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嘘つきの背中など、家族が見たいわけねぇだろうが

「子どもの前で、『会社に行きたくない』と言ってはいけません。それを聞いた子どもは、働くことは苦痛なのだと認識してしまいます」

誰の言葉か忘れましたけど、最初はなるほどと思いました。

でも、しばらく経ってから思い直したんです。

ああ、これほど残酷な言葉はないなって。



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もう25年ほど金融機関に勤務していますが、おそらく1日として「ああ早く会社に行きたいなあ!!」と感じた日はないと思います。

おそらく、ではなく、絶対にないと言えるかもしれません。


金融機関での仕事は全てがつらく苦しいわけではありません。もちろん、誇らしい時だってあります。

大きな融資を実行するとき。
重要なプロジェクトが完了するとき。
昇進の辞令をもらうとき。

その他さまざまな喜びにあふれた、胸を張りたくなるときがあります。

しかし、私はそれらに近いどの瞬間も、誇らしくも嬉しくも感じることはありませんでした。

そんな慶事とも言えることが待っている朝でも。

「ああ、行きたくないな。面倒臭いだけだ…」

そう感じていたのです。

上司からの称賛の言葉。同僚からの祝福。それらを浴びてもなお、何も嬉しくないのです。


私は、この職業が向いていないのでしょうか?

いや、どちらかといえば向いている。そう、これまでのキャリアは語りかけてきます。

最速の出世。能力あるものしかつけないポジションを与えられる。そして、実績。それらは能力と職業が見事にマッチしていることを表しています。


もしかしたら、天職かもしれない。

そんな考えが頭をよぎるたびに、汚物に塗れた蛇のような嫌悪感が全身を走ります。

「冗談じゃない。こんな仕事が天職であってたまるか。冗談じゃない。冗談じゃない。冗談じゃない」


平日の朝、1日も欠かすことなく笑顔が消えていきます。

革靴に足を入れるたびに、気持ちが確実に沈んでいく。


『会社に行きたくないと言ってはいけません』だって?


軽く言うんじゃねえよ。

てめえは俺を殺す気か。

口に出すくらいしないと、狂って死ぬんだよ。

理想論で、ギリギリの人間を潰そうとするな。


そうは言っても、できれば仕事に対する恨みの言葉や態度など、子どもや家族に見せたいわけがありません。

とはいえ

「ああ、今日も仕事に行ってくるよ!楽しいなあ!!」

などと、毎日嘘の背中を見せ続けることが、本当に親としての、人生の先輩としての、やるべきことなのでしょうか?


そんなこと、ありえないんですよ。


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人生100年時代とはいえ、生産活動の中心である20歳〜65歳は特段に重要な期間です。

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