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睡夢

どこかのしずかな海の底
ちいさな魚のきょうだいたちが
みんな、たのしくくらしてた

たった一ぴきまっくろな
魚もまじっていたけれど
みんな、なかよくくらしてた

くろい魚が目になって
おおきな魚ごっこをしたり
あそんでたのしくくらしてた

ある日、マグロがやってきて
くろい魚を見て言った

「あなたはとくべつすばらしい
ここではものたりないでしょう
いっしょについていらっしゃい
あなたにもっとふさわしい
広い海へいきましょう」

広い海にはたくさんの
くろい魚がおよいでた

だれよりおよぎがはやかった
くろい魚は気がついた
そこではいちばんおそかった

くろい魚はくやしくて
いっしょうけんめいがんばった

こんぶやわかめの林をもうスピードでぬけ
クラゲやいせえび、うなぎに目もくれず
「みんなであそぼう」
と声をかける、いそぎんちゃくをよけながら

ついに、ミサイルみたいにおよげるようになったとき
くろい魚は言った
「そうだ、みんなにおしえてあげよう」

くろい魚がすみかにもどると
あかい魚はいなかった

月のかがやく夜の海
大きな魚のつめたい影が
赤がたゆたう水面にゆれた

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ゆっか
自分の書く文章をきっかけに、あらゆる物や事と交換できる道具が動くのって、なんでこんなに感動するのだろう。その数字より、そのこと自体に、心が震えます。