見出し画像

疑いもなく首輪自慢をするのはやめてくれ

僕の上司は生え抜きではなく、出向で来た人間だ。

悪い人ではないのだけど、困った癖がある。

首輪を自慢してくるのだ。



会議の後、しばらく部屋に残って雑談するのが好きだ。

仕事の話はもちろんだが、それ以外のプライベートの話や裏話をするのは、お互いの距離が縮まった気がして悪くない。人間は話してみないと本当のところはわからないから、雑談にはそれだけで価値があると思っている。

特に、上司と話すのは面白い。

彼は出向で他行から来た人だから、育ちからして僕や同僚たちとは違う。そうなれば、考え方なんかもまるで違ってくる。

同じ金融機関であっても結構違うもので、驚かされる部分が多々ある。まあ、基本的なクソさみたいなものは同じだけれど。

その中で、上司のかつての上司・・・・・・の話になった。混同するのでA氏としよう。

A氏は厳しいことで有名で、特に本部に行ってからはその傍若無人さに磨きがかかり、全社員から恐れられていたそうだ。

悪魔のA。それが彼の異名だったらしい。

そんなA氏は、結局役員にはなれず、役職定年の後に定年退職した。そして、公的な支援機関に再就職した。

そのA氏が、僕の上司が当時支店長をしていた支店に来店した。A氏は、営業に来たのだ。

上司は、悪魔のAが来たということで緊張して応接室に入った。

そこで見たのは、A氏が自分に対し、平身低頭し営業をかけてくる姿だった。

かつての悪魔はもういない。そこにいるのは、老人というには若すぎるただの営業マンだった。

そこまで話して、上司は僕にこう言った。

「うちの会社はね、そこら辺がビシッとしているんだよ。立場が変わったらそれを尊重し、立場なりにの振る舞いになる。線の引き方がすごいんだ」

上司は、誇らしげにそう話す。

そのエピソードだけではない。社員全員が会社の意向に徹底的に従順であることを、嬉しそうに話す。

僕は、その話をとても面白く聞いている。


だって、飼い犬が首輪を自慢している姿なんて、滑稽で笑えてくるじゃないか。


+++++++

会社にはルールがある。というか、カルチャーがある。

ここから先は

2,828字
この記事のみ ¥ 350

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?