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お話をこどもとたのしむ vol.4

第3回 お話をおぼえる

お話会のプログラム(例3)

鳥のみじさ(日本の昔話)
 『日本の昔話5』(福音館書店)
かしこいモリー(イギリスの昔話)
 『子どもに語るイギリスの昔話』(こぐま社)
ついでにペロリ(デンマークの昔話)
 『おはなしのろうそく6/愛蔵版おはなしのろうそく3』(東京子ども図書館)

話をおぼえる理由

「お話を丸ごとおぼえるなんて自分には無理!」「暗記は苦手なんです」とよく言われます。「一字一句、おぼえないといけませんか?」「話の内容が合っていれば、自分のことばで語ってもいいのではないですか?」という質問を受けることもあります。
「私も暗記は苦手ですよ。でも、きちんと選んだテキストを一字一句おぼえてください」とお答えしています。
その理由はいくつかあるのですが、まず、自分のことばで語ったおはなしは「文学としての価値」のある「耳からの読書」として聞くに値するものになるとは限らない、ということ。
伝承の語り手といわれるような方は、今ではもう随分と少なくなりましたが、まだ残っていらして、子どもにときに親や祖父母から聞いたお話を覚えていて、それを語ってくださっています。そのような方たちにしても、お話をされるときに、その都度「自分のことば」でお話しなさるわけではなく、いつも決まった「おはなしのことば」で語られていると思うんですよね。幼いときに耳で聞いて、文学としての価値のある文体を自然に身につけた語り手も確かにいらっしゃいます。でも、私たちのように、そもそも本からお話をもらって語ろうとするものには、お話の筋がわかっていたとしても、聞くに値するような言葉で語ることは至難の業です。
ふたつめに、きちんとおぼえて語れば、聞き手に負担にならないということがあります。前回、聞くのに相応しいお話は、聞き手に負担をかけずに理解できるお話だというようなことを言いました。よく知っていると思っている話でも、ことばの細部まで決めずに話し始めると、どうしても、え~と、とか あの〜とか、余計な言葉が入ります。先にいっておかないと辻褄が合わないのに、言い忘れていて、話しが後戻りしてしまったりもします。聞き手は、ことばを聞いておはなしを頭の中で映像化していきます。でも、ことばが不確かだったり 後戻りしたりすると、頭の中の映像が、急に途切れたり、巻き戻されたりすることになります。ノイズだらけの動画を見ているようなもので、話そのものに集中できません。聞いたお話を映像化するために、聞き手はとても集中力を要するのに、その邪魔をしてしまうことになってしまうんですね。
もうひとつ、きちんと覚えるということは、語り手自身のためにも大事です。頭の中に、しっかり言葉がおさまっているという自信は、落ち着いて語るための支えになります。人前で話をするというのは大変なことです。「何か話をしてください」と言われて、聞き手を飽きさせずにすらすらと8分とか10分とか話せる人がどれほどいるでしょう。自分がこれから話すことが、一字一句、頭の中にあれば、それができてしまうんです。

丸暗記でなく再創造

では、どうやっておぼえたらいいのでしょう?いちばん大事なのは、とにかく丸暗記しないということです。松岡享子さんは、お話をおぼえるのは、丸暗記ではなくて再創造だと書いていらっしゃいます。(『おぼえること レクチャーブックお話入門シリーズ3』松岡享子著 東京子ども図書館編)第一回のストーリーテリングのお話会(お話をこどもと楽しむvol.2)で、お話を料理に例えたんですけど、料理をおぼえるのは、レシピを暗記するのとはちがいますよね。料理を再現できてはじめてその料理をおぼえたといえます。レシピを暗記したからといって料理がおいしくできないのと同じで、テキストを丸暗記してもお話にはなりません。丸暗記して、頭の中の文字を口に出していくというのでは、語りではなく「暗唱」になってしまいます。実は私も、おばえはじめたころは、お話を語りながら自分がおぼえたときに見ていた「本のページ」が頭の中にあって、その行を追うようにして話していたことがありました。それでも、最後まで間違わずに通すことができればどういう話かは伝わります。でも、そういうお話は聞いていて面白くないですから、勉強会で聞いてもらうと「覚えたてだからしかたないけどね、、、」と言われてダメ出しをもらいます。そうやって、繰り返し聞いてもらううちに、自分の中でイメージがはっきりしてきて、本のページではなく、語っているものをイメージしながら語れるようになっていきました。

お話の流れをイメージする

では、お話を再創造するためには、どうすればいいのでしょう。具体的なやり方は人によっていろいろなのですが、どのテキストにも書いてある基本的なことは、1、しっかり読みこむ:自分の想像力を十分使いながら、お話の中に流れている空気を感じることができるようになるまで読み込みます。
2、話の流れをつかむ:本を閉じて、お話の流れを言ってみる。わからないところがあれば、もう一度読み直す。たとえば、「ついでにペロリ」なら、おばあさんが猫におかゆをみているようたのむ、ねこがおかゆとおなべをのみこんでしまう、おばあさんをのみこむ、ここから外にでかけていってつむじまがりに会って、飲み込む、へそまがりに会う、五羽の鳥に会う、七人の女の子に会う、奥さんに会う、牧師さんに会う、それからきこりに会う、木こりがネコのお腹をぽんとわって、みんなが逆回しで出てきて、おばあさんが家に帰るーという流れが言えればOK。
3、場面を絵にする:映画などの映像を作るとき、場面をコマ割りにして、ざっとした絵を描いたりしますよね。わたしは実際に紙に絵を描くことはしませんが、自分が映画監督になったつもりで、頭の中で場面を絵にして、動かしてみます。
例えば、わたしの「ついでにペロリ」は実写版ではなくアニメです。最初はおばあさんの家の場面。暖炉にお粥の鍋がかかっている。そこにおばあさんとねこ。このお話の場合は、リアルな猫じゃなくて、線で書いた簡単なイラストのネコです。このお話はことばの繰り返しのリズムを楽しむ昔話なので、細部までこだわってイメージする必要は全くありません。逆に、あまり細部を具体的にイメージしてしまうと、変なことになってしまう可能性があります。リズムを楽しむお話なのに、人々を飲み込む恐ろしい化け猫と、それを退治した勇敢な木こりの話みたいになっちゃうかもしれませんね。
でも、お話によっては、きちんと細部までイメージが決まっていないと、お話が伝わらないと言う場合もあります。そのような違いは経験によってだんだんにわかってくると思います。

ことばを定着させる

さて、ここまでできたら、初めて言葉を入れていくのですけれど、言葉を定着させる方法は、人によっていろいろなので、自分に合ったやりかたをみつけるしかありません。参考になるかわかりませんけれど、私のやり方を紹介してみます。
まず、だいたい一段落ごとに読んで、その場面をちらっと思い浮かべつつ、本から目を離して言ってみます。普通は、1回目は大抵間違えます。何回かやって、まちがえずに言えるようになったら、場面の区切りまで同じことを繰り返します。区切りまで行ったら、その場面の最初から区切りまで言ってみる。集中力にもよるし、場面の長さにもよるけれど、1日に1場面くらいしか進めないことが多いです。
これを繰り返して、何日かかけて、最後までたどりつきます。
それから私は、おぼえた話を 何も見ずに書いてみるようにしています。すると、自分が覚え間違えていた言葉とか、どこがあいまいなのかがはっきりします。
そうしたら、頭の中で絵を動かしながら語れるようになるまで、何度も語ります。つぎが大事な段階なのですが、仲間に聞いてもらいます。仲間に聞いてもらってはじめておはなしは「完成」に近づくのです。自分が描いていたイメージが、自分の語り方で人に伝わるかどうかは聞いてもらわないとわかりません。たとえば、「ついでにペロリ」で、自分としてはひょうきんなネコをイメージして語ったのに「やくざなネコのように聞こえた」と言う感想をもらったら、どうしてそうなったのかを考えます。そうやってだんだんに自分のお話の形が整っていくのです。
でも、覚え方は本当に人それぞれですから、このやり方を採用することはありません。大事なことは、語ろうとするものをイメージしておぼえること、そして、それが伝わる語りになっているかを仲間に聞いてもらって確かめることです。

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