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Electric Cello偏愛紀行(その5・最終回)
こんにちは!
世界のElectric Celloをめぐるシリーズも、今回で最終回です。
たくさんの楽器をみてきましたね!
もちろんこれからも新しい工房が新しい楽器を世に出していくと思いますので、旅は終わりません。
でも一区切り。
今回は北米です!
記事の終わりに、Electric cello全般について熱く筆を奮ったので、それもぜひ〜。
Prakticello
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Travel celloというジャンルのものです。
組み立て式で、分解するととても小さくなります。飛行機にも持ち込みOK!
工房主のErnest Nussbaumさんは、ドイツ生まれ。第二次大戦開戦を期にニューヨークに移住されたとのこと。
改造してElectric Cello化しているひとをどこかでみかけたので、取り上げてもいいかなと思って載せました。
どこかモダニズムっぽいとぼけたデザインがチャーミングじゃないですか。ニューヨークの公園で弾きたいですねぇ。
Yo-Yo Maも所有しているとのこと、ニューヨークつながりか〜?
Anderson Custom Instrument
![](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84762285/picture_pc_e1399b7e8b80f2a3c3492befff83b93c.png?width=1200)
Anderson custom instrumentです!
この工房はEUB系列ですね。ヴァイオリンは作っていません。たしか北米だったと記憶しているんですが、ソースをロストしてしまいました。。あれー。。
ホームページには、「大量消費されるモノではなく、長持ちしていい音のする楽器を作っていきたい」という気持ちが高らかに語られています。それなー!
さて、この工房の楽器、ちょっと他ではみたことのないオプションがあります。それは・・・
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Electric Celloをアコースティックでも弾けるボディのオプション!
逆転の発想すぎるぞ!
いやしかし、この機構を見つめていると、Electric celloの本質とは何かを理解できるような気がしてくるような、、、してこないような笑。
Wood violin
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Wood violinのCobra celloシリーズです。老舗のメーカーさんで、高級というイメージがあるかな。King cobraという上位モデルもあり。
ヴァイオリンだったら日本でも手に入るんですが、チェロの現物は見たことないです。
YouTubeでも弾いてる人をちょこちょこみかけるんだけど、作りがしっかりしていて、楽器のポテンシャルがすごくありそう。
Wood violinはニューヨークのポートワシントンに所在しています。ニューヨーク詳しくないんですが、めちゃくちゃ良い町っぽい。
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この町で気になったのは、この本屋さん↓
インディー書店なんですって。よさそう。ニューヨーク郊外は詳しくないんだけれど、逗子みたいな町なのかなー。いいなぁ。
The O’Cello
オオトリは、北米に含めていいのか微妙ですが、3Dプリントデータ共有フォーラムであるthingiverseに上がっているこのチェロ。
実際にプリントすると、まぁモノとしてデカいので、すごくプリントが大変だと思うんですが、多くの人がトライしています。
日本でも最近作成した方がいるのをTwitterで確認しています。
このチェロ、何がグッとくるかって、明らかにJensenリスペクトなんですね。この連載の第一回に紹介した、あのJensenです。
あの美しさにはひとを魅了するなにかがありますね。ひばりんがElectric celloをdigしはじめたのもJensenとの出会いがきっかけでした。
そう、Jensenもシアトルのメーカー。連載最終回にもう一度Jensenの話をしたくて、無理に話をつなげてしまいました。。全てはあそこから、という感じがするんですよ。。
補足1.掲載していないメーカーなど
補足1です。じつはいろいろ考えて、取り上げてないメーカーも、あるんです。
たとえば有名EUBメーカーのBSX。かつてNAMMでBocelloというElectric celloを出品していたんですが、2013年ころを最後に情報が出てこないので、詳細な紹介は見送り。BSXのEUBに準じたデザインで、かっこよかったんですが。。
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Gevaも、日本ではチェロケースでお馴染みのメーカーでして、かつてElectric celloも出してたんですよ。でもいまは製造中止なので見送り。流線的なデザインで綺麗だったのに残念だ。。
![](https://assets.st-note.com/img/1660623266406-NwmL8Nz2Nb.jpg)
ポーランドのDashtick guitarsもユニークなメーカーさんですが、あまりにユニークすぎて、ほんとうにチェロといえるのかわからなかったので、見送り。
![](https://assets.st-note.com/img/1660623431272-YEX36mRSgY.jpg)
その他、各地の弦楽工房さんが「趣味で一台作ってみたよ」みたいなケースも、記事のまとまりがなくなってくるので、見送りました。「Luthier + 〇〇(国名)+ electric cello」とかで調べると、ちょこちょこ出てくるんですけれども!
YAMAHAは、まぁいいかと思って見送り。だって、あまりにも検索にヒットするから。もう知ってるでしょ!?的な意味での見送りです笑。
そして、じつは日本にも1人の職人さんがいることに気がついているのですが、面識もなく挨拶もせず紹介するのが申し訳ないので伏せています。
AliExpressで調べると奇怪なエレキチェロがいくつか出てきます。ちょっと商品として紹介して大丈夫なのか不安なので取り上げませんでした。
メルカリに鉄パイプを溶接して作られたエレキチェロが出品されていたこともあって、あれは驚いたなぁ。あえてスルーしましたが、日本にもDIYチェロ欲を有り余らせてる方がいることを感じて嬉しくなりました。
ひばりんも、自作したことはあります。
補足2.Electric celloの未来
Electric cello、知られていないマイナー楽器だということは間違いないですよね。そして、細い細い文脈のなかで、数多くの方の手によって、新しいモデルが作られ続けています。
ただ、この楽器をどう演奏するのがよいのか、まだだれも確信を持てていないということもあるのかな、と思うんです。だから、マイナーな世界にとどまってる。
ギターがあんなにエレキ中心に移行したのに、なんでチェロはそうなってないんだろうということを考えるわけです。
2cellosのように大きいスタジアムで演奏する人がElectric Celloを使う機会はあるわけですが、それだとまぁ普通のチェロにピックアップをつけるのでも用足りる。
エレキじゃないといけないのはなんでなのか、みたいなことの本質は、まだ明らかになっていない気がするんですね。
これからのElectric celloに必要な機能はなんなのか、ということを、ひばりんなりに列挙して、この連載を〆ていこうと思います。
未来の職人さんにとどけ〜。
1.外装
楽器は、やはり身体によって制御するものですから、外装は大事です。DAWのプラグインとは違って、物理的形態しだいで機能性がおおきく左右されます。
まず楽器を支える部分。①エンドピン+足で支えるパーツ②スタンド③ネックストラップなどが、可能性としてあります。プレイヤーからすれば好き嫌いの分かれるところですね。
ポイントは、チェロ全体をギターのように横持ちにする可能性をどれくらい重視するかです。
この動画のモニゲッティみたいな構えですね(ちなみにこの演奏はレジェンダリーです)
横持ちすると、指弾き可能性がかなり強化されます。指弾きというのは、ギターのような弦と指の接触角度のときに、手首が一番楽になって動きが速くなるのですね。通常のチェロのように、縦持ちしてピチカートすると速さに限界があります。
ただ、エンドピンやスタンドをなくしてネックストラップ+立ち弾きにしていくと、「座って弾く楽器」というアイデンティティを失ってしまいます。そこに抵抗があるチェロ弾きも、いまはまだ多いと思うんです。
だから「座る縦持ち楽器としてのアイデンティティを保持したまま、横弾きも可能にする」ということ。ここに、まだ見ぬグッドデザインが生まれるポイントがある気がしますね。「膝組した上で安定する形」とか。まだ可能性が汲みつくされていない気がします。
さらにボディの上の部分ですね、ここ。
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チェロ弾きって、案外これで、5thポジションとかを探ってるんですよ。これがなくなると違和感もすごい。
ただ、これがなければ、ハイポジションの可能性もかなり広がる。
ここはかなり繊細なデザインが求められると思います。使える楽器になるかどうかの一大ポイント。たぶんオプションで取り外し可能なのがベストだと思います。
②音色
外装だけでなく、音色面でもまだElectric Celloの可能性は汲みつくされていないと感じています。とくにエフェクターの問題。これが一番大きい。
オーバードライブさせれば、たしかにロックンロールな音は出ます。が、割とよくあるギター的なサウンドに収斂してしまう。
あるいはリバーブをガンガンかけて、弓の力で空間を飽和させる系ですね。これも面白いし魅力的なんだけど、細かいパッセージには向いていない。
楽器が楽器としてメジャーになるかどうかにおいては「細かいジャズパッセージがいけるか」がポイントであると、ひばりん史観的には思われるので、ほかの可能性「も」探ってみたい気がしています。
たとえばローズピアノのような進化の方向はないものでしょうか。ローズは、歪み系とは逆の方向の音色進化だと思うんですね。
ギターの丸い音を尖らせるのがエレキギターの歪み系とすれば、ローズはアコースティックピアノの尖りを丸くしていく方向の進化でした。↑の記事によれば「傷ついた兵士を癒すために生み出された」のがフェンダー・ローズ。
あるいはマクルーハンのホット/クール概念を使ってみましょうか。マクルーハンは、冷戦(クールな戦争)という言葉や、「(ホットに変わるカッコよさの新語として)クール」が生まれたことを、一つの時代精神ととらえて、ホットとクールを使った文化批判を行いました。
大西康雄『マクルーハンはデジタルメディアの夢を見たか : マクルーハンの「ホット/クール」メディア概念再構成の試み1)』
まぁ、この概念、定義が錯綜しすぎて、なかなか使い勝手が悪いんですけれども。ただ、クール・ジャズという言葉にはマクルーハンもアンテナを張っていたことでしょう。
マクルーハンは「講義はホットで、ゼミはクール」と書いています。
まぁこれも定義から演繹的に理解するのがとても難しい。熱い戦争/冷戦の比喩とどの論理レベルで並行しているのかを理解するのは、けっこう大変なんですが。
一つ言えるのは、「クールとは、単純に静的であるということではないし、エネルギー量の多い少ないという以上の意味が込められている」ということですね。
クールにおいては、ゼミのように緊張感のある相互参加のコミュニケーションが生まれたり、冷戦のように見えない抑止力の緊張感みたいなものが働いているというわけなのです。
Gary Burtonのビブラフォンもそうですが、丸い音で粒立ちがよい音というのが、ある種クールなものとして、ジャズパッセージの加速の中で発展した歴史がある。
それは、しかし単に耳に静かで気持ちいいというだけでなく、粒立ちがいいことによって、より活舌よく音でコミュニケーションできる状態であるということ、それがゼミナール的な緊張感を創り出すということ(あるいはマイルス的な壇上の抑止力のゲームを創り出すということ笑)を含んでいるわけです。
クールなものをホットにする音色変化と、ホットなものをクールにする音色変化がある。ヒートアップ/クールダウンという史的変化です。
ギターはもともとクールだったものを、エレキ化することでホットにした。つまりヒートアップ型の進化をしてきたという、そんな感じがあるわけです。クラシックギターの音色って、もともと粒立ちが良くて、物静かに「喋る」印象がある。それをかき鳴らすような弾き方にしたり、歪ませたりすることでホットな使い方を発展させてきた。
しかしギターと比べると、チェロやヴァイオリンの音というのは、すでにそもそもかなりホットなんですね。
ショスタコーヴィチなどは弦楽器の使い方をよくわかっていた作曲家だと思いますが、ほんとにホット。
たとえば弦楽四重奏第8番であれば、第二楽章・第四楽章がホットなのは当然として、第一楽章・第五楽章も「静かだけど、マクルーハン的な意味ではホット」。
静かさのなかでステージ上は一体となり、ステージ上はコミュニケーション0=ルソーの言う透明なコミュニケーションに満たされて、その力によって客席をぶん殴ってくる。静けさの暴力みたいなものがホットなものとして体現されている。
ヴァイオリン属の弦楽器は、もともとホットだと思う訳です。
それをエレクトロニクスの力で「さらにホット」にしていくと激しすぎるものになる。ヒートアップさせすぎて、音楽的なプレイヤー間の対話が不可能になり、それこそ「ステージ上で燃え尽きる様子を観客に届ける」みたいなトゥー・ホットの音楽へと可能性をきつく絞られて行ってしまう感じがするわけですね。
チェロの音を、(ホットではなく)よりクールな方向に発展させるElectric Celloの可能性ってないのかなぁということを、日々波形とにらめっこしながら考えてしまっております。
最後に
連載を読んできてくださったみなさま、本当にありがとうございました。
なにか知られていない楽器の世界の旅で、楽しかったり、気づきがあった、みたいな点があればうれしいです。
Twitterは鍵垢でして、当面開ける予定はありませんが、コメント欄などで個別にやりとりしていけたらうれしいです。
ライティングなども(もう少し硬い文体も含めて)対応しますよ!
ではでは、ありがとうございました。