文体の舵をとれ 3
〈練習 問題 ③〉 長短 どちら も
問 一: 一段落( 二 〇〇~ 三 〇 〇 文字) の 語り を、 十 五 字 前後 の 文 を 並べ て 執筆 する こと。 不完全 な 断片 文* は 使用 不可。 各 文 には 主語( 主部) と 述語( 述部) が 必須。[ 英語 の 主語 + 述語 という 主体 と 動態 の 関係 構造 は、 日本語 に そのまま で 当てはまる もの では ない ため、 たとえば ここ では、〈 何〉 について〈 どう〉 で ある か、 の よう に 主題 を 対象 と する 陳述・叙述 が 成立 し て いれ ば よい もの と する]
アーシュラ・K・ル=グウィン. 文体の舵をとれ (p.57). 株式会社フィルムアート社. Kindle 版.
彼女がぱっと振り向く。長い黒髪が強い風に煽られる。夕日を受けて毛先が金色に透ける。輪郭も同じように淡い光を纏う。汗をかいた頬に髪が張り付いている。茶色の大きな瞳が僕を映す。白いおとがいが少しのけぞる。セーラー服のリボンがはためく。裾が少しめくれて白い腹が見える。スカートが強くなびく。腰の細いシルエットを縁取る。ねえ、と彼女は言う。形の良い唇がいたずらっぽく笑う。痩せた体が軽やかに振り返る。ローファーが堤防を踏む。コンクリートの破片が海に落ちる。(223文字)
問 二: 半 ~ 一 ページ の 語り を、 七 〇 〇 文字 に 達する まで 一文 で 執筆 する こと。
アーシュラ・K・ル=グウィン. 文体の舵をとれ (p.57). 株式会社フィルムアート社. Kindle 版.
父のその言葉を聞いた時、こたつを囲んで前日のおせち料理の残りを消化しようとしていた私達家族の反応はさまざまでーー一番上の兄は素直に驚いて目を丸くし、伊達巻を箸から取り落しかけ、真ん中の姉は食事中にはじめてスマホから目線を上げて口角を大きく歪め(その形は、姉らしくぶっきらぼうな、マジで、の最初のマの形をとっていた)、母はわずかに顔をしかめてため息をつき、足元に座った犬の鼻先を撫で、犬はいつもと変わらず母の手についた料理の味を舐め取ろうとバカみたいにしゃぶりつき(今にして思えば、一番平常心だったのは彼、いつもどおり食い意地を張っていた犬のマッキーだったということになる)、そして当の私はといえば、家族みんな甘いものを食事に混ぜられるのが苦手なのに、なぜ母は必ずおせちに黒豆を入れるんだろう、とか考えながら、食後のデザートがわりに当の黒豆を口に含んだところで、そんなことを考えていたから父の言葉の意味をとっさに把握することができず、あにぃ、と口をとじきれないまま間抜けに返答するしかなかったのだが、父は生来の性分どおりに生真面目に、もういちど、表情を変えないまま……姉がまだ子犬だったマッキーを拾ってきたときに、返してきなさいと怒る母の前で、でももってきちゃったもんな、とつぶやいた時とか、兄が彼女をつれてきた時に、苦労させられてないか、とか当の兄の前で彼女さんに聞いた時とか、きっかけがなければ思い出さないような、ささいな言葉を言った時と同じような、つまり父にとってはまったくありがちな、仕方ないよな、みたいなニュアンスを含む時の顔と同じ顔……30年近く父の娘をやってきて、何度も見た顔で、もう一度ーー父さんな、『ちゃお』に連載が決まったんだーーと、白髪交じりの頭をかきながら言った。(745文字)
レビュー
文体の舵をとった。短い文章だけで書くやつはわりと技法として見たことあって、映像から文章を出力する過程に差異がないから、大して難しくはなかったが、どうしても2,3回続けたあたりで句点でつなげたくなった。それか体言止め。名詞だけとか。
文章の長さというより、同じ構成の文が続くとリズムがよくないと思う。
反対に長いやつは、正直例文がよくわかんなかったんだけど、これが上手く書けるやつは文章の構成が上手いんだろうなとは思う。
でも文中文を何個も入れていくのはエクセルの関数を死ぬほど入れ子構造にするみたいで、やっぱりテンポが悪い。
ただ、不思議なことに、短文でパシパシカット割りをキメる時と、長文で同時に起こっていることを何個もつけたカメラで並列に描写する時とで、やってることは同じなんだよな。
題意を取りそこねたかもしれない。ともかく、素直に書いたほうがいいし、文章は組み合わせたほうがシナジーが生まれそう。
いいなと思ったら応援しよう!
![獅子吼れお](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127555088/profile_f750096552cc76eb902f417799afd696.png?width=600&crop=1:1,smart)