たからもの
パンにジャムを塗っている時、柔軟剤の匂いを嗅いでいる時、悲しくなったりうっとりしたり、こぼれて消えてしまう宝物みたいな瞬間を 文字でつかまえていたいです。
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そんなことをあるときポンと思いついて、同時に私のテーマでもあるなと思いつく。
すぐに書こう!と思ったものの、色々なことを考えすぎて感受性がかたまりになって、ザルの上にごろんのイメージで、もっと考えないでサラサラしたい。ザルをスーッと落ちていく感受性になれば一日がもっと何ともなく終わるかな、などと考えてばかりだから、いつまで経っても書けなかった。
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小さい頃、いつも一緒にいた男の子が遠くに引っ越すことになって、男の子のおばあちゃんが 私にネックレスを買ってくれたことがある。
それは、レストランのレジの横に置かれているようなわかりやすい玩具だったけど、一番古い記憶の中の、一番最初の宝物だった。
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そういうわかりやすい宝物がどんどん見えにくくなって、見つけた時は、ぼんやりと抽象的なものに変わる。
たとえば何でもいいのだけど、自分にとって一番の歯ブラシを見つけたとか、今の気持ちとぴったりの気温だったとか、細やかな心持ちは具体的には表せない。
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パンにジャムを塗っていると、ふいに泣きたくなることがある。パンやジャム、塗るという行為が泣きたくなる気持ちと繋がっているとは思わないけど、だからといって、その涙が間違っているとも思わない。
電車の中で涙をぐっとこらえたり、駅のトイレで声をころしてひっそり泣いたり、そういう瞬間が誰かにもあったかもしれないし、なかったかもしれないけど、そこにはちゃんと言葉にできない強くて柔らかな感受性があって、それは絶対に自分しか見つけてあげられない。
その小さな瞬間を忘れないで、折って重ねて宝物にすればきっともっと優しくなれる、背骨がぴかぴか光るイメージ、きっともっと強くなれる。
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悲しくなったりうっとりしたり、ちゃんとすくって、忘れたくない。