【ミニコラム】宇宙関連の有名スピーチ(1)ガガーリン
宇宙ネタが続いて4回目です(前回はこちら)。
さて、今回は気分を変えてガガーリンの打ち上げ直前のスピーチをご紹介。
タイトルには「有名スピーチ」と銘打ちましたが、実際のところあんまり日本では知られていないような。時々ロシア語教材に使われてたりしますが。
さて、まずは早速動画を掲げておきます。この動画には英語字幕もついていますから、英語の得意な方はそれを見ながら聞かれるといいかもしれません。
そして以下はお約束の(?)注意書きになりますが。
・ロシア語原文は、動画中に出てくるものと、あと以下のサイトにあるテキストを参考に書き留めたものです。改行とか段落分け的なことはあまり深く考えずにやってます。
・どういうわけか↑のテキストは途中から全く音声と一致しなくなるので、そこからは動画優先としています。
(ここからズレが生じるという部分には目印のため「###」の記号で区切りを入れました。)
・上に掲げた動画(「その1」とします)、残念なことに最後の方で音楽が入り、その先のスピーチが少々欠けています。
そして、どういうわけか、スピーチが最後まで入っている動画がさっぱり見つかりませんでした。
ようやくその部分が入っている動画を見つけましたが(「その2」とします)、余計な音楽が入っていたりカットが多かったりして質は良くありません。ともあれそれを下に貼ります(時間指定入り)。
以下のテキスト中では、切り替え部分となる文章を【】で囲って目印としました。
(この文章が「その1」の動画の最後のセリフ、かつ、「その2」の動画の始まり、ということです。)
・日本語訳はDeepLやGoogle翻訳で得られた文章を基に、割と「えいや」で作ってます。なので、訳文の正しさに関する保証は一切ありません、と、ここで強く念を押しておきたいと思います(^_^;)。
・さらに言えば、ロシア語の聴き取りも、要するに動画作成の人任せです。
一応、自分の耳でも確かめてはいますが、やはり「合っている」保証は一切ないものとお考えください。
それでは。
ガガーリンの打ち上げ直前スピーチ
Речь Гагарина перед стартом
(動画その1・再掲)
親愛なる友人、知人、見知らぬ人、同胞、すべての国や大陸の人々へ! 数分後には、強大な宇宙船が私を宇宙の果てまで連れて行ってくれます。
Дорогие друзья, близкие и незнакомые, соотечественники, люди всех стран и континентов! Через несколько минут могучий космический корабль унесёт меня в далёкие просторы Вселенной.
打ち上げ前の最後の数分にあたって何を言えるでしょうか? 私の人生の全ては今、美しき一瞬間のように思われます。 これまで生きて、行われたことはすべて、この瞬間のために生きられ、そして、行われた。 長い時間をかけて情熱をもって取り組んできた試練の時が近づいた今、気持ちを整理するのは難しいことはお分かりでしょう。
Что можно сказать вам в эти последние минуты перед стартом? Вся моя жизнь кажется мне сейчас одним прекрасным мгновением. Всё, что прожито, что сделано прежде, было прожито и сделано ради этой минуты. Сами понимаете, трудно разобраться в чувствах сейчас, когда очень близко подошёл час испытания, к которому мы готовились долго и страстно.
史上初のフライトを申し出られた時に感じた気持ちについては話しても意味がありません。
喜び? いや、喜びだけではなかった。
誇り? いや、誇りだけではなかった。
大きな幸せを経験しました。 初の宇宙到達者となり、自然と前例のない一対一の対決をする。それ以上の夢を見ることができるでしょうか!
Вряд ли стоит говорить о тех чувствах, которые я испытал, когда мне предложили совершить этот первый в истории полёт.
Радость? Нет, это была не только радость.
Гордость? Нет, это была не только гордость.
Я испытал большое счастье. Быть первым в космосе, вступить один на один в небывалый поединок с природой-можно ли мечтать о большем!
しかし、その後、自分に降りかかった大きな責任について考えてみました。何世代にもわたって人々が夢見てきたことを初めて実現し、人類の宇宙への道を初めて切り開くこと。
Но вслед за этим я подумал о той колоссальной ответственности, которая легла на меня. Первым совершить то, о чём мечтали поколения людей, первым проложить дорогу человечеству в космос.
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私に振りかかってきたものよりも困難な課題があればお教え下さい。
この責任は一人に対するものでも何十人かに対するものでも、グループに対するものでもありません。この責任はすべてのソ連国民、すべての人類、その現在と未来に対するものです。それにもかかわらず、私が敢えてこのフライトに搭乗するとしたら、それは私が共産主義者だからであり、私の背後には同胞であるソ連の人々の比類のない英雄主義の例があるからです。
Назовите мне большую по сложности задачу, чем та, что выпала мне.
И эта ответственность ни перед одним, ни перед десятком людей, ни перед коллективом. И эта ответственность перед всем советским народом, перед всем человечеством, перед его настоящим и будущим. И если, тем не менее, я решаюсь на этот полëт, то только потому, что я коммунист, что имею за спиной образцы беспримерного героизма моих соотчественников - советских людей.
任務を最高の形で遂行するために、私の意志をすべて結集することを知っています。 任務の責任を理解し、共産党とソ連国民の任務を全うするために全力を尽くします。
Я знаю, что соберу всю свою волю для наилучшего выполнения задания.
Понимая ответственность задачи, я сделаю всë, что в моих силах, для выполнения задания коммунистической партии и советского народа.
(動画その2・再掲)
打ち上げまであと数分となりました。
【親愛なる友人たちよ、さようならを言います、】遠い旅に出る人たちがいつも言い合うように。知人も知らない人も、遠くの人も近くの人も、あなた方皆を抱き締めたい! また会いましょう!
Сейчас до старта остаются считанные минуты.
【Я говорю вам, дорогие друзья, до свидания,】как всегда говорят люди друг другу, отправляясь в далëкий путь. Как бы хотелось вас всех обнять, знакомых и незнакомых, далëких и близких! До скорой встречи!
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人類として初めて宇宙に行くことへの畏れと期待と興奮……そういったもろもろの感情が伝わってくる良いスピーチだと思うのですが、いかがだったでしょうか。
……などと書いておいてなんですが、実は残念なことにといいますか、このスピーチは実際には打ち上げの直前に録音されたわけではありません。
次のサイトにはガガーリンの宇宙飛行関連の情報が実にいろいろ網羅されているのですが……
(ロシア語ですが英語が分かる方なら、Googleのページ丸ごと翻訳でほぼ問題なく読めると思います。日本語訳でもまぁそれなりには読めます。)
それによると、この録音は1961年4月3日(つまり打ち上げ9日前)にモスクワで録られたものだそうです。その日は「バックアップ」のゲルマン・チトフとグリゴーリー・ネリューボフも同文のテキストを録音したとのことで、だから文章そのものもガガーリンの考えたものではないと思われます(^_^;)。
(まぁ、日本人的にはこういうのも「あるある」ネタとして割とピンとくる話ではありますが。なお「バックアップ」の二人もまた充分に興味深い人物なのですが、今回はそこまで触れられません。)
なおどうしたわけか、このサイトで聴ける音声は最初にご紹介したものに、明らかに別録りのセリフがちょっとだけさしはさまれた、一種のバージョン違いとなっています。そしてやはりラストが欠けています。
スピーチの内容に戻ると「私が共産主義者だから」とか、共産党がどうだとか言っている(言わせている)のは、やっぱり時代というかお国柄ですね。いかにもプロパガンダという感じで押しつけがましい。
……とは言え、私自身は同時期のアメリカの「自由と正義」にこれと同じかそれ以上の胡散臭さ、押しつけがましさを感じてしまうタチなのですが。
というわけで(?)次回は、ある意味これと対になるケネディ大統領のスピーチをご紹介します。
補足:次の記事の終わりの部分に演説(ロシア語)の全文が載っていました。いわゆる「良質なテキスト」っぽく見えるし、記事のそれ以外の部分も興味深いので、ここに貼っておくことにします。
※トップ画像はロスコスモスのサイトから
https://www.roscosmos.ru/28159/