【1往復だけ、匿名の手紙交換】知らない人へ手紙を書いたら返事がきた
名前も顔も住んでいる場所も知らない人へ手紙を出したら、私の手紙を読んだ人から返事が来た。
東京にある便箋喫茶。
店内の便箋や封筒で自由に手紙を書けるカフェだ。
https://www.instagram.com/binsen.cafe/
SNSで便箋喫茶の存在を知り、行こうと思ったのだが住んでいる地域の都合上訪れるのが難しく、代わりに「手紙ガチャ 一期一会 オンライン」をやってみることにした。
いつか、私の手紙を読む誰かへ
匿名の相手へいざ手紙を書くとなり、出だしから困った。
どう書き始めていいのかわからない。
〇〇年生のときの〇〇先生、この間会ったよ
あのとき一緒に行った〇〇、今は移転したよ
家で飼ってたねこ、元気?
いつの時代(小学校か、大学か、バイト先か…)にどこで何をしたか、過去に一瞬でも重なり合う経験があるという前提がないことがこれほど手紙を書くことを難しくさせるのかと戸惑った。
私は自己紹介から始めることにした。
自分の個人情報を入れずに手紙を書くことが条件となっているため、うーんと唸りながらも趣味や習い事のことを書いた。
1往復きりの手紙の返事に望むこと
もし店内の手紙ガチャで自分の手紙をひいた方がいた場合、希望すればその方は返事を書くことができる。
そしてその返事は匿名で書き手の元へと郵送される。
手紙を読む相手の素性は一生わからない。返事が来るかもわからない。
もし叶うのなら、返事が届いてほしい。そして1往復きりでいいから相手の言葉を聞いてみたい。
じゃあどんなことを私が書けば返事が来るだろう。
私は手紙の中に1つだけ質問を入れることにした。
「あなたの5年後の理想の生活について教えてください」
ちょうど転職活動をしていて生活の仕方を考え直していたこともあったし、何より相手の頭の中を覗いてみたかった。
1往復きりの手紙に返事が来た
手紙を投函して1~2週間はそわそわしていたが、「そもそも読まれているか、読んでも返事を書いてくれるかわからないのだから」と手紙のことは忘れてしまった。
秋が深まり朝晩は毛布のふわふわに身体をうずめるようになってきたころ、自宅に手紙が届いた。
便箋喫茶からだ!
シーリングスタンプの赤から紫のグラデーションをじっくりと撫で、「ビタミンカラー」という名がぴったりの黄色い封筒を開けた。
封筒にはグレーの便箋が3枚収まっていて、みっちりと几帳面な、それでいて丸くて可愛らしい字が詰まっていた。
文章から、就活中の大学生であることが分かった。
優しくて思いやりのある、真面目な方だろうと筆跡から分かった。
私の自己紹介にも1つ1つ、丁寧に回答してくれていて、時空を超えた会話のキャッチボールが成立していた。
「5年後の理想の生活を教えてください」
私の質問には、「物つくりで人を幸せにしたい」とあった。
自信たっぷりではなく、「そうなれば嬉しいけど実際は不安で…」と暗い表情も含んでいた。
知らないあなたの幸せを願う
手紙の最後に私は初めての体験をした。
「あなたの手紙は気遣いに溢れていて、読むのが楽しかった。あなたが幸せに暮らせていますように」
と最後に書かれていた。
優しくしても何かリターンがあるわけでもない、どこの誰かもわからない相手への手紙の最後は思いやりで溢れていた。
もしかしたら匿名だからこそ、上下関係や利害関係が平らになってそこに残る思いやりで会話ができたのかもしれない。
匿名の手紙のやりとりなので名前はわからない。
手紙ではお互い「あなた」と呼び合っていたが、不特定多数に向けた目の合わないやりとりではなく、確かにそこには相手の目と心を見て会話する「2人」がいた。