ホログラム探偵 化視華マヤ 《サイボーグ・リキシ》
ウチの事務所も名前が知られるようになり、欧打くんの噂も広まっていった。青狐狸の探偵事務所にヤバい奴がいるってね。私の場合も、探偵がホログラムっていう物珍しさもあって、メディア取材の打診が結構あった。全て断ってる。業務に支障が出るから。欧打くんの場合は、色んなところからスカウトの声がかかったけど、私と同じく全て断った。忠誠心が高くて恐れ入るわ。私が欧打くんの立場だったら、この事務所に残ってないかもしれない。スカウトの中には、相撲関係者もいた。これも断ったけど、興行に一回だけ出てほしいと懇願され、了承した。でも相撲ってもうやってないわよね?確か……だいぶ前に、サイボーグ化に歯止めが効かなくなって終わったんじゃなかったかしら。
2077年1月20日。魔羅名栗親方がウチの事務所に来た。メディアでしか見たことのない人物だ。貫禄が凄い。芸能人に会った気分だった。いや、芸能人か。親方さんは私のホログラム姿に驚いていたものの、興味は欧打くん一本という感じだった。
「化視華さん。角材くんをお借りしてもよろしいかな?もちろん、報酬は支払います」
「だったら全然大丈夫ですが、ひとつ質問が」
「なんだね?」
「他にも強い人がいる中で、なぜ欧打くんなんでしょう?」
「探偵で肉体派。サイボーグ・リキシと闘える生身の人間。こんな人材、ほっとけないでしょ」
「確かにそうですね。あともうひとつ。親方さんの前でこういう事を言うのもアレですが、相撲界はもう崩壊しましたよね?なのに興行があるんですか?」
「ある。詳しいことは凍共に行ってから話したい」
「わかりました」
「さっそく本題だが……角材くん。君に闘ってほしい相手がいる。興行を盛り上げてほしい」
「え、誰すか?」
「肩張飛だ」
肩張飛と言えば、鳴り物入りで鮮烈なデビューを飾ったアゲリナ人力士だ。引退以降は忽然と姿を消し、メディアにも一切出てきていない。
「その前にその肩張飛についてなんだが、少し妙なことを話していてね。オレハアメリカ人デース!なんて言うんだよ。話を聞いていくと、日魂のことを日本って言ったり、ニュー・カメナシをニュー・カメアリって言ったり。国や地名が微妙に食い違うんだ。おかしくなったんじゃないのかと思ってやんわり聞いてみると、オカシイノハアナタタチデース!ってさ。彼は一時期入院していたんだが、自力で退院してから様子が変なんだ」
……私はその話を聞き、あることを思い出していた。金玉着脱改造手術を受けた依頼者のことを。彼の依頼は、行方不明になった金玉を探してほしいとの事だった。話を聞くと、ある朝目覚めたら体が半分、謎の黒い楕円の中にあったらしい。慌てて飛び起きると、右金玉が無くなっていた。謎の黒い楕円はベッドの上に残り、数日消えなかったって話。んで、彼はその楕円の中に入った。そこは見覚えのある路地裏。彼は金玉を探すため、歩き回った。聞き込みをすると、自分の知っている地名と違う名称が出てくることに違和感を覚えた。そして出会う。自分自身と。もう一人の彼は驚いて逃げた。無くなった金玉を落として。そこで気づく。ここは別の世界だったって。
私たちはサイバーモッド屋に行って手術をした人に話を聞いたけど、全く情報を引き出せなかった。
方々をまわり、最終的に超崎さんのところに行ったら正解がわかった。どうやら大幅な改造手術を受けた人間は、超低確率で時空の歪みに遭遇するらしいの。私がホログラムになった後の研究でわかった事らしいけど。思わぬ副作用よね。だとしたら、私も可能性があるのかしら。まぁ、これがわかったところで私たちに出来る事は何もないんだけど。
「ていう事があるので、多分肩張飛さんは別世界の肩張飛さんと入れ替わってしまったんだと思います」
親方さんはアゴをさすりながら天井を見上げた。信じられないが、受け入れるしかないといった感じだ。
「ん〜……たとえそれが本当だったとしても、地名の食い違い以外は支障がないからなぁ。俺が昔出してた電子書籍みたいだ」
「どういう事でしょう?」
「相撲の話を書いたんだ。登場人物は全員偽名で、内容はほぼ現実に起こったことを書くって手法をとったんだが、それに似てるなと思ってね」
「なるほど」
3月29日。私たちは凍共にいた。凍共ドームの前。多くの人間がドームの中に吸い込まれていく。
ちなみにだけど、私はなるべく全身が覆われる服を着て出かけた。パーカーのフードは目深にかぶる。薄手の黒い手袋。地元だとほとんどの人に知られてるから別にいいんだけど、遠出するときはなるべくホログラムだとバレないようにしてる。驚かせてしまうし、野次馬が増えても面倒だし。探偵業ってのもあり、あまり目立つのも良くない。事務所が有名になってきたのに矛盾してる話だけど。
「親方さん、ここってヤキュウが行われる場所ですよね?」
「そうだ。ついてきなさい」
私たちはヤキュウを見に来たであろう人の群れに混じり、ドームの入り口を目指した。
「この入り口、生体認証が組み込まれたゲートになってます。チケットの購入者も含め、この時点で全ての情報を読み取るのだと思います」
「さすがだね葉数くん。その通りだ」
「ですが、我々はヤキュウを見に来たわけではありません。大丈夫なんです?」
「あぁ、心配しなくていい」
少し不安を抱えたまま、私たちはドームのゲートをくぐった。係員が歩いてくる。人間かと思ったけど、アンドロイドだった。こめかみの青い光でわかった。さすが凍共。飛咲市にも導入してくれないかしら。
係員は手を横に出し、私たちを群衆の歩く方向とは別のところに案内した。エレベーターの前だ。私たちは誘導されるがまま、エレベーターの中に乗り込んだ。親方さんは階層が表示されたパネルの前に立つと、そこに顔を近づけた。網膜スキャンだ。ピッという音が鳴ると、階層に《B6》という項目が追加された。親方さんが指をかざす。
程なくしてドアが開いた。外に出る。何もない通路。右は壁になっていて、左にまっすぐ道が続いている。私たちは親方さんを先頭にし、歩いた。天井の真ん中に一直線のライトが埋め込まれ、それが道なりに続いている。先に扉があった。
「親方さん、ここに何があるんですか?」
「俺も気になりやす」
「入ったらわかるよ」
重そうな鉄扉がゆっくり左右に開いた。
瞬間、耳をつんざくような大歓声があがった。ただでさえ鋭敏な聴覚が増幅され、私の体は震えた。満員の観衆。女性も結構いる。改造まみれの人や、高そうなスーツを着た人が多い。それなりの地位についた人たちだと思われる。シエンくんがメガネの縁をつかんでいる。観衆を分析してるらしい。欧打くんはスゲーしか言ってない。
会場のサイズは凍共ドームの三分の一くらいかな。ややダークな照明が雰囲気を漂わせてる。2枚の大きなホログラムのモニターが、私たちの頭上と向かい側の同じ高さに投影されている。
中央にある、八角形のリングらしき場所。光沢のある黒い金属で作られている。リングの縁は、赤、青、白、緑のネオン光で彩られていた。外周を囲う柵は、私の胸が隠れるくらいの高さだ。私たちが来た道は、赤いネオンの柵と繋がってる。向かい側は緑。赤いネオンの柵がゆっくりと下り、地面に消えた。観客の歓声がトーンダウンする。何か暗黙の了解があるのだろう。
「角材くん、中に入ってくれ。化視華さんと葉数くんは、外側でセコンドとして彼を応援してやってほしい。俺は肩張飛のセコンドをする。何か聞きたいことがあれば今のうちに聞いておくといい」
「あの、ここで興行をやってるんですか?だとすると、普通の興行ではないですよね?客層からして異様ですよ」
「あぁそうだ。知っての通り、相撲はサイボーグ化し、表立ってやる事は出来なくなってしまった。神の不在が証明された今、サイボーグ・リキシを続ける事は何ら恥ではない。俺はそう思った。良く思ってない連中はたくさんいる。今でも正義ヅラしたライターがスポーツ記事で特集組むぐらいだからね。俺は空中分解した全ての元力士たちに声をかけた。戻ってきた。少数だがね。嬉しかったよ。そこで俺は立ち上げた。サイボーグ・リキシという看板を、ここでね。……以前と違うのは、これが裏の興行ってことだな。警察と密接な関わりがある化視華さんには悪いことをしたと思ってるが」
「なるほどねぇ。でも親方さん、その心配はしなくていいですよ。私って、自分で言うのもアレですけど警察に信頼されてるんですよ。あなたの思う正義で動いてくださいって。今回のことは、欧打くんの社会勉強として動いてます」
「そ、そうだったんですかい!?」
「はは、君たちは実に優秀だね。俺の目の付け所が良かったとも言えるが」
この間にも、シエンくんは周囲の分析をしていた。怪しい部分を探索しながらも、好奇心が抑えられないといった感じだ。
「ヤクザ、マフィア、実業家、医者、色んな層の人が見に来てます。会場に特に怪しい部分は感じられません。向かいの扉の奥に誰か控えてますね。肩張飛さんでしょう。すみません親方さん、色々探ってしまって」
「なぁに、それが君たちの仕事だからね。俺も裏の興行とは言ったが、やましい事はしていないつもりだ」
「でも表立っては出来ない、と」
「そうだ。本当はそうしたいんだがね。あ、そうそう、ルールについてなんだが、武器の持ち込みは禁止。降参するか、動けなくなったら負け。以上だ。シンプルだろ?」
「体に元々付いていた場合はどうなるのかしら?肩張飛さんは色々付いてますよね?」
「元々体に付いていた場合は定義から外れるのでオーケーだ」
「なるほどね……」
「姉さん、俺ワクワクしてきましたよ。ガキの頃に見てた肩張飛と戦えるなんて、夢みたいですわ」
「欧打くん。気をつけてね。肩張飛さんは今まで相手してきた並のサイボーグとはワケが違うわよ」
「わかってやすって」
「さて、そろそろ時間だ。角材くん、頑張ってくれ」
親方さんは欧打くんの肩を優しく叩くと、向かい側、緑のネオンの柵がある方に歩いていった。柵が下り、扉が開く。
肩張飛さんだ。……大きい。身長や体格は欧打くんと同じくらいだけど、両肩に付いた機翼を含めると、欧打くんよりも一回り大きく見える。この戦い、一体どうなるのかしら。
白いネオンの柵が下り、開いた扉から行司が現れた。……行司でいいのかしら。右半分がサイボーグ、左半分が人間という、奇妙な改造の仕方をしている。手には軍配。時代が変わり、相撲が終焉を迎えても変わらないものがある。素敵なことだと思う。
肩張飛さんがリングの中央に歩を進めた。余裕がある。欧打くんと対峙する。欧打くんからも余裕を感じられるけど、どことなく気圧されている気がした。
「角材 欧打、強ソウナ名前デース」
「あんたもな」
「ナチュラルヲ信条ニシテイルト聞キマシタ。今ドキ珍シイデス」
「俺はよ、改造してる人間をぶっ飛ばすのが好きなんだ。勘違いして俺に向かってくるやつは特にな」
「ハハ、素敵デス。若イッテイイデスネー」
肩張飛さんには全くと言っていいほど、気遅れというものを感じなかった。
「シエンくん、あなたの目からは肩張飛さんのこと、どう見えてるのかしら?」
「はい。臀部からのジェット噴射を推進力に、足裏のローラーを利用してカタパルト発進するというスタイル。両肩の機翼も相まって、かなりの機動力を持っていると考えた方がいいでしょうね。それでぶつかるのですから、並の相手なら一撃で破壊されてまうでしょう。しかし構造上、直線的な攻めになるはず。加えて相手はミュータントの欧打。肩張飛にとって、楽な戦いではないと思います」
「あらシエンくん、ミュータントのこと知ってたの」
「はい。このメガネのおかげですが」
「じゃあ、この対決の行方も?」
「さすがにそれは。僕は今現在の情報がわかるだけですから。ただ」
「ただ?」
「この対決で初めて、欧打の本気が見れるかもしれません」
行司が二人の間に軍配をかざす。
「ミアッテミアッテ……ハッケヨーイ、ノコッタ!」
聞き覚えのあるかけ声と共に、行司の軍配が素早く上がった。
瞬間、肉体がぶつかる衝撃音が会場に響いた。お互いが、タックルを仕掛けたのだ。二人は腰の辺りで、ガッチリと両手を掴み合っていた。
「あんた、額が少し盛り上がってる。何か入れてるな?」
「シリコンデス」
「なぜそんな事をする?」
「相手ヲ、傷ツケナイ為デス」
「強者故のってやつか。けどよ、相手は俺だ」
掴み合った二人の両手が徐々に上がっていき、肩張飛さんの体が沈み始めていた。
「What ?……アナタ、ナチュラルデコノパワーナンデスカ。サスガ、ミュータント」
力対決は欧打くんの勝ちかと思ったその時、肩張飛さんのブースターが火を噴いた。
一瞬の出来事だった。立場は逆転。
「ミュ、ミュータント、だと?」
「マサカアナタ、自分ノ特質ヲ知ラナイノデスカ?」
欧打くんの体が更に沈む。肩張飛さん、純粋なパワーでも欧打くんに引けを取ってない。
……まずいわね。欧打くん、ミュータントの事を知ってしまった。
「ミュータント。聞いたことはあったが、まさか俺がそうだったとは」
私が危惧していた事が起こってしまった。だけど、欧打くんが取り乱した様子はない。現に、力で押されていた欧打くんが盛り返し、二人の掴み合った両手はまた中央に戻っていた。
「俺は俺だ。何であろうと、完全ナチュラルだ」
欧打くんの頭突きが、肩張飛さんの額に炸裂した。欧打くんの体が宙に浮き、後退する。肩張飛さんの頭に入れたシリコンに弾き返されたのね。
「Oh……ワタシノシリコンヲ利用シマシタカ」
「ふっ、ただの力バカだと思うなよ」
「ハハ、ココマデハウォーミングアップデス。本番ハコレカラデスヨ」
シエンくんが身を乗り出した。
肩張飛さんのブースターが点火する。さっきとは比にならないほどの勢い。その場で止まっているのはどういう仕組みかしら。車でいうところのアイドリング状態といった感じね。相変わらず、親方さんは腕を組んだまま動かない。勝ちを確信してる様子だった。
「GO ‼︎」
肩張飛さんの丹田から発せられたような声が、観衆の声援をかき消した。
肩張飛さんの体が、消えていた。正確には、高速でリングの外周を移動しているため、目で追えないと言った方が正しい。
「マヤさん。僕は間違っていたかもしれません」
「どういうことかしら?」
「肩張飛は直線的な攻めと言いましたが、今のこの状態。円を描きながら移動しています。おそらくあのブースター、あらゆる角度に瞬時に傾けることが出来る。加えてこのスピード。この状況、欧打が圧倒的に不利です」
「ヨイショォ!!」
肩張飛さんの地鳴りのような声が聞こえたと思った瞬間、欧打くんの体が吹き飛んでいた。リングの柵に背中からぶつかる。欧打くんは反応して殴ろうとしたけど間に合ってない。なんて速さなの。
「ガハァ!」
欧打くんが血を吐いた。肋骨……イカれたかもね。
シエンくんがリングの中に入るくらいの勢いで身を乗り出した。
「欧打!まだやれる!お前はそんなもんじゃないだろ!!」
こんなに熱い子だったかしら。ふふ。意外と熱いシエンくん。意外とクールな欧打くん。この二人、ほんと面白いんだから。
「シ……エン。あたり……めぇだろ」
欧打くんはまだやれる。だけど、ここから巻き返せるかしら?
「角材 欧打。ナカナカ強イデスガ、ソノ程度デハ私ニ勝ツナドトテモトテモ。ソロソロオ別レデス」
肩張飛さんが胸で十字を切った。神はいないのにも関わらず。直後、ブースターを点火し、一気に柵にもたれ掛かってる欧打くん目掛けて突進した。
「Good Luck ‼︎」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。肩張飛さんの左肩の機翼が、砕け散っていた。欧打くんの裏拳が、カウンターで当たっていたのだ。衝撃で、肩張飛さんの体が錐揉み回転する。
いや、錐揉み回転したのは欧打くんの裏拳の威力ではなく、肩張飛さん自身。
正確に言うなら、欧打くんの裏拳を利用した回転。
……終わった。肩張飛さんの右肘が、欧打くんの顔面にめり込んだ。あの錐揉み回転は、ブースターあってのもの。更に、欧打くんの裏拳も利用された上での空中からの肘打ち。ひとたまりもないわね。
「それまで!」
行司のコールで、この対決は幕を閉じた。
「欧打!!」
シエンくんがリングの中に入る。私も続けて中に入った。
「あ、あぁ……。俺は……大……丈夫……だ」
「いい、しゃべるな」
救護係が駆け寄ってきた。係の手の中に収まっていたホバリング担架が、欧打くんの目の前で展開する。
私たちは、欧打くんが運ばれていく様子を見守るしかなかった。
肩張飛さんが、左腕を押さえながら近づいてきた。私に対し、深々とおじぎをする。
「キョウハアリガトウゴザイマシタ。角材サンノコトデスガ、心配ハ要リマセン。彼ハミュータント。スグニ回復スルハズデス」
「……左腕、大丈夫なのかしら?」
「ビックリシマシタ。マサカ機翼ガ破壊サレルトハ」
「でもあの回転、欧打くんの裏拳を想定してたように見えたけど」
「私、ヨケタツモリデシタ。デモ、速サモパワーモ想定以上デシタ。瞬間的ニ利用デキテ良カッタデス」
「そう。欧打くん、強かったでしょ?」
「ハイ。現役時代ニ欲シカッタ逸材デスネ。デモ、アノ人ノ方ガ強イデス」
「あの人?」
「マロサン……イエ、魔羅帯出汁関デス」
魔羅帯出汁。相撲界を盛り上げた人物として、必ずと言っていいほど名前が挙がる。子供の頃、モニターにかじりついて無邪気に応援していた記憶があるわ。
「私ノコノ機翼、破壊サレタノハ二度目デスガ、一度目ハ、マロサンニヤラレマシタ。ソシテ完敗シマシタ。マロサンノジェットテッポウ、角材サンノ裏拳ヨリモ強イデス」
あの欧打くんが簡単に負けてしまう世界。そして、その欧打くんを負かした肩張飛さんに勝つ魔羅帯出汁さん。世界は広いわね。
「君たち、今日は本当にありがとう」
親方さんが、私たちに両手で握手を求めてきた。親方さんの表情は、最初からあまり変わってなかった。それは私の事務所に来たときからそうだった。絶対的な自信。私は少し、ムカついていた。だから肩張飛さんにも、ちょっとだけ冷たく対応しちゃってた。
欧打くんは回復して元気な姿を見せてくれると思うけど、あの状態で運ばれていった欧打くんを見たら、やっぱり気持ちは穏やかじゃない。それはシエンくんも同じだと思う。だけどこれは勝負事。切り替えなくちゃね。
「こちらこそありがとうございました。ひとつ聞きたいのですが」
「なんだい?」
「欧打くんの戦いぶりは想定通りでしたか?」
「ん〜少し上くらいかな」
「少し、ですか」
「いや柵にもたれ掛かった状態であの威力というのは、驚くしかないよ。肩張飛なら躱せると思ったんだが、ダメだった。当たってないように見えてあの威力、気みたいなものを彼は使えるんじゃないかなと思ったね」
それを聞いたとき、去年のトネハと戦ったときのことを思い出していた。あのとき、欧打くんは裏拳を回転するように放つと、トネハは持ってた武器を破壊され、逃げた。拳が当たってなくてもそうなったりしたから、私は風圧か何かだと思ってたけど……。
欧打くんにはまだ秘密が隠されているのかもしれない。
一週間後。欧打くんは完全に回復し、通常の業務に戻った。
親方さんの話だと、魔羅帯出汁さんは力士専門のバウンティ・ハンターをしているらしい。その絡みで肩張飛さんは魔羅帯出汁さんにヤられてしまったというわけね。
私の仕事、思えばバウンティ・ハンターに近い事もやってるのよね。さて!もっともっと稼ぐわよ!