とても素敵で奇跡的な。あるいはありきたりで愚かな。

はじまりは、とあるイベント。その時期は私の周りでは、くだらないが心を削ることばかり起きていた。あんまりにも続くものだから心身ともに疲れ気晴らしと癒しを求めていた。

そのイベントがあることは前々から知ってはいたが参加する気は無かった。なぜかって、忙しさに追われそれどころじゃなかったからだ。

前日になって突然予定があき、偶然参加者に空きが出たことを知った。まるで何かに導かれるように参加を申し込み、当日足を運んだ。

その日の天気は曇りで冬の静けさをまとっていた。イベント自体には特に問題なく進み、久しぶりに人とくだらない会話をした。煮詰まっていた考えが、軽くなった気がした。

淡々と毎月行われるイベントに参加するようになった。決められたルートがそこにあるような気がした。

何回か過ぎて春が来て新しい生活がはじまりを迎えた。学生だった私はギリギリながら無事に進級を遂げた。

心身も回復し、イベントに参加する意義も変化し、顔なじみと会う場になっていた。

イベント中は近くにいて、イベント後は一緒に夕飯を食べる。近況報告と、世間話、これからのことや、相談事。どんどん距離が近づき、イベント以外でも約束し会うようになった。

出会ってから3ヶ月ほどたった数回あっただけ。

少ししてSNSで、何気なく自分のことや将来について、相談事をしてた。会話が終わり少しして突然送られてきたメッセージ。

"どんな人だとしても、あなたのこと好きだよ"

突然のことに意味がわからなかった。相手には同棲中の恋人がいて、最近そのことを聞いたばかりじゃないか。この好きが何をさすのか定かでないが、きっと人として、友人としての意味だろう。必死に落ち着きをとりもどし、返信を考える。

どんな意味だとしても、軽々しく人に好きとか言うものじゃない。若干のイラつきと焦り。しかし、心の中では微かに別の感情が動きだしていた。

"ありがとうございます。相手がいるのに、勘違いさせないでくださいよー笑"

完全に流してしまえばよかったのかもしれない。"ありがとうございます。自信がもてました。"なんて返すこともできた。

それでも私は選んでしまった。勘違いでないとうれしい、と表明することを。

きっとバレていたのだ。そんな心の内側まで。気があるという自分でも気づいていない感情を。

そこから、私たちの間にある、イレギュラーな問題について話し始めた。

第一に現在の関係があるうちはなんの進展もさせないこと。いくら終わった関係だとしても、終わっていないうちは浮気だ。よくないと思ったし、何より自分が振り回されるだけのような気がしていた。

そして、問題は二人とも性的少数者にあたるということだった。

相手は性同一性障害で、男として生まれたが女として生きようとしている最中であった。だから現在の相手は女性で今後の関係は続けようがないらしかった。

一方がそうであっても、もう一方が受け止める度量さえあれば問題はない。しかし、もう一方である私はアイデンティティなど曖昧ではっきりとした答えは出ていなかった。

人を好きになることはわからない。家族やペットに対しての愛情はある、好きな芸能人もいる。しかし、恋愛的な好きとはどんなものなのか。また、くだらないゴタゴタで男の人に怒鳴らたり、執拗な嫌がらせ、セクハラの経験などからこの頃はすっかり男の人がダメになっていた。そして、生まれたせいである女として生きていくことに不信感や不安感、違和感を感じつつあったのだ。

自分でも複雑でわからなかった。相手が、男性ならば恐怖心が拭えず、近しい関係になることは難しい。しかし、女性だとしたら同性との関係をもつことになる。

別に同性愛に対して抵抗があったわけでもなく、憧れか親しみか、同性を必要以上に尊敬し、好意をもつことも度々あった。しかし、その時は近しい友達になれ場それで満足し、十分だった。

加えて、お互いに何も知らないと言って過言でないほど、数えるほどしか会ったことがなかった。さらにいうと、一回り近い歳の差もあった。お互いがマジョリティで男女であったとしても、考えなくてはいけないことはたくさんあった。

それぞれのことを話し合った。時間が経つのはあっという間で、夜は更けていった。

週末に会う予定を組んで話は終わりにした。結局のところ、私は拒否できなかった。そして相手は何かに焦るように、私に好意を向けたのだ。

そして迎えた週末、都内は人で賑わっていた。ドギマギしながら、ウィンドーショッピングなどをして、夕食を食べた。夜が近づき、帰る時間を意識しはじめると二人してぎこちなさが増えはじめた。

駅から遠く、逆の方向へと、二人の足は向かった。だけども現実は甘くない。お互いにかえらなければいけないことはわかっていたし、帰るつもりだった。

だが想像以上に別れるのが辛い。いつのまにか二人はありきたりの付き合いたてのカップルと同じ心境に至っていた。

付き合ってはいけない。ただの親しい友達でいなくてはならないのに。

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