『大豆田とわ子と三人の元夫』がPrime Videoで観れるらしい
世の中的にはお盆休み。
本日、狙いすましたかのようにシンエヴァがPrime Videoで配信された。
でもちょっと待ってほしい。
たしかに、たしかにエヴァはおもしろいかもしれない。おもしろいかもしれないけど、ここはひとつ言わせてほしい。
『大豆田とわ子と三人の元夫』(通称まめ夫)も8月10日から全話配信されてますよ…!!!
ということで、ひとりでも多くのひとにこの良さを伝えるべく、まめ夫のなにがそんなに素晴らしいのか、いまから詳しくお伝えします。
①ジャンルレスなドラマ
いちおうロマンティックコメディとかいうジャンルに当てはまることになってはいる。だけど、ロマンティックとはほど遠い会話も多く、どこかシチュエーションコメディ(いわゆるシットコム)っぽさもある。
それどころか、恋愛に拒否感を示すキャラクターまで登場するあたり、従来の恋愛ドラマにナイフを突きつけてさえいる(詳しくは後述)。
②職人芸的な脚本
脚本は『mother』『カルテット』などで知られる坂元裕二さん。日常生活のあるあるネタと社会問題を巧妙にクロスさせた会話劇が特徴で、本作はその集大成ともいえるクオリティになっている。
タレの袋が開けにくいとか、クロワッサンの食べかすこぼれがちとか、フルーツサンド食べにくいとか、とにかくあるあるネタが細かい。さらに二番目の夫、中村慎森(演:岡田将生さん)による、「あいさつって必要?」といった「当たり前を疑う」セリフは、当たり前にモヤモヤしている視聴者たちにブチ刺さる。
それぞれの登場人物が放つ示唆に富むセリフの数々は、ひとによってはやや説教くさく感じるかもしれない。だけど、観るひとの肩の荷を減らしてくれるかのような、そんなパワーをもっている。
巧妙な伏線もみごとで、1話のごく短いワンシーンが最終話のアクセントになっているなんてこともある。だからこそセリフ聞き逃しは厳禁だ。
そして、いま起きている社会問題を時折しのばせることで、作品に厚みを与えている。女性蔑視的な発言を悪意なくしてくるキャラクターが登場したり、職業の貴賎によってうまれる格差と疎外がさりげなく描かれたりする。
この社会において女性が強く生きてきた足跡について、重くなく、それとなく描きあげている。
③映像へのこだわり
チーフ監督は中江和仁さん。『きのう何食べた?』でも高い評価を得た中江さんが、ドラマの世界をオシャレに、ファンタジックに彩っている。
渋谷区の意識高い街、代々木八幡や富ヶ谷、代々木上原周辺を舞台にしているのだけど、もともとオシャレな街がさらに何倍も光ってみえる。思わず歩いてみたくなる。
そのほか、テレビに映った録画リストの番組やLINEの文面のリアルさだとか、とわ子の親友・かごめ(演:市川実日子さん)の部屋にあるうちわの柄が「すいか」なこととか、遊び心にあふれている。
なかでも唸ったのは、第7話の終盤、主人公・とわ子(演:松たか子さん)と親密になりかけていた小鳥遊(演:オダギリジョーさん)が川べりへ向かって歩きながら会話をする場面。なんとここ、ふたりの歩幅と足の運び方がずっとぴったりおなじなのだ。
きもちわるい…こだわりがきもちわるい…(褒めてます)。
撮り方を徹底的にこだわれば、テレビドラマのクオリティも上がっていくことをみごとに示している。
④衣裳へのこだわり
メインのスタイリストは伊賀大介さん。伊賀さんの類い稀なるセンスによって、登場人物のファッションによって際だっている。なにしろ主人公の衣裳だけをアップしている公式Instagramがあるくらいだ。
近年では、Netflixオリジナルドラマ『クイーンズ・ギャンビット』のこだわり抜かれた衣裳が個人的に記憶に新しかったのだけど、それに対抗するかのように、ファッションを楽しむドラマが日本にも生まれた。
⑤音楽のこだわり
ヒップホップに明るくないもののわたしでさえ、飲み込まれてしまうかのようなエンディング曲、「presence」。
各話ごとに毎回バージョンが異なり、全10話をかけて5種類×2回ずつ流れる。
事前に脚本の一部とキーワードをヒントに制作されているだけあって、各バージョンのどれもドラマ本編とリンクするという、究極のタイアップがなされている。
そしてなにより、松たか子さんの歌がうまい。
とわ子は劇中でたびたび、特定の世代を狙い撃ちしたかのようにアニソンを口ずさむのだけど、それがもうめちゃくちゃうまい。まるでプロみたい…。
いや、プロだったわ、このひと。
⑥キャスティングのこだわり
わたしの大好きな役者さんが多く出ているだけに、バイアスかかりまくりなのは自覚しています。
だけどとにかく、どの役者さんもすっごく楽しそうなお芝居をされているのが伝わるし、役への愛着がにじみ出ているのがなんだかうれしい。
シナリオブックと照らし合わせてみてみると、脚本よりもさらに、そのキャラクターらしいことば選びを追求したセリフが本編で採用されているのがわかる。とにかく、役への愛がすごい。
そして、松たか子さんや岡田将生さんはじめ主要キャストのみなさんの発音が非常にキレイ。だからこそ情報量の多さにもかかわらず、聞き流すことなく、いつまでも心地よく聞いていられる。
さらに、伊藤沙莉さんによるナレーションが作品にさらなるファンタジックな雰囲気を加えており絶妙だ。『映像研には手を出すな』の浅草氏の声がドラマで聴けるなんて…しあわせですね…。
⑦令和を生きるみんなへの人間讃歌
本作最大のテーマだとわたしが勝手に思っているのが、「あらゆる生き方の肯定」という点。恋愛しなくたっていい。離婚しまくたっていい。父親が務まらなくたっていい。愛に性別を気にしなくたっていい。会社に尽くさなくたっていい。
愛情と友情は生死を越えていくし、1対1に縛られるものでもない。
みんなどこか不器用だけど、みんなどこかかわいげがあるよ、人間って素晴らしいよっていうメッセージがあるように、わたしには思える。
このあたり映画『アメリ』と通じるテーマがあるような気がする。なので、まめ夫が好きなひとは『アメリ』も好きだろうし、逆も真だと勝手に思っております。
おわりに
ということで、またまた長く語りすぎてしまった……。放送当時の視聴率はイマイチ振るわなかったけど、ぜひ配信でのキラーコンテンツになってほしいなぁと思う次第です。
このドラマを観て、ふっと肩の荷が降りるひとは少なくないはず。「いま」に悩むひと、人間関係に悩んだことのあるひと、そして人間が大好きなひとみんなに観てもらいたいドラマでございます。