海を見つめる絵の中の彼は、心に移り変わりゆく青を湛えて

本編はこちら。


裏設定は以下になります。

この絵を描いた人物は、ずっと深い悲しみを抱えていました。それを絵の中の彼だけが分かっており、彼もまた、悲しみを抱えています。それは、絵と現実という隔たりに。自分だけがこの絵を描いた人物の心の内が分かるのに、素敵な海を描いてくれるのに、何もできないというもどかしさに。きっと絵の中の自分の表情が悲しくなってしまったのは、描き手の心の内だけではなく、絵の中の自分の感情が生まれ落ちたせいかもしれない、と。

 絵が世に出て暫くして、迎え入れてくれたのが聞き手であるあなたでした。とてもキラキラした目でこちらの世界を見つめるあなたに、あぁ、いつかこの隔たりを超えて話せたらいいのにと思うようになります。誰かに抱えているこの悲しみを知ってほしかったのかもしれません。しかし、そんなことは到底無理で、絵にただいまと告げる姿を何度も見送ることになりました。
 ある日、いつものように聞き手であるあなたが帰ってくる姿を見て、そのまま通り過ぎるかと思えば、「絵から波の音…?」という独白とまばゆい光と共に、あなたがこちらの世界へと来るのです。

 そんな絵の中に来たあなたは、絵の中の彼にとってとても心の救われる描き手の意思を知っていました。自分の想いを吐露し、描き手の想いを知り、ずっと暗かったこの世界に明かりが灯り始めます。
 現実世界へと戻ってきたあなたが絵を見ると、少しだけ口元に笑みを湛えたような、どこか幸せそうな表情に変わっていたように思えるのでした。
 きっとそれは、悲しいだけの青ではなく、安息の青へと移ろいで。

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