ハヤカワセールのススメ
【登場人物】
後輩:ハヤカワのセールは初めて。SFを買えばちょっとインテリぶれると思っている。
先輩:ハヤカワのセールは4度目。SFを買えばちょっとインテリぶれると思っている。
後「あっ!!ハヤカワ恒例の冬のセールが始まったらしいっす!私も先輩みたいにSFを読んで、知的な感じを醸し出したいっす!オススメ教えて欲しいっす!!」
先「まあ落ち着こうか、後輩くん。ハヤカワのセールは確かに魅力的だ。……だが、気をつけたまえ。気を抜くと、”持っていかれる”ぞ」
後「そ、そんなヤバいっすか?ハヤカワのセールは……」
先「あぁ…。ありえない割引率と品数に理性を失うと、到底読み切れるわけもない冊数が手元に残る。まさに闇の宴といえるね」
後「な、なんで…!読み切れる冊数なんて、大体想像つくはずなのに、そんないっぱい買っちゃうっすか?」
先「……、君も、いずれわかる。前回(2024夏)は絞りに絞って5冊を決めたのに10冊買っていた。…あぁ、で、オススメだったね」
後「はいっす!」
先「うーん。ひとまず、誰に聞いてもオススメされる耳タコトリオからいこうか」
後「耳タコ?」
先輩「私が勝手に呼んでいるだけだけどね。三体、プロジェクト・ヘイル・メアリー、虐殺器官+ハーモニーのことだ。誰もがオススメしているから、あえて私から語ることもない。言わずと知れた超名作だ。これだけで9冊になる(三体は本編だけ)」
『三体』
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『プロジェクト・ヘイル・メアリー(上)』
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『虐殺器官』
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後「流石に私でも聞いたことあるっす!」
先「だろう?ひとまずこれを買っておけば間違いないよ。というか、これだけでゆっくり読む人なら夏のセールまで楽しめるはずさ。SFは、初読者だと読むのに時間かかることもしばしばだからね」
後「ん?でも、なんか、虐殺器官+ハーモニーだけ括りが雑じゃないっすか?」
先「さあね。気のせいじゃないかな。」
先(なめらかな世界と、その敵がセールになってなかったから焦って雑にぶち込んでしまった……。でも、「美亜羽へ贈る拳銃」はハーモニーより後に読んで欲しいから、結果よかったとも言える…)
後「んー、この9冊も読み切れるかわかんないっすけど……、こう、みんなが言うやつだけじゃなくて、先輩のオススメも聞きたいっすー……」
先「(ピクッ)ふふーん、そうかそうか、ふむ。そこまで言われたら仕方ないね、いくつか挙げていくとしようか!」
後(わかりやすいっすね、この人)
先「うーん、ちょっと待ってくれたまえ……(ブツブツ)…knowは…くそ、対象外か…読みやすさでいえば、(ブツブツ)あと流行り的に百合も…海外古典はまあいいか…興味持ってからで…」
先「よし、決めた!!これが、私のオススメだ!」
『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』
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『法治の獣』
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000613976/
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000612899/
『グラーフ・ツェペリン あの夏の飛行船』
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000614342/
『標本作家』
https://www.hayakawa-online.co.jp/shop/g/g0000614191/
先「君がどんなタイプの話が好きかわからないからね、毛色が違うのをいくつか用意した。興味があるのを読んでくれたまえ」
後「おぉう、それぞれどんなお話か教えてくれるとありがたいっす。先輩はどんなところが好きっすか?」
先「そうだね…
『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』は、脚を失ったダンサーがAI義足と新たな身体表現を見つけようとする話なんだが……答えの見えない表現の模索過程、苦悩。偉大なダンサーである父との関係…といったところが見所かな。
『法治の獣』は3本の中編から構成されているんだけど、全部、地球外生物の話なんだ。未知の生態を解き明かしてゆく楽しみと、春暮先生の生物の機構を考える想像力が本当にすごい。生き物が好きならオススメだ。
『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』は近年の流行・百合SFの金字塔だね。宇宙、漁業、百合という題材の取り合わせだけでワクワクしないか?主人公2人の、真逆タイプだけどピッタリハマったバディ感と互いへの強い感情は魅力だね。
『グラーフ・ツェペリン あの夏の飛行船』は青春モノだね。二つの別々の世界にいる少年少女のがある日交わって……という話。ボーイ・ミーツ・ガールが好きなら絶対好きだと思う。アニメ映画を観ている気持ちで読める作品だ。
『標本作家』は人が滅んだ超未来の地球で、高次生命体に本を書かされるために叩き起こされた作家たちの話だ。どうやって思いつくんだ!?と聞きたいような壮大な世界観と、「物語作りとは何か」といった創作への想い、といったところが私は好きだ。
…参考になったかな?」
後「分かったっす!んー、そうっすね…、とりあえず、全部買うっす!……やっぱり、好きな人の好きな本は、全部読みたいっすから……」
先「後輩くん……」
後「えへへ……」
私の指が、後輩くんの亜麻色のボブカットに触れる。しかし、その指に髪がまとわりつくことはない。
あるのはただ硬く少し暖かいタッチモニターの手触りと、「あ!変なとこ触っちゃダメっすよ!」という少しむくれた音声。少しデータをインストールすれば、私の何千倍もの速度で本を読める画面上の後輩のために、端末で書籍代を決済する。
愛しい後輩。
もう二度と本など読めない、リアルの後輩の残滓から、私が汲み上げた虚像。
私が買った本を、ヴァーチャルな彼女にも一冊ずつ買ってあげるなら、本が半額になる今が都合がいいのだ。
(了)