてるチリペッパー、ココナッツの華やかさとホワイトペッパーの明るさが合わさったクリーム、ダークでエキゾチックなチョコレートソースが、鴨の表情を鮮やかに変えていきます。そして、その変化を下支えするのがサクサクに焼いた甘いブリオッシュと、春の苦味を存分にふりまく菜の花です。スパイスと苦味という、鴨に捧げられたこの2つの要素は、ペアリングドリンクのキーにもなっています。ワインでは黒胡椒とタンニンが、エスプレッソトニックではスターアニス、シナモンとコーヒーが、その2つの要素を担っています。
デザート - クレームダンジュのアイス、いちごとうど
遠目に雪と桜の見ためが似ていること、同時にそのほどけかたが違うこと
桜花の塩漬け
生クリーム ヨーグルト クリームチーズ 米麹
苺 山うど レモン
- 山うどは根もとの方をつかう。皮を厚めにむき、あられ切りにしてあくを抜き、レモン汁で和えておく。苺はへたをとり、5mmの厚さにスライスする。うどと苺を、お皿の中央でわかれるように盛る。
- 桜の塩漬けはたっぷりの水につけて塩を落とし、よく乾かしておく。一部は花托を外して、細かく砕く。
- クリームチーズと砂糖、ヨーグルト、生クリームでクレームダンジュのもとを作る。米麹と砕いた桜をさっくりと混ぜ込んで、一晩かけて水切りをする。もったりとした質感になったら、直径5cmほどの球形に整えて冷凍しておき、食べる少し前に冷蔵庫に移す。苺とうどの間にのせて、桜の花をあしらう。
- 苺を、水とレモン汁、砂糖少しと一緒にジュースにして、冷たくしておく。苺のスライスを敷いてある側にそっと注ぐ。
解説
中心に据えたクレームダンジュと、左右に配した苺と山うど。ここには、各要素が独立して存在する清々しさと、それらがひとつに合わさったときの喜びという、2つの楽しみがあります。まずは右側に広がる山うどをクレームダンジュと共に掬います。ミルキーでねっとりしたアイスと合わさることで、うどのシャキシャキした食感とさわやかな苦味が一層際立ちます。一方、苺の甘酸っぱさは、ヨーグルトの酸味や麹の甘さと共鳴し、それらを増幅させます。最後に、アイスが溶け2つの世界の境界が曖昧になったとき、桜の塩漬けを一緒に口に運び入れます。桜から滲み出た塩味が、甘味・酸味・苦味を跨いだ味の広がりをきゅっと引き締め、完成形へと導いてくれます。
お茶
かぶせ茶(やぶきた、おくみどり、つゆひかり)
コースについて(ふたたび)
neri wave 1 のコースは以上です。春の空気を感じていただけましたでしょうか?
すこし、今回のコースを作るときに考えたことをお話しします。
スモーブロを再構築していくとなった時、土台となるパンをどうするかが大きな課題でした。伝統的に使われている黒パンは、どうしてもその食感や酸味が合わせる具材を選びます。パンを変えていくことで、具材との関係や、お皿全体での味のバランスのとりかたをも変えていくことができるのではないか?という考えのもと、いろいろなパンで試作を進めました。結果、今回はコースの流れに沿って、
①伝統的なパンを使い、具材で食感と味のバランスを取る
②伝統的なパンにひねりを加え、不安定なバランスを成り立たせる
③パンを軽いものに置き換え、具材は重くし、パンと具材の関係を反転させる
という表現になりました。3皿のバリエーションを楽しんでいただけたなら幸いです。
neriのこれからについて
現在はまだアイディアの段階ですが、neriの世界観を手軽におうちで楽しめるものを企画中です。内容が固まってきたら、改めてnoteやtwitter等で告知いたしますね。
そしていつかまた、集まって食事を楽しめる日々が戻ってきますように。
直接お料理を振る舞い、お話ができるのを楽しみにしています。
text, illustration/田中庭園 text/Haruka
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