穴を掘る
何だか歩きにくいなと思ったら、道路に穴を掘っている人がいた。
「何をしているんですか?」
汗だくの人は空を見上げながら答えてくれた。
「また冬が来る前に地下に道を作りたいの。去年は大雪で電車もバスも止まってタクシーも来なくって大変だったから。」
そういえばそんな事あったなぁ、と掘り起こされた土を避けながら進む。
公園の真ん中にある大きな欅の下で指先を真っ黒にして土を掘る少女がいた。
「何をしているの?」
涙目で顔を真っ赤にした少女は土を掘る手を止めずに答えた。
「告白したの。だけど、彼、走って行っちゃって…。言わなきゃ良かった!もう恥ずかしくて、穴があったら入りたくて…。」
そんな気持ちもあったなぁ。公園を通り抜け住宅街を進む。
角を曲がると黒い土が山になっていて道を塞いでいた。見ると一心不乱に庭に穴を掘っている。庭の土が道路まで出ているようだ。
「何をしているんですか?」
誰にも言わないからと約束すると振り乱した髪を指先で触りながら小さな声で教えてくれた。
「とうとう主人を殺してしまったの。とりあえず埋めてしまおうと思って。」
いつかそんな事もあるかもなぁ、と塞いでいた黒い土を登って降りてまた進む。
歩いていくと銀杏並木の下で勢いよく土を蹴る少年がいた。白いスニーカーが泥まみれだ。
「何をしているの?」
どうやら足で土を掘っているらしい少年は答えた。
「好きな子に告白されたんだ。だけど嬉しいのと恥ずかしいので走って逃げちゃって。もう穴があったらって…」
そんな場合じゃないだろう。
「さっき公園の欅の下で穴を掘っている子がいたよ。戻って気持ちを伝えないと、彼女が穴に入ったらもう二度と会えなくなる。」
ハッとして少年は駆け出した。掘りかけの穴の中では小さな虫が迷惑そうにしてたからそっと埋めておいた。
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