こんな気持ち、自分には一生縁のないものだと思ってた
おはよう。
おはよう。
今日はどうだった?
疲れた〜!
おつかれ!
眠い?
うん。
おやすみ。
おはよう。
最初からやり直し。
僕らの3ヶ月は、濃密で、淡白で、ありきたりで、運命的で、退廃的で、支え合って、励まし合って、傷を舐めあって。
つまり一言では言い表せない。いや、愚かな関係だって言葉なら表せないこともないのかもしれない。
好きとか嫌いとかを超えてた。と、僕は思っている。
好きを超えて憎しみ。
愛憎。
愛してた?
そんな訳はない。
僕たちはそんな関係ではない。
お互いに他に相手がいて。手が届かない過去の想い人への気持ちを精算できておらず。囚われの身。
そんなこんなでどうにでもなればいいって思ったり、新しい刺激が欲しかった。ただそれだけのはずだった。いっときの遊びだってお互いにわかってた。わかってたはずなのに関係を進めすぎた。
はじめは友達の紹介。お互い名前くらいは聞いたことがあったけど、そんなに興味なかった。
ちょっとあいさつをしとくかな、くらいの関心。
2回目にあったとき、やっぱりふたりしてお互いに関心なんてなかった。
でもその日からこの間違いははじまった。
お互いの行動に少し惹かれて、面白そうだって本能が反応した。これは僕の推測だけど彼女の中でもそうだったに違いない。その日以降、態度が変わったから。もちろん最初はいい意味で態度が変わった訳では無い。
ただの暇つぶし。スリルとサスペンス。間違えた。
おもちゃを手に入れたときのワクワク。そんな感じ。
僕は、他の人と色々あったから、誰でもいいから相手をしてくれる人が欲しかった。気を紛らわせたかった。ただそれだけだったのに、あまりの沼にハマっていく。
ふたりきりになって、なんてこともなく手を繋いだ。別れる前の数十秒、最初から恋人繋ぎ。
改札を通り、エスカレーターに吸い込まれる彼女を僕は歩きながら見ていたら、ぱっと振り返って僕を探して、こっちに気がついてバイバイしてきた。あまりにも可愛すぎた。
でも、その日は別に、楽しかったなー、また相手してくれるかなってくらいの気持ち。
心配だから帰ったら連絡してね。
連絡先は交換したけどなんて会話したらいいか分からなかったから、連絡する口実を作った。
これでも僕は策士なんです。
家につきました!今日はありがとうございました!また遊んでくれたらうれしいです。
はい。タラシです。その瞬間、釣れたと思った。釣れたのか釣られたのか分からないけど。
タラシ大好き。タラされるの大好き。
だって人タラシって魅力的な人が多いから。他の人はタラシって分かった瞬間に距離をとったりするらしい。自分を守るために。だけど僕は違う。進んでタラサれにいく。
馬鹿なんだよなぁって分かっているけどやめられない。というよりやめる気があんまりない。
だって魅力的な人、タラシが自分のことを見て楽しそうにしているなんて楽しくないですか?
え?狂ってる?
そう。たぶん僕は狂ってる。自分を大切にできない。自分が落ち着けたり安心できるより、ドキドキしたり、心に痛みを感じたり、負担を覚える相手が好き。
友だちに言われて少し心に来た言葉。タラサれてる可哀想な自分に酔っているんでしょ?
はい。半分くらい正解!自己肯定感が低いから雑に扱って来る人が好きだし、自分のこと大好きだからタラシがくれる甘い言葉が好き。
そんなこんなではじまった僕たちの歪な関係。
毎日一言二言だけの会話。
声聞きたいな〜って言ってみたら、今度電話してあげるわって。
その電話。勇気がなくて、僕は泥酔してからかけた。
電話ではありきたりなことを話した。声が好きだったから、後半好きってめっちゃ言ったのは覚えてる。食べ物の好き嫌いの話をした気もする。
たぶん眠くて面倒になったからプチッて切られて終了。そういう管理は得意みたい。だって人タラシだからね。
それで十分だったし、スリルとかドキドキは終了してお互いになんともいえない、別に楽しくて続けてるわけでもない会話になってきてもういいかなって思った。惰性。
そしたら突然、いま暇?って連絡が来て、どうしてって聞いたら声聞きたいなって思ったって。
はい。人タラシ。
暇です。すぐ返した。
数分だけの電話は楽しかった気がするけど覚えてない。
お互いに忘れられない相手がいることは会ったときに話したから知っていて、たぶん今も相手がいるんだろうなって思ってた。
でもなんだか積極的にタラシてくるから、沼りそうで、そう思った頃にはすでに沼ってて。
手のつけられないバカ。自分にも他の人がいるから別に楽しいならいいかーなんて思ってたけど、沼ってどんな沼でも出るのが難しい。最初に気づけバカ。
そんなこんなではい!沼りましたとさ。
終わり。
となればよかった。
それから先の2ヶ月間が地獄。本当に地獄と天国の反復横跳び。
何回かデートはしちゃうし、少し肌に触れてしまうし。もう、遊びっていうか、遊びには違いないんだけど。
冒頭の連絡。もう恋人以上に依存してるんですよ。
最初に一言では言い表せないって言ったけど依存って言葉が適切かもしれない。いや、別にお互いがいなくても問題なかったから、そうでもなかった。
毎日連絡してたらお互いに何かあった日とか、体調の悪い日をむかえたりする。それが最悪。
お互いの愚痴を聞き合って、優しくしあって。
お互いに世間からしたら変わっているタイプだったから。そうでもない?私生活、仕事とか勉強とかは順調で衣食住に困ってないから幸せでいいのに、叶わぬ相手を思い続けて、自分から不幸に突撃するタイプ。
お互いがお互いにとって会ったことのないタイプだった。
なんとなーく、頼るようになってた気がする。
彼女は僕に優しかったし、もちろんタラシだからいい塩梅のアメとムチ。僕は基本的に人に甘いし尽くすから例によってどろどろに優しくした。
誰にも優しいのもタラシかもなって思ったこともあるけど僕はムチが下手。好きじゃない人にはドライだから、もしそれで僕に沼るなら、僕はその人に興味がないからあんまり優しくしないし、どうでもいい。あれ?人タラシの定義ってなんだろう。
お互いに友だちには恵まれているし、自分の好きなことができてたからわりと幸せ。でもふたりして欲張りだからそれでは飽き足らず、お互いで暇つぶしをして、遊んで、軽く囚われはじめた。
彼女の言葉をずっと疑っている僕がいた。言葉通りに受け止められず裏の意味を考えてる僕がいた。
僕もこんなちゃらんぽらんだから、好きとか言いつつ、好きじゃないかもって揺らいで、今思えばたしかに好きだったけど好きじゃなかった。はい、ちゃらんぽらん。
そんなこんなで、時間を重ね、一言では言い表せない時間を過ごした。
その時間は突然終わりを告げた。
僕の体調がとても悪くなったのがきっかけ。それによって心がグラングランと不安定になり彼女の一挙手一投足がつらくなってしまった。
それを伝えたら優しくしてくれて、でも、弱い心で頼ってる自分のことが大嫌いだったから、そんな優しさによりつらくった。
今思えば、僕はすべての行動を間違えてたのかもしれない。線は引いてた。
その線を超えないまでも線の上に、気がついたら立っていた。
僕は言った。少しだけ時間を置いてみましょうか。
彼女は答えなかった。
時間だの距離だの恋人でもないのに置くって概念がおかしいことくらい、お互いに気がついていたけれど、それほどに僕らの関係は少しシンプルな友情以上に煮詰まっていた。
次の日から連絡は途絶えた。
最初はパニックになった。依存。昨日まであったものが二度と手に入らないかもしれない。きっともう手に入らない。どうしよう。むり。つらい。悲しい。
そうなるのは好きだったからではなく依存でしょ。知ってた、知ってたからなおさらつらい。
ここで終われば悲劇の主人公。人タラシにタラサれて捨てられただけ。
僕も大概だから心の奥をえぐられて大量の感情を引きずりながらも遊び狂った。遊んで遊んだ。遊んでいる時間は忘れられるから。
そして酒を飲んだ。これは失敗。ろくに酔えずに寂しさが増幅する。
で、いつしか気がついた。あんなに良くも悪くも濃い時間を過ごしたのにこんなあっけなく終わるんだ。人間関係って突然始まり突然終わる。
寂しい。寂しすぎる。
友だちもみんないなくなったらどうしよう。
でも、大丈夫だった。
友だちはいなくならないし、いなくなっても、生きていける。というより、なにがあっても人は運命に告げられるまで生きなければいけないし、生きられる。
裏ルートもあるけど、めっちゃつらいらしいから却下。
さて、今回の件から僕は学んだ。
強くなること。心を強く持つ。今ある幸せを大切にする。
僕の中に彼女は多分住み続ける。彼女はきっと時々僕を思い出す。
お互いにお互いを思い出す頻度は下がっても過去は完全に消えることはない。お互いに似てるから、多分過去を完全に忘れるタイプではない。希望的観測。覚えててほしいって期待?
そこで気がついた事がある。
生きていて、触れたことのある概念。
お互いに思い合っていても、綺麗だった関係が、鮮やかだった過去の延長がつらいものになる前に、別の道を行くことを決める二人の話。
好きなら目の前の人を諦めちゃ駄目だろって思ってた。
なにがなんでも手にしたいって思ってた。
けど今ならわかる。お互いに心は繋がっている。良くも悪くも。愛でも憎しみでも。楽しかった記憶でも後悔でいっぱいな記憶でも、お互いから記憶は消えない。
それでいい。色々あったけど楽しかった時間があったのはたしか。いい経験だった。よかった。出会わなければよかった二人でも、出会えて幸せだった。出会えてよかった。
この感情がきっかけで過去の想い人への気持ちも少し落ち着いた。いい関係だって、幸せだって、今ある幸せを抱きしめて生きようって。
過去の想い人と言いながら、連絡を取り続けている矛盾した人間なので、最後に来ることのない、未来を書き記します。
数ヶ月後が数年後かはわからない未来。
ねえ、私のこと覚えてる?
はい。会いたい人です。
どこかで幸せに生きていてくれたら、別の道で幸せになるなんて、綺麗事、僕にはやっぱりわからない。
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