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クロノ・サバイバル:時を超えた生存者たち【短編小説】
引き裂かれる時間
それは、ある日突然起こった。
古代の大地、グロルはマンモスの群れを追い、狩りの最中だった。手には磨かれた石斧。獲物に近づく足取りは軽く、周囲の風景に溶け込んでいた。だが、空が揺れるような異音と共に彼の世界は一変した。空に開いた黒い渦が彼を飲み込み、強烈な光の中に消えていく。
同じころ、中世の戦場では騎士セオドリックが敵軍と激闘を繰り広げていた。鎧が鉄を叩く音、剣が激しく交わる音が響き渡る中、彼の頭上に突然現れた裂け目がすべてを飲み込んだ。セオドリックの剣が最後に弾いたのは敵の刃ではなく、異次元への入り口だった。
未来の軌道上植民地では、サイボーグ兵士キャリスがパトロールを続けていた。彼女の義手にはセンサーが埋め込まれ、異常を感知すると即座に警告音を発した。「高エネルギー反応検出。」その言葉と同時に、彼女は強力な引力に引き寄せられ、視界が白に染まる。
彼らは、それぞれの時代から「選ばれ」、新たな舞台に立たされていた。
目覚めの地
グロルが目を覚ましたのは、広がる荒野の中だった。目に映るのは、見たこともない建物と風景。鋼鉄の塔、ピラミッド、中世の城――それらが奇妙に入り混じった世界が彼の目を圧倒した。
「ここは……どこだ?」セオドリックもまた周囲を見回していた。彼の足元には、すでに朽ち果てた剣や盾が散らばり、近くには燃え尽きた戦車の残骸が横たわっている。
キャリスは即座に環境をスキャンしていた。「時代が混ざり合っている。推定、複数の時間軸の交差点。」
彼らの頭上に、突如として巨大なホログラムが現れた。それは仮面をつけた謎の人物だった。声は機械的で冷たかった。
「ようこそ、選ばれし者たちよ。これより君たちはクロノ・サバイバルの参加者となる。唯一のルール――生き残れ。そして、勝者だけが元の時代に帰還することを許される。」
第一の戦い
ホログラムが消えた瞬間、緊張感が場を支配した。グロルは野生の直感で武器を握りしめ、キャリスを睨みつけた。セオドリックも剣を構え、全方向を警戒している。
「待て!」セオドリックが叫ぶ。「戦う理由はない。まず状況を理解しよう。」
だが、グロルはその言葉を理解できない。ただ敵対的な声に聞こえた彼は、石斧を振り上げセオドリックに襲いかかった。斧が彼の盾を打ち据え、火花が散る。
「くそっ……!」セオドリックは応戦するが、グロルの動きは予想外に俊敏だった。キャリスは遠くからその戦いを観察していた。冷静に状況を見極め、彼女は武器内蔵型の義手を構えた。
「二人とも停止しろ。」彼女が放ったスタン弾が地面で爆発し、衝撃がグロルを弾き飛ばした。
「一人だけが生き残れるという条件だ。それを受け入れるかどうかは重要ではない。」キャリスの冷たい声が響く。「受け入れる他に道はない。」
予期せぬ同盟
彼らが争いを中断したのは、遠くから現れた新たな参加者の声がきっかけだった。
「皆さん、愚かにも無駄なエネルギーを使っているようですね。」その声の主は、黄金の装飾をまとった女性だった。彼女は堂々とした足取りで近づいてくると、自信満々に微笑んだ。「私の名前はネフェルティティ。エジプトの女王です。」
彼女は毅然とした態度で続けた。「このゲームに勝つ方法を知りたいなら、協力するしかない。」
ネフェルティティの言葉には妙な説得力があり、彼らは一時的な同盟を結ぶことになった。それぞれが持つ時代の知識や技術を活用し、この奇妙な空間で生き残る術を模索し始めた。
クロノ・コア
ホログラムが再び現れたのは数日後だった。新たな指示が与えられる。
「時空の中心、クロノ・コアへ到達せよ。それを制御した者のみが元の時代に帰還できる。」
彼らは一丸となり、コアへの道を進んだ。だが、その途中には無数の危険が待ち受けていた。時空の裂け目から現れる「時の獣」と呼ばれる怪物や、他の参加者たちとの激突が避けられなかった。
ネフェルティティの策略で敵を翻弄し、キャリスの解析能力が危険を未然に防ぎ、グロルの原始的な狩猟技術が罠を仕掛ける。そして、セオドリックは仲間を守るために剣を振るい続けた。
裏切りと決戦
だが、クロノ・コアの目前で、同盟は崩壊する。
「これ以上協力する理由はない。」ネフェルティティが静かに言った。彼女の言葉に続き、杖の先端が光り輝く。
キャリスは即座に反応し、射撃で応戦する。一方、セオドリックとグロルは混乱の中でそれぞれの武器を構えた。
「この戦いは避けられない。」セオドリックが低く呟いた。
激しい戦いの果て、最後にクロノ・コアの前に立っていたのは――。
帰還と喪失
元の時代に帰るためには、装置を制御する必要がある。だが、その鍵を握る者は、最後の瞬間に仲間を裏切る覚悟を持つ者だけだった。
勝者は時空の光の中に消え、敗者たちはその場で静かに霧散していった。それぞれの物語が、別々の運命を辿る形で終わりを迎えた。
余韻
帰還した者は、以前と同じ人生を歩むことはなかった。時間を超えた経験が彼らを変えていた。そして、どの時代にも戻れなかった者たちは、時空の彼方で新たな物語を紡ぎ始めた。
物語はここで終わるが、彼らの魂は時空のどこかで今も生き続けている――。