自然キリトリバサミ
この夏は何か新しいことに挑戦してみたい、と思い立ち、ボディボードを始めた。
ご存知だろうか、ボディボード。ボディボードと呼ばれる板に体を乗せて、波乗りを楽しむスポーツだ。
そんな素敵なスポーツも、わたしの手にかかればただのビート板強化版に成り果てる。
波に乗ることを早々に諦めたわたしは、ボディボードに身を預け、海を漂うことにした。
ぷかぷか、ゆらゆら。
空を見上げると、澄み渡るような青空に入道雲が流れていくのが見える。
かと思えば、辺り一面雲に覆われ、灰色の空に見下ろされる瞬間もある。
時折、曇り空の合間を縫って太陽の光が顔を覗かせる。
緩い波に揺られながら、移り変わっていく空模様を1時間ほど眺めていただろうか。
ふと、海に揺られながら空を眺めるこの瞬間をいつでも楽しめらようになったら、と思ってしまった。
自然界の空間を切り取ることのできる魔法のハサミ。
海を。波を。空を。雲を。
ちょきちょき切り取って、ひとり占め。
切り取った自然はお気に入りの瓶にでも詰めて、好きな時に取り出して煮るなり焼くなり嗅ぐなり眺めるなり好きにできる。
だれにも邪魔されない自分だけの自然空間。
なんて素敵だろう。
だけど。
わたしたちの欲がどんどん膨らんでしまったら。
もっともっと多くの自然を切り取りたくなってしまったら。
この空はわたしの。
この海は俺の。
この空気は僕の。
人間たちが縄張りを作っていく。
切り取る。
切り取られる。
自然の秩序が崩れていく。
ガラガラ、バラバラ。
ああだめだ、そうしてわたしたちは世界を壊していってしまうのかもしれない。