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ハクモクレン

いつもと違う道を歩く。
ひとつ向こうの通り。
通りに面した公園に立ち寄ると白木蓮の木が一本。真っ白な花を空と足下に広げて風になびく。

木蓮の咲く一角には、晴れ渡る青空から降りる春の暖かさを含んだ落ち着いた空気と春の爽やかな空気とは対照的な 重く、深く沈み込み丁寧に練り込まれた甘い香りがうっすらと広がる。

地面には枝と花の形を彫り込んだようにくっきりと影が刻まれている。

優しく頬を撫ででくる春の陽気の中をゆったり漂う木蓮の香りにうっとり浸って、予定を忘れて石の塀に腰掛けた。太陽の光に負けまいとその光の強さに耐えながら花を見上げてみると所々、真っ白の花びらの隙間に大きく膨らんだ蕾も残っていた。

枝は茶色いおじいちゃんの手。

枝に優しく優しく抱えられて...
蕾は生まれたばかりの茶色と緑が混じるもそもそした小動物の赤ちゃん。

白い花ははらはらと風を受け、太陽の光を反射する。上向きに開く花弁と横から下へ広がる花弁が風になびく姿は、さながら色気を纏いはじめたバレリーナの少女のよう。

ともすれば、気づかず通り過ぎてしまう空中舞台。

香りや空間も相まって、ひとつの物語の1ページを覗いている気分。

小ぶりで愛らしい冬から春への代表的な花たちとはまた違う、ようようとした姿のハクモクレンに自分の感性がまたひとつ大人へと近づいたことに気づかされる。

だいぶ時期がずれてしまって、もうほとんど花は散っていますが北の方は満開時分ではないでしょうか?
満開の時期は春の霞もないので、白い花びらと艶やかな緑の葉が、青い空と見事なコントラストを作り出して、その上品さに心惹かれる花の一つです。

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