「機動戦士ガンダム:水星の魔女」2期3話(15話)感想

大人と子供と遺産の行方について

まず「コードギアス:反逆のルルーシュ」や「プリンセス・プリンシパル」で脚本家・大河内一楼さんが見せた植民地やレジスタンスの描写とは異なり、地球が搾取されている状況や、抵抗を選んだレジスタンスたちの心理描写が非常に丁寧に描かれている。鷹派のノレア・デュノクが一方的に鳩派のニカ・ナナウラに暴力を振るうという、視聴者が偏った判定に流されやすい場面を、前回のエピソードで仲間だったソフィーが死んで興奮を抑えきれないということや地球の難民キャンプの描写によって、視聴者に双方の視点を納得させる絶妙なバランスを保ったことも素晴らしい。また、地球側にとって武器のスペックこそ劣るが、在来兵器や地形を利用して抵抗する様子もよく描かれていると思う。

さて、全体的な印象とかはここら辺にしておいて、もっと面白い話に移ってみよ。

知り合いの方は、「水星の魔女」を「少女革命ウテナ」の系譜として見るのであれば、グエル・ジェタークこそが「天上ウテナ」のテーマを受け付いた人物ではないかという興味深い解釈を出した。 その方によると、天上ウテナの最初の目的は「王子様」になること、つまりは今の権力構造でトップになることだったが、TVアニメの「ウテナ」はそれだけでは革命は起こせないという懐疑的な結論を出した。

それを踏まえて考えてみると、本来トロフィーを掴んでいたホルダー=王子様としてお父さんに認められること=承継を目指したグエルは(倫理感覚こそ欠落されているが)天上ウテナと全く同じ原理で行動している。だが、作品が進むことにつれて彼の地位や特権はどんどん失われ、親父を(意図せず)殺してしまい「ジェターク王国」は壊滅、「継承」そのものが不可能になってしまった。

その方の意見ではないが、私からすればここで親父を「意図せず」殺してしまった部分はかなり重要なポイントだ。残念ながらその出典を思い出せないが、「父系社会は親殺しで断絶される訳ではない。むしろ、子が父を殺し自ら新しい父親になることで、父系社会の構造はそのまま継承される」という言葉を聞いたことがある。例えば、ギリシャ神話でゼウスがクロノスを殺して新たな父親になったように。だが、グエルは質実的にも象徴的にも「父親」を殺して新しい秩序をもたらした訳ではない。彼が言った「俺は何がしたいんだ」というセリフや、モビルスーツに乗っても少女を救えなかったことは、そういった父系社会の崩壊を現していると言って良いだろう。

とにかく、その方によると、グエルがいま背負っている物語は「王子様にはなれない少年たち」にどのような物語が要求されているのか、という問いかけである、と15話を受け入れたそうだ。

ここからは私の考えだが、継承や遺産というキーワードを通じて「水星の魔女」を見てみると、もっと登場人物の行動を一貫的に解釈出来るのではないだろうか。

「水星の魔女」の感想を見てみると、よく「プロスぺラは毒母」という表現が使われているが、もしそれが「自分が叶えなかった理想を娘が代わりに実現することを望み、娘にある行動を強制している母親」や「自分の理想を実現するために子供を道具でしか考えない母親」を意味するのであれば、間違った見方だと思う。プロスペラはデリングと同様に「私の子供たちがこれから住む未来は、もっと良い世界になるべきだ」と子供と相談せず独自的に考え行動しているように見える。つまり、彼女はエアリアルやスレッタに歪んだ価値観を注ぎ危険にさらした人物だが、それこそ子供を想い選んだ決断のようだ。と言っても、その「遺産」をそのまま引き継ぐかどうか、もしくはどう処分するかなんて、親の意志だけでどうかなるものではない。坂口安吾曰く、「親があっても、子が育つんだ」。ミオリネであれスレッタであれ、彼女達が「遺産」を放棄し逃げ出すことはもう出来ないだろう。だが、彼女たちはその遺産を背負いながらも、親たちの計画を継承せずに違う方向に向かう可能性はあるはずだ。シェイクスピアの「テンペスト」の結末を参照すれば、もっと楽観的に彼女たちの行方を期待しても良いだろう。

また、シャディク・ゼネリをも継承や遺産というキーワードで解釈出来る。彼はもうビデオゲームでいうと「メタルギア・ソリッドシリーズ」に出て来そうな悪役になってしまったが(笑)、その振る舞いから見て義父を単なる道具として扱っている訳ではなさそうだ。今回で直接脅迫するのではなく説得しようとしてことが本気であれば、彼はサリウス・ゼネリを父親としては認め育ってくれたことに感謝はしているが、やはり義父の視野は狭いと判断してたのだろう。問題は、そうすることで彼はまさしく「象徴的な親殺し」を行い「父系社会」を継承していることだ。例えば、車椅子から起き上がれないサリウスを前にして、シャディクが机の上から見下ろしながら自分の理想を語るシーンは、まるで動物たちのマウントのようだ。

また、ミオリネを単純にトロフィーとして考えていたグエルとは違い、自分が決めた安全な領域に閉じ込もうとした事を顧慮すると、シャディクの「父親」としての役割は明確だ。ミオリネがグエルに殴られても他の人に渡されるよりマシであり、だからミオリネはグエルの手にあるべきだと「相手の意志と関係に関わることなく、相談などせずに」判断してミオリネを放置した彼は、ミオリネの「父親」デリングとそっくりなのだ。

追記 : このあと放送された2期5話(17話)でミオリネは合法的に結婚が出来るようになって、文字通りに「成人した」。しかし、地位的にも性質的にそのままデリングと一緒の大人になってしまった。 株式会社ガンダムを立てると言うとき、彼女を探ってみた(だが会話はしなかった)父親と、スレッタにエアリアルを捨てられるかと探ってみた(だが会話はしなかった)娘はあまりにも似ている。


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