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1−10 無力

1-10 無力

K太さんが来て2ヶ月経ち
俺は入社して9ヶ月経つ頃には
レジを一人で任されることが少しずつ増えた

ある時12:00-18:00の6時間で140人〜160人を捌くのが限界だったが
※2年後には6時間で266人まで捌けるようになった
それ以上の混み具合だとK太さんが代わってくれたりした

相変わらずNAさんからは何かあれば嫌味や罵倒されたりしたが
あんまり気にしてなかった
気にしてないのが鼻について気に食わなかったのか
当時はNAさんが人に怒ることをみんな【アタック】と呼んでいたが
その【アタック】は激しさを増した

レジでやることは多分今より多くて
昔はパネル写真に出勤中の子の写真には金リボン
出勤前の女の子には赤リボン
退勤後はリボンを取る
というのをレジの人間が受付に指示をするのだが
あまりにも混むとついつい忘れたりしていた

それを見てN Aさんは水を俺の顔にかけたり
当時は眼鏡をかけていたのだが拳が飛んできて眼鏡が割れたり
マジックで腕や顔に【金リボン】という字をマッキーで
耳無芳一のように書かれたりした


俺は絶対にいつか辞めてやると思ってたけど
辞めるのは今じゃない
ここで辞めたら俺の負けになる
辞める時はNAさんが俺を必要としたタイミングで辞めるんだ

そう固く心に決めていたので
何を言われようと何をされようと
耐え忍んだ

それとちょうど数ヶ月前に
後々この店の店長にまでなる
N氏さんが入店する

俺より少し年上で
佐々木蔵之介さんに似ていて
元々どこかで広告代理店で働いていたという
ハンサムな男性だ


N氏さんにも仕事は俺が教えてることが多かったので
何でも聞いてきたり
特にO木さんという元ホストの幹部に対する不満を
聞いてあげたりしていた

N氏さんもK太さんが好きだったと思う
俺がNAさんに何をされても平気なフリをしたのは
N氏さんに心配をかけたくなかったからだ

この業界、というかこの店は人の入れ替わりが激しい
だから良い人材は大事にするべきだ

後輩の前で情けない顔も姿も見せたくなかった
K太さんの影響もあって
自分なりに歯を食いしばっていた

辛かったのかもしれないけど
このメンバーが好きだった

しばらくはこんな感じで日々が続くのだろうと思ってたが

突然NAさんに話があると呼ばれた

何だろう・・・
何かミスでもしたかな?

思い当たる節はなかった

NAさんは少し興奮気味に
そして圧を感じさせるために
いつもより低い声で口を開いた

「明日から異動な。お前は戦力にならないんだよ」

まだ9ヶ月しか経っていないが
俺の中で何か糸が切れ
崩れるような感じがした

「わかりました」
と一言伝えて終わった。

もう、話はしたくなかった

終わったと思った

辞めようと思った

異動したら辞めると言おうと決めた

異動先が近い場所にあるので挨拶行っていいから
先に帰っていいよと言われた

なんか情けなくて
泣きはしなかったけど
夜空を見あげながら
無になりながら
異動先のお店まで挨拶に行った

春がきて暖かくなって
楽しい気持ちで過ごしたかったけど
現実はそう簡単に良い方向にはいかなかった
甘くはなかった

春の夜風だけが
何だか優しかった

それだけすごく覚えている





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