
夜のスマホ・PC使用対策:ブルーライトの影響と対策
はじめに
現代では多くの人が夜間にスマートフォンやパソコンを使用しており、寝る前に布団の中でスマホを触る人は非常に多いです。しかし、こうした夜間のスマホ・PC使用は睡眠の質を低下させる要因とされています。特に画面から発せられるブルーライトが悪影響を及ぼすと問題視されています。ブルーライトの刺激によって脳が「まだ昼間だ」と錯覚し、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が抑制されて脳が覚醒状態になり、眠りが浅くなるなど睡眠障害を引き起こしやすくなるのです。本記事では、ブルーライトが睡眠に与える影響と具体的な対策について、科学的根拠を交えながら詳しく解説します。
ブルーライトとは?
ブルーライトとは、人の目で見える可視光線の中で最も波長が短くエネルギーが強い青色の光のことです。およそ380~500nm前後の波長域にあたり、太陽光にも含まれていますが、現代ではパソコン・スマホ・テレビなどLEDバックライトを使用したディスプレイから特に多く放出されています。夜間にこうしたデバイスを長時間使用すると、日中よりも強いブルーライトを浴びる機会が増え、睡眠への悪影響が懸念されています。
ブルーライトが睡眠に与える影響
夜にブルーライトを浴びると、次のような深刻な影響を睡眠にもたらします。
メラトニンの抑制
夜間にブルーライトを浴びると、脳の松果体から分泌されるメラトニン(眠気を促すホルモン)の分泌が抑えられます。メラトニンは本来、環境が暗くなると増えて体を睡眠モードへ導く働きをするため、この分泌が阻害されると寝つきが悪くなります。体内時計の乱れ
メラトニン抑制によって、睡眠-覚醒サイクルをつかさどる体内時計(概日リズム)も狂いやすくなります。夜に強いブルーライトを浴びることで脳が「まだ昼間だ」と錯覚し、本来よりも就寝時間が遅れがちになります。結果として深夜になってもなかなか眠りにつけず、朝起きる時間もずれ込み、慢性的な夜型生活リズムになってしまう場合があります。睡眠の質低下
ブルーライトは睡眠の深さやサイクルにも影響します。寝る直前に強いブルーライトを浴びると、睡眠中の「深い眠り(徐波睡眠)」の割合が低下し、眠りが浅くなる傾向があります。こうなると、しっかりと脳と体を休息させることが難しくなり、翌朝の目覚めや日中の集中力に悪影響を及ぼす可能性があります。
ブルーライト対策
ナイトモードの活用
スマホやPCの設定には夜間に画面から出るブルーライトを抑制する**ナイトモード(夜間モード)**やブルーライト低減機能が搭載されていることが多くあります。これらを有効にすると、画面の色温度が暖色寄り(黄味・赤みを帯びた色調)になるため、ブルーライトを軽減することができます。夜はできるだけ端末のナイトモードを利用し、画面の明るさも落とすと、目に入るブルーライトをさらに減らせます。
ブルーライトカットメガネ
ブルーライトをカットする特殊なレンズを備えたブルーライトカットメガネも非常に効果的です。就寝前の1~2時間はこうしたメガネを装着して、目に入る青色光の量を物理的に減らすようにしましょう。明るい場所でもメガネをかけておけば、メラトニン分泌にかかる悪影響が軽減され、夜にしっかりと眠りにつきやすくなることが期待できます。
スクリーンタイムの管理
根本的な対策として、就寝前のスクリーンタイム(画面を見ている時間)を管理することが最も重要です。少なくとも寝る前の1~2時間はスマホやPCの使用を控えるのが望ましいでしょう。代わりに紙の本を読んだり、日記を書いたり、軽いストレッチやヨガをするなど、リラックスできる習慣を取り入れてみるとよいです。タブレット端末と紙の本で同じ読書をしても、ブルーライトの量が異なるため、後者のほうがメラトニンへの影響を大幅に減らせます。
間接照明の活用
夜の室内照明にも気を配りましょう。白色のLED照明を使うのではなく、暖色系の照明や間接照明など落ち着いた明るさの光を使うと、ブルーライトによる刺激やメラトニン抑制を和らげられます。特に赤系やオレンジ系の淡い光は、体内時計への影響が小さいとされています。寝る前には部屋の照明を少しずつ暗く調整して、自然と眠くなる環境を整えることも大切です。
実際に試してみた体験談
筆者自身も、寝る前には必ずスマホのナイトモードをオンにし、ブルーライトカットメガネも併用してみました。また、寝る1~2時間前からなるべくスクリーンを見ないように心がけるようにしたところ、布団に入ってからスムーズに寝付けるようになり、以前よりも早寝・早起きがしやすくなりました。朝の目覚めもスッキリしており、ブルーライト対策の効果を実感しています。
まとめ
夜間に浴びるブルーライトは、メラトニンの抑制や体内時計の乱れ、睡眠の質低下などを通じて私たちの睡眠に大きな悪影響を及ぼします。そのため、適切な対策を講じることが非常に重要です。ナイトモードの活用やブルーライトカットメガネの使用、就寝前のスクリーンタイム管理、暖色系の間接照明といった対策は、どれもブルーライトによる弊害を減らす効果的な方法です。質の良い睡眠を確保するためにも、ぜひ今日からブルーライト対策を取り入れてみてください。
参考リンク・文献一覧
Chang, A. M., Aeschbach, D., Duffy, J. F., & Czeisler, C. A. (2015). Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America (PNAS), 112(4), 1232-1237.
スマホやタブレット端末のような電子機器から放出される光がメラトニン分泌や体内時計に与える影響を示した有名な研究。
Cajochen, C., Frey, S., Anders, D., Späti, J., Bues, M., Pross, A., & Wirz-Justice, A. (2011). Evening exposure to a light-emitting diodes (LED)-backlit computer screen affects circadian physiology and cognitive performance. Journal of Applied Physiology, 110(5), 1432-1438.
LEDバックライトを用いたPC画面を見ると夜間の睡眠リズムや認知機能にどのような悪影響があるかを調査した研究。
Brainard, G. C., Hanifin, J. P., Greeson, J. M., Byrne, B., Glickman, G., Gerner, E., & Rollag, M. D. (2001). Action spectrum for melatonin regulation in humans: evidence for a novel circadian photoreceptor. The Journal of Neuroscience, 21(16), 6405-6412.
ヒトのメラトニン分泌を制御する光の波長帯を詳しく示した研究。ブルーライトの波長がメラトニン抑制に強く作用することを示している。
Lockley, S. W., Evans, E. E., Scheer, F. A., Brainard, G. C., Czeisler, C. A., & Aeschbach, D. (2006). Short-wavelength sensitivity for the direct effects of light on alertness, vigilance, and the waking electroencephalogram in humans. Sleep, 29(2), 161-168.
短波長光(青色光)が覚醒や注意力に対して強い刺激となることを示唆した研究。
Kayumov, L., Casper, R. F., Hawa, R. J., Perelman, B., Chung, S. A., & Shapiro, C. M. (2005). Blocking low-wavelength light prevents circadian desynchronization and improves performance during the night shift: a randomized controlled trial. Sleep, 28(5), 649-655.
夜勤労働者を対象に、ブルーライトをカットするメガネなどを使用することで夜勤中のパフォーマンスが改善されたことを示した研究。
Burkhart, K., & Phelps, J. R. (2009). Amber lenses to block blue light and improve sleep: a randomized trial. Chronobiology International, 26(8), 1602–1612.
ブルーライトカットメガネ(アンバー色レンズ)の装着が睡眠や気分にどのような影響を与えるかを評価した臨床試験。
National Sleep Foundation. (2020). How Light Affects Our Sleep.
一般向けに光と睡眠の関係を解説した記事。LEDやブルーライトの影響をわかりやすく紹介。
Wood, B., Rea, M. S., Plitnick, B., & Figueiro, M. G. (2013). Light level and duration of exposure determine the impact of self-luminous tablets on melatonin suppression. Applied Ergonomics, 44(2), 237–240.
タブレット端末から放出される光とメラトニン分泌抑制との関係について、光量と使用時間との関係をまとめた研究。
Chellappa, S. L., Steiner, R., Blattner, P., Oelhafen, P., Götz, T., & Cajochen, C. (2013). Non-visual effects of light on melatonin, alertness and cognitive performance: Can blue-enriched light keep us alert? PLoS ONE, 8(1), e76707.
青色光に富んだ光環境でのメラトニン抑制や覚醒度の変化に関する実験的研究。深い眠り(徐波睡眠)への影響なども測定している。