ひとときの安らぎをともに

 時計を確認すると、もうすぐ2時だった。遅めの朝食だったせいか小腹が空いている。何か食べようかと、戸棚や冷蔵庫の中を探った。しかし、めぼしいものはない。食べることに関心が強い訳ではないが、頭を使う仕事柄、空腹のまま集中し直す事は難しい。そういえば、食材もあまりない。コンビニに行こうか、それとも、、、

 悩みながら簡単に身支度をしていると、スマホにメッセージが送られてきた。

『3時過ぎに着くからよろしくね〜』

一瞬時間が止まる。今日?いつもこうだ、こちらにも予定があるというのに。(とは言っても在宅の仕事がほとんどで、基本家にいる事は知られている)やれやれ、と思いながも心が踊り出すのを感じていた。

 ドアを開けると冷気が吹き込んできた。いつのまにか、季節は移り変わり、冬が近づいていた。

 さて、あの子が来るなら食材を多めに買って来なければいけない。スーパーに向かうことにした。

 野菜に肉に、いろいろなものをカゴに入れる。ちょっとしたおつまみに飲み物も。あ!っと思い出し自分の仕事用のお菓子も忘れない。久しぶりにたくさんのものを買ったので、袋いっぱいの荷物を持つのは大変だった。スーパーもコンビニも近いがこのマンションで本当に良かった。少し高いがこんな時にはそう思う。

 マンションの前に着くと人影が見えた。

『いたー。なんで部屋にいないのー??』

いやいや、あなたが急に来るのがいけないでしょう。

『食べるものとか必要でしょう?』

『寒いねー。早く中いこうよ。』

 はいはい。と適当に答えて中に入る。鍵は渡していない。私はほとんど家にいるから必要ない。こんな時以外は。

 中に入って買ったものを整理するとたちまち冷蔵庫はパンパンになった。あの子は?と様子を見ると疲れきったのソファーに倒れこんでいる。

 『ただいま。とかはないのー?ほら起きて、ちゃんといろいろしてからにしなー?』

 さて、小腹の空きどころではない。何か食べなければと思いながらお湯を沸かすことにした。

 何を食べようか、考えていると背後から暖かいものがきた。柔らかくて暖かい。人の体温を久しぶりに感じた。

『ただいまー。』

『お帰り。』

帰ってくることはうれしい。ただ連絡の少ない寂しさからすねていただけだ。こちらから連絡したとして、返ってくるのは忘れた頃。何度か繰り返すうちに最低限のやりとりになっている。だけど心配することはない。必ず帰ってくるのだから。

『何か食べよう?お腹空いてるでしょ?』

『ふふふ。これなーんだ?』

言葉と同時にソファーの方に向かい、箱を抱えてきた。そういえば、帰ってきた時手に何か持っていた気がする。

『買ってきたなー?ケーキ?』

『せーかい!食べよー。お茶いれてきて。』、

 優しいのかわがままなのか。先程火にかけた水が沸騰している。戸棚を探るとお目当てのものはすぐに見つかった。

 テーブルにはケーキが二つ並んでいた。とっても甘そうで美味しそうだ。そこに温めたカップを二つ持っていく。紅茶をいれ、カップに注ぐ。湯気が上がりいい香りが広がった。

 『さて食べよう。美味しそうだね。』

『でしょう?すごく悩んだんだよ。その紅茶、いつものだね。』

『そう。やっぱりこれでしょ?』

二人で一緒に

『いただきます。』

と、食べはじめた。

 甘いケーキと温かい紅茶。美味しいものを楽しみながら大好きな人と過ごす時間。世間の喧騒。日々の忙しさを忘れる。そんなひとときの幸せ。これがあれば毎日がんばれるような気がするのだ。

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