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真宗坊主が語るヘブバンAngel Beats!コラボ③「唐突にファザー ~オカンとアタシと弟と、ずっとアルコール依存~」

 ヘブバンAngel Beats!コラボ開催期間もいよいよ明日まで。第3弾「唐突にファザー ~オカンとアタシと弟と、ずっとアルコール依存~」について、取り急ぎ語ることにしよう。

釈迦弥陀は慈悲の父母 種種の善巧方便し われらが無上の信心を 発起せしめたまいけり

高僧和讃

 Key作品の魅力はと聞かれて、「家族愛」と答えるファンは多い。本作もタイトルから想像されるように、家族について書かれたストーリーである。

 実は浄土真宗の法話で用いられる例話も「家族愛」が定番。人間界に顕現して仏法を説いたのが、父なる御釈迦様。仏法の救いを人格的に表現したのが母なる阿弥陀様。人間とは比べるまでもない、仏様の大いなる慈悲の心を敢えて人間界で喩えるのであれば、「どんな苦労も厭わない、子を想う親心」が一番理解されやすいからだ。

 しかし現代では、「家族愛」の喩えが上手く通じなくなったとも聞く。私自身、これまでに交流があった人は、家庭環境に恵まれなかったと感じている人が多かった。その理由の一つとして、子供の養育費の高騰が挙げられる。私の二世代ほど前は、名門と呼ばれるような大学に入学するような子は、学費も生活費も只同然だったと聞く。また、貧しい家庭に生まれながらも、休日のバイトで学費を賄いながら進学したというのもよく聞く。当時であれば十分過ぎるほど孝行息子足り得た子供が、現代社会では親からお荷物扱いされてしまうという事態も少なくないのではないだろうか。

 恋愛結婚が主流になり、愛情に対する価値観が変わったことも理由として挙げられそうだ。結婚相手が好きになっただけで、子供を愛せなかった親の話も枚挙に暇がない。

 かくいう私も、かつてはKey作品の「家族愛」について、あまり共感を覚えなかった。私は親元を離れてからは特に人に恵まれていたと感じるが、その分親に養育費をケチられたという気持ちも否めない(実際当時寮生で仲が良かった子は、親がケチだったゆえに家族仲は良くない子ばかりだった)。また、職業柄両親は見合い結婚だが、恋愛結婚して円満な家庭を築くことこそが幸せであるという価値観に私自身が囚われていたので、「好きでもない相手と結婚して産まれた子供である私は愛されていない」という気持ちも否めなかった。家族愛について描写されても、所詮は創作の話。私には縁のないことだと思っていた。

 そんな私が心変わりしたきっかけは、研修時代に先輩僧侶から聞かされた言葉だった。それは、「仏様の御慈悲の心はよく『親心』に喩えられるけれど、親心と喩えて下さった先人方の長年の積み重ねこそが、仏にも喩えられる慈悲深い親心を生み出したのではないか。」というもの。仏教の経典も結局は当時の創作、言うなれば虚構に過ぎない。

 しかし、そもそも凡夫の私は真実を真実としてありのままに捉えることは出来ない。今生きている現実世界ですら、私のフィルターを通した創作、虚構に過ぎない…ただ虚構だからといって無意味というのではない。むしろ虚構こそが私の心身を突き動かしている。

 だから創作も現実のように、現実も創作のように楽しめばよいし、それでこそ変わる世界もある。かつては「これだから田舎は嫌なんだ、変な宗教しやがって。」と思っていた私だったが、そのように受け止められるようになってから、「この教えに出逢えて、本当に良かった。」と思えるようになった。

 母親の再婚相手に馴染めず、自分の新しい父親だとどうしても認められなかった子供が、成長の過程で自分の為に父親が人知れず苦労していたことに気付く。そして結婚披露宴の場で初めて父親を「お父さん」と呼び、感極まった父親はその場で泣き崩れてしまう…この流れの法話を、私は一体何度聞いたであろうか。本作の難点を一つだけ挙げるとすれば、あまりにもベタ過ぎるということ。しかしそのベタさが今となっては何とも心地が良い。結婚相手も子供もおらず、全くもって共感する要素がない筈にも関わらず、気付けば涙がとめどなく溢れ出ていた。

 子供が「お母さん」「お父さん」と呼べるのは、両親がそのように自分を呼び続けていたと同時に、両親の愛情が確かに子供に届いたから。私が「南無阿弥陀仏」と仏の御名を呼べるのも、仏様の大いなる慈悲の心が確かに私に届いているから。信じようが信じまいが、地球は太陽の周りを回っていて、まっさらな太陽は誰のもとにも降り注いでいる。それと同じように、仏様の慈悲の光は誰のもとにも届いている。そんな世界観を、これからも皆様にお伝えし、共に喜び味わいたい。南無阿弥陀仏。

 

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ネマタ
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