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お話をこどもとたのしむ vol.6

北風に会いにいった少年

土曜日は、「おはなし こすずめの会」が担当している名古屋市瑞穂図書館の「ストーリーテリングのお話会」でした。
コロナ前はこぢんまりしたカーペット敷の「おはなしの部屋」で開催していたお話会ですが、今は感染を避けるために、広い集会室に間隔をとってジョイントマットを置き、参加も6組限定で行っています。今回のお客さまは、おじいちゃんと2年生くらいのお兄ちゃんと年長さんくらいの妹、パパと5歳くらいの男の子、ママと3年生くらいの女の子の3組でした。

今月のプログラムは、お正月の記憶も新しいところで、「お年玉のはじまり」(『子どもに語る中国の昔話』こぐま社)から始め、この季節の定番「北風に会いに行った少年」(『おはなしのろうそく13』東京子ども図書館)、のどかな春を感じさせる「鳥のみじさ」(『日本の昔話3』福音館書店)の三話。
和食にたとえると、名残ー旬ー走り の取り合わせですね。

私が語ったのは「北風に会いにいった少年」です。このお話は、ストーリーテリングをはじめて1年以内くらいに覚えて、この季節になると必ず語ってきました。でも、最初の何年かは「子どもたちは聞いてはくれているけれど、楽しそうじゃないな、2回目の羊をもらうあたりでだれるな」と思うことがあり、どちらかというと不得手なお話でした。けれども、今では大好きなお話です。
転機になったのは、たまたまテレビで見た「ニューシネマパラダイス」という映画です。「ニューシネマパラダイス」の主人公の少年トトは映画が大好きで、映写技師のアルフレードに叱られても叱られても、めげずに映写室に忍び込みます。アルフレードと丁々発止でやりあう元気なトトの姿が、何度でも北風を訪ねていく少年と重なったのです。
少年(=トト)の姿を心に描きながらこのお話を語ったとき、少年の台詞は自然に元気な、生命力のあふれたものになりました。聞き手の子どもたちも、すぐにこの少年に寄り添って話についてきてくれます。
今回の聞き手のひとり、おじいちゃんと妹といっしょに入ってくれた男の子は、ときどきこちらを見てはくれるのですが、下を向いてジョイントマットのつなぎ目のところを指でなぞったりしていて、お話を楽しんでいるのかどうかわからないような様子でした。ところが、少年が3回目に北風を訪ねたあと「男の子はまた、あの宿屋に泊まりました」といったとたん、「泊まるなー!」と叫んだのです。下を向いていても、物語の中の少年といっしょに北風に会いにいっていたんですね。
主人公になりきって冒険し、幸せな結末に満足するーそういう昔話の力を改めて感じたお話会になりました。

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