僕と彼女と小さな娘
とても嬉しそうな笑顔で、とても小さな靴を履いた小さな足で、辿々しくもしっかりと歩く。立つ事で文字通り視野が広がった事、自由に歩けるようになった事が本当に嬉しくて世界は初めて見る楽しそうなモノだらけだね。なんて饒舌に話す事はまだ出来ないけれど、1歳半の娘はご機嫌で庭を歩いている。片手に雑草を握り、声を上げて笑いながら歩いている。
僕は縁側に座ってみていた。まだ少し危なっかしいものの、すぐに転ばなくなったので横にべったり張り付く必要は無いと思う。けれど、彼女は娘にピッタリと寄り添っている。決して目を離さない。まだまだ心配なのだろう。
娘が産まれた時から、彼女はずっと寄り添ってくれていた。娘を寝かしつけてそのまま一緒に寝ていたり、泣いたらすぐに僕を呼びに来たり。僕が忙しい時には娘と一緒に遊んでくれていた。彼女は娘のことが大好きで、娘も彼女が大好きだ。
娘はくるりと小さな体を反転させて、道路の方を向いた。彼女が娘の前に回り込んで阻止する。彼女に促されてまた家の方を向く娘。危険を回避してくれているのだが一緒に遊んでいるみたいだ。娘も笑っている。
娘がバランスを崩してまだオムツのおしりで芝生に座ると、彼女もすぐ隣に座る。娘が歩き出すと彼女も一緒に歩き出す。
また娘が道路の方を向き、今度は彼女が止めるのも構わずに進みだした。止められないと思ったのか、彼女が僕の方を向き必死で訴える。
「なに座ってるの!あなたの赤ちゃんでしょう?道路に出たら危ないの、分かってる?早く止めに来なさいよ。」
僕は少し笑って、娘を捕まえに行く。娘を右腕に、彼女を左腕に抱えてまた縁側に戻る。娘は今度は蝶々を見つけて追いかける。彼女は娘についていく。僕をチラリと見て
「ちゃんと見ていなさいよ。まったく、子育てもちゃんと出来やしないんだから。」
実際には彼女は猫だからニャーニャー鳴いているだけだ。でも表情から僕に子育てを教えようとしているのは伝わるから、きっと当たらずとも遠からず、だ。彼女のおかげで娘はきっと優しい子に育つだろう。僕と彼女の子育ては続く。