立方体の思い出 / 毎週ショートショートnote

【サイコロ風呂】

彼のアパートの立方体のお風呂はサイコロ風呂と言うらしい。小柄な私でも体育座りしないと入れない。…て言うか、不要な雑誌を紐で結んでたら「警報器の点検忘れてた！」とチャイムに慌てる彼に押し込まれた。頭から靴とバッグが降ってきて、壁の向こうから女の声が聞こえてきて…理解した。
警報器の点検なんかじゃ無い。浮気相手だ。いや。この状況はたぶん私が浮気相手だ。
冷たいサイコロ風呂の中で涙が出る。こんなの、酷すぎる。
別れる前に、最後にちょっとだけサプライズ。

ーガタッ。

「今お風呂から音がしなかった？」
扉を開けた彼女は私の涙に濡れた顔、乱れた髪、破れた服、手首から落ちる紐へと目線を動かす。
自分で殴った口端に血が滲んだ。
「たす…けて…」
かすれた声で言いながら紐で結んだ足を引きずりサイコロ風呂から転がりでる。裂いたスカートと膝まで降ろした下着が生々しさを演出する。
「違う！違うんだ！」


私のこと、絶対に忘れられないでしょ。ふふ。

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